第30話 復讐完了4:カイゼル神父
「へぇ、それで?」
「わ、わわ、私は、あの時は、魔がさしてしまって……それはそれは美しい娘だったから、私は天使は本当にいたのかと、そう思ったんだ……そんな美しい娘が兵士たちに散々に嬲られる姿を見てしまった私は、神に仕える身でありながら不覚にも昂ぶりを抑えきれなくなり……」
「それで誘惑に負けて、姉さんを犯す輪の中に入ったと?」
「じ、人生で最初で最後の、一生でたった一度の過ちだったんだ…! それほどに美しい娘だった! 私は、私の心に巣くう悪魔の誘惑に勝てなかったのだ……」
「悪魔の誘惑ねぇ、便利な言葉もあったもんだな」
「わ、私が誘惑に負けたのは生涯にただあの一度だけなのだ! あれ以降は以前にもまして清廉潔白に、真面目に、身を粉にして神のために、民のために働いた! 神の教えが少しでも人々の心に安寧をもたらすようにと、力を尽くしてきた! それが彼女への贖罪になると信じて!」
いかに自分が罪を償ってきたか、早口でまくし立てるカイゼル神父を、
「贖罪だと? 勝手なこと言ってんじゃねえよ。結局お前は罪を隠してのうのうと善人の振りして生きてきたんだろうが」
リュージは怒りに満ちた言葉で切って捨てる。
「ぐ……っ」
「ったく、薄汚いクズの分際で、贖罪だのなんだの偉そうに並べたててんじゃねえよ。自己正当化の綺麗ごとには反吐がでるぜ」
「き、綺麗ごとではないのだ。あの日の生涯で唯一の過ちを、私は全てをなげうって神に仕えることで贖罪とすべく――」
「お前には一生で一度の過ちで! ほんの一瞬魔がさしただけであっても――!」
神父の『言い訳』を、もう聞きたくもないとばかりにリュージが遮った。
「ぁぅっ……」
その猛烈なまでの殺意の高まりに、カイゼル神父は完全に気圧されてしまっていた。
「――被害者にとっては一生をメチャクチャにされる、二度と越えない傷跡が残るんだよ!」
「本当に、本当の本当に申し訳なく思っているんだ、私は取り返しのつかないことをしてしまった。私はなんと愚かだったのだろうか、やり直せるものならやり直したい――」
カイゼル神父はひりつく喉を必死に震わせて、悔恨の涙を流しながら何度も何度も謝罪の言葉を口にする。
それは紛れもなく心からの謝罪だった。
たった1度の過ちをもう二度と繰り返さないと己に課した、それは清廉潔白な大司教候補の誠心誠意の謝罪だった。
だが――。
「詫びるなら地獄で詫びろ。天国にいる姉さんとパウロ兄に未来永劫、己の罪と愚かさを悔いて詫びろ」
「待ってくれ、頼む。私にはまだやるべきことがあるのだ! 1人でも多くの人を助けることが、私にできる唯一の贖罪なのだと――」
「姉さんとパウロ兄にも、やりたいことが山ほどあったはずだ」
「う……、あ……、ぐ……」
「御託はもうたくさんだ。さぁ懺悔の時間は終わりだ。その罪、死んで
「頼む、この通りだ、どうか許して――」
「ははっ、はははははっ! カイゼル神父! あんたは神父なんだろう! だったら祈るのは俺にじゃなくて、大好きな神さまになんじゃないのかよ!」
「……カハっ!」
リュージが壁越しに、カイゼル神父の心臓を寸分たがわず一突きした。
わずか20センチに満たない隙間さえあれば抜刀できるリュージにとって、懺悔室のような狭い仕切られた空間であっても抜刀するのはいとも
リュージに心臓を貫かれたカイゼル神父は、苦しむこともなく一瞬で絶命した。
そしてそれは、リュージがカイゼル神父にかけたわずかばかりの優しさだった。
「カイゼル神父。きっとあんたは今までの悪人どもと違って、根っからの悪人じゃあなかったんだろうな」
後にも先にもたった一度の過ちだったというのは、嘘ではなかったのだろう。
この神父が誰からも尊敬されていることを、リュージは事前に見聞きして知っていた。
「でもさ、それは俺にとってはなんの関係もないんだよ。俺にとってあんたはどこまで絶対的な加害者であり、何があっても許すことができない絶対の悪だったのだから」
リュージはそう言い残すと懺悔室の小部屋を後にした。
周囲はすっかり暗くなっていて、黒ずくめのリュージは完全に闇に紛れながら王宮の自室へと帰還したのだった。
―――――――
「クロノユウシャ」をお読みいただきありがとうございます。
前半パートが終了です。
だいぶ殺しましたね。
もちろんこの後も容赦なく
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なにとぞ……!
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