13-1 患者たちの回復と見つかる痕跡

 冒険者救出の緊急クエストから一週間が経過した。


 その頃になるとウルリーカも麻痺から完全に回復したらしい。


 しばしば冒険者ギルドで依頼をこなしていたテアは、お礼をしたいとパーティ三名にせがまれたようで彼らを家に招いてきた。


「二人が無事なのもあなたたちのおかげです。うちはなんとお礼を言ったらいいかっ!」


 場所は我が家の応接室にて。


 猫の女獣人、サンディは長髪がひっくり返るくらいの勢いで頭を下げる。


「ウルだけじゃなくて、俺も危ないところをありがとうございましたっ!」

「エルディナンドさんの処置がなかったら死んでいたって言われて、私……本当にありがとうございましたっ!」


 ドワーフの少年ドゥーヴルと、骨折の保護くらい腕に包帯を巻いたウルリーカも続けて頭を下げてきた。


 三人が三人ともこんな様子とは律義なものだと思う。



 それだけ思いやっている子たちが悲しみにくれないで済んだだけでも、尽力した甲斐があった。


 僕とテア、アイオーンはちらと見合わせてその充実感を分かち合う。


「エルディナンドさんとテアさんみたいな超人にはなれんわと思って無理はするまいと思っていたんですけど……うぅ。ウル、肩、痕が残りそうな傷になってごめんねぇ……」


 サンディは十四歳。ドゥーヴルとウルリーカは十三、十二歳らしい。


 旧知のお姉さんが弟分と妹分を引き連れたパーティだ。


 彼女らは順調に修練を積み、初心者エリアの溶岩洞から先にチャレンジしようとしたら、今回の変異種に遭遇したらしい。


「無事で何よりだよ。みんなは冒険者のランクとしては無理をしてなかったし、不幸中の幸いって感じだったよね」


 そう。

 仕方ない事情だったと思う。


 この数日で彼らよりも深いところを知ってしまった僕らとしてはたしなめる気にはなれなかった。


 責任を感じているサンディと、命拾いをした二人と。

 共に表情がぐずついている。


「ウルリーカちゃん、噛まれた傷を見せてもらっていい?」

「は、はい」


 声をかけてみると彼女はドゥーヴルの手を借りてすぐに腕の包帯を解いた。


 鋏角――犬歯のようなものが深々と突き刺さった跡が残っている。


 この傷だけでも釘を刺されたようなものなので少なからず腫れているものの、浮腫や壊死が続いているわけではなかった。


「うん。神経毒中心だったし、もう悪化はしていないね。これが出血毒とかの方だと、もっと広範囲に広がって酷い火傷みたいにぐずぐずになることもあるんだよ」

「ひぁぁぁ……!?」

「あ、ごめん。怖がらせるつもりじゃなくって」


 ウルリーカは獣耳をぺたりと伏せ、目にはあっという間に涙を蓄えた。


 魔法使いで元から後衛らしい小心さなのだろうけれど、今回の件で拍車がかかったのだと思う。


 そんな彼女がこれ以上、打たれ弱くならないようにできることはしてあげたい。


「症状が落ち着いているなら、悪くなった痕を切り取って縫合すれば目立たなくなるし、魔法で綺麗に仕上げられるから心配しないでいいよ。鉱夫さんの治療で埋まっているから、処置はその隙間時間になっちゃうんだけど近いうちにどうにかしようね」


 伝えてみるとどうだろう。


 彼女はそのままの顔で口をあぐあぐとさせる。


 どうにも言葉にできない様子だったけれど、僕の手を両手で握って涙を流した。




 そうしてひとまずお礼とアフターケアのやり取りを終えた後、僕らは彼らと別れてドワーフの族長のもとに向かった。


「あの子たちにも教えてあげられたらもう少し慰めてあげられたのにねー?」

「まあ、仕方がないよ。内容が内容だし」


 族長の到着を応接室で待っている間にテアと会話する。


 するとまもなく族長はやってきた。


「お待たせした。この集落の何から何まで力添えしてくれた者なのにすまんのう」

「いいえ。さほど待ってもいないので気にしないでください」


 族長の態度もずいぶんと砕けていた。


 それは鉱夫たちを鉱山病から救った成果に加え、ウルリーカたちを助けたことが関わっている。


 実際、以前の交渉についてはほぼ完遂しているわけなのだが――今回ここに足を運んだのは後者が主な理由だった。


「さて、おぬしらが持ち帰った大蜘蛛の死体じゃが、精査して確定した。あれはやはり、勇者の魔力の残滓を帯びておる」

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