ラブコメを期待するのはいいのだろうか?間違っているのだろうか?

第1話ラブコメ

 突然だが、恋というものはどのようにするのだろうか。


 出会った瞬間に恋に落ちる一目惚れという恋愛の始め方もあれば、友だちとして、知り合いとして付き合っていくうちにその人のよさがわかってきていつの間にか好きになっている、という恋愛のスタートもあるはずだ。最初は恋愛対象じゃなかったはずなのに好きになる人。人それぞれ恋の仕方は様々だ。


 じゃあもし、お隣に同じ学校の女神さまが住んでいたら、男ならば恋をするに違いないはずだ。男なら誰しもラブコメ展開を期待してしまっていいはずだ。どんな偶然か学校で評判がよく、性格は女神と謳われている彼女がお隣だったとしたら。


 そんな彼女が隣に住んでいるのだから、この環境は同じ学校の男子からしたら喉から手が出るほどに羨ましい状況なのだろう。


 何とかして関わりを得ようとしたい、もし、俺がこのラブコメの主人公なのだとしたらきっと運命で何かしらの関わりを持ち、ゆくゆくは恋人になるに違いない。そうでないといけない。


誰しもが主人公出なくてはいけない。イケメンがなんだ、運動神経がなんだ。


イケメンということでモテ、運動神経抜群でモテ、じゃあ、その二つを持たないものは主人公になれないのか。


そんな世界でいいはずがない。


前置きは、後にして言おう、ラブコメがしたい。











その瞬間、俺の意識が強制的に戻された。


「ほぉー妄想の世界に浸れるほど私の授業はつまらないか。 そーかそーか……お前後で指導室に来い」


般若のごとき顔で、担任がこめかみにしわを寄せながら睨みつけてくるのであった。


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「で、これは何だ?」


 職員室の隣にには生徒指導室が設けられている。座り心地が悪い木の椅子に古びた学校の机が置かれ、棚には生徒から没収したのか様々なものが並べられている。


 窓の外にはお弁当を片手に中庭で昼をとる生徒がちらほらいる。それも男女でだ。


 俺はその光景に何とも言えない敗北感を覚えながら、その生徒たちが中庭のテーブルに腰を落とす。女子生徒がお弁当をあけ、箸で唐揚げらしきものを男子生徒の口に近づける。


 その行為は俗にいう、あ~んと呼ばれるものだ。今ここで奴らの邪魔をしたい床に座ている身体を起こそうとするが、その思惑は衝撃と共に失敗する。


 すらっとした体型に、スーツによって半減されている上から下までのぼっきゅんぼーんが視界に映る。もし、スカートで己の身体を締め付けない緩い服装をきたらこの人はどこまでドエロになってしまうんだ。まったく恐ろしい。


 が、いつもなら冷静にそんなことを分析していたのだろうが。


 目の前の女性は、般若のごとき形相でこちらを睨みつけている。


 数学教師兼担任の九重先生が、警棒を片手に、俺事佐々木優之心を睨み続けている。


「で、これは何だと聞いている」


「さ、さぁ……」


 大人も怯みそうな眼光に怯えてしまい、答えをはぐらかしてしまった。


 すると、九重先生は座っている椅子から立ち上がり、片手に持っている警棒を自分の掌に打ち付ける。バッチーん、バチン、凄まじい音が鳴り響く。


「……私もこれでも生徒を我が子のように大事に思っていたが、初めて殺意が湧いてしまったよ」


「す、すいやせんでした。姉御、これはつい出来心なんですよ。学校に向かっているときのカップルを見たら羨ま、いや、憎たらしくて、カップルの男と来たら冴えない男で彼女の方は以外にも可愛くて、なんで、あんな冴えない男が恋人ができて俺にはできないんだ、絶対に彼女は俺とカップルのなったほうが良いのにと、青春の理不尽さで… 反省文や雑用とかなんでもしますから、殴らないで! マジで殴られたら洒落になりません」


「殴らん。最近では少しの事で体罰など監督不行きなど苦情が入って溜まらん。そんなに自分に自信があるんだったら彼女でも作ればいいだろ」


「そんなにすぐに彼女ができれば今ここに居ませんよ。先生もそうでしょ? 先生の歳でしたらもう子供がいておかしく…… ぐはッ!」


 九重先生の警棒が腹に一点突きが見事に決まってしまう。


 痛みに耐えながら九重先生をみると今まで見たことがな形相をしている、もう一度迂闊な発言をしようものなら、死を覚悟と言わんばかりの目をしている。


「次、このネタでいじったら命はないと思え」


「す、すいませんでした…。高校二年生になってここまで会話が続いたのが初めてだったのついはしゃぎすぎてしまいました」


 素直な告白をすると九重先生は「おまえ……まじか」と優しい瞳で肩をポンポンしてくれた。


 やめて、そんな瞳で俺を見ないでなんかものすごくみじめなんですけど


「まぁ~私の授業中にニヤニヤしながら書いていたからな、それなりの罰を与えないといけないな」


「ニヤニヤはしていないんですけど……」


 それに関しては後悔をしていない、一時間目の数学の時間にあの日の出来事を書かなければ、なぜか、自分が報われないと思ってしまったのだ。


「君は確か帰宅部だったな。さぞかし暇だろうな」


「お言葉ですが,物理部に所属をしていますよ」


「一度も言っていない部活など帰宅部とさほど変わらんだろう」


「いえ、入っていることに意味があるんですよ。それに、物理が大好きですからね」


 二度目の攻撃がまた同じ腹に直撃した。


「君は文系じゃあないか」


「せ、せんせい..体罰はいけません」


 痛みに耐えながらなんとか反論をする。


「これは、体罰でない愛の教育だ」


 それは、違うと言いたいがまたあれをくらうのが怖くて声を出さなかった。


(愛って、その愛を他の人に向けることができれば、結婚適齢期を逃さなかったのでは…)


「佐々木……」


「ひぃ」


 思考が読まれたなんでだ?恐いよこの人本当に怖いよ、美人なのに結婚ができない理由が垣間見えたよ。


「君は思っていることが顔に出やすいな。君はまずその人間性を直したほうが良いだろう」


「ここにきて、人間性を否定されるとは」


「まあ、いまはそんな事はどうでもいい。私はよく生徒から悩み事などの相談をされるんだよ。されることはいいにはいいんだが、最近ではすこし多くてな、他の仕事などが被って時間を割くことができないんだ」


 この流れは不味い、何かと理由をつけて帰らないといけない。


「あの、急用を思い出してしまい、俺はここで」


 すると、九重先生はポケットから機会を取り出してボタンを押した。(反省文や雑用とかなんでもしますから、殴らないで! マジで殴られたら洒落になりません)、自分の声がリピートされる。


「何でもしてくれるんだよなぁ~ 佐々木ィィ」


「……はい」


 俺は、自分の失言に後悔しながら中庭に視線を向ける。カップルと思われる男女がお弁当を片付け教室に戻ろうとしていると同時に、学校のチャイムが鳴り響く。


「文化祭も一か月後だからな」


 文化祭の憂鬱な言葉を聞きため息を吐きながら、昼飯は抜きかと思い、生徒指導を後にした。


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 放課後、いつもならカバンを持ち誰にも気づかれる事なく教室を出る日常。だが、今日に限っては違った。六限が終わり、SHRにさしあったとき担任の九重先生のありがたいお話の最後に「あ、そうだ。忘れるところだった。佐々木、放課後は校舎の外れの教室に来るように」と言われた。その言葉を聞いたクラスメイトは一瞬こちら見たが、何事もなかったように俺への興味を失くした。そんなかんやで、クラスメイトと俺の絆の再確認しながら、足を動かす。


「はぁ……。 なぜあの時数学の時間であれを書いてしまったのか」


 その一時の嫉妬で、面倒ごとを押し付けられた。カバンに入っていた携帯が振動し、中身を見る。妹からだ。洗剤を買ってきてだと、お兄ちゃんは今忙しいから、無理です。と返信し、すぐさま、カバンに携帯をしまうとすぐに返信が来た。我が妹ながらキモいぐらいの速さだ。は? お兄ちゃん友達いないでしょ? だいたいいつもお兄……のところで携帯をカバンにしまう。


 なぜ、あの返信からあの答えを導き出せるのか。確かに友達はいなくて、いつも暇をしているだがそんな事は家族じゃないと分からない事だ。


 あっ、メールの相手は妹でした。


 そんなことを考えている内に、外れの教室につきドアを開ける。中には誰もいない。


 長テーブルといくつかの椅子が並べてあるだけ、テーブルの上には紙とボイスレコーダーが置かれている。


 ”元気ですか? 君は今から放課後ここにいてください。ラブコメをしたい君には放課後学校に残ることはとても重要です。ハプニングが起きるかもね♡ 暇なときは勉強なり読書なりしてください。最低、一時間以上はこの教室にいること、これらのことを踏まえて、これらに書いていることを一つでも保護にした暁には死ぬと思ってください。先生思いの君なら守って下ると信じています”


「横暴だ。 そんな性格だから結婚適齢期を逃すんだよ。♡もあの年で使うとか、 ん? 裏にも何か書いてある」


 追伸 君は今先生は一生結婚できないとほざきやがりましたね? ねぇ~死にたいのですか?

 ねぇ~聞いていますか? ねぇ~……


 すぐさま、紙を表に戻す。ふぅ、何も見なかったことにしよう。先生のために俺の命のために。


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 それから、一時間を過ぎ帰ろうと思ったが小説が今クライマックスなのでもう少しいることになった。喉が渇いた感じ、席を立ち、自販機のある食堂へと行くが、あの先生の事だ、最低半年はこの教室に行かなければいけないだろう。だったら、この外れにある自販機にいこう。俺の好きな飲み物があるといいと思いながら静かな道を通る。


 きょろきょろしながら、自販機を探しているところで、俺は、ぴたりと足を止めてしまった。


 自販機と思われる場所に、見覚えがあるクラスメートの姿を見つけたからだ。


 思わず、壁の背にして隠れる。我ながらなぜ隠れたのかと思いながら、少し顔を出す。


 放課後から一時間がたったため、すこし周囲が暗い。何をしているか分からなかったがこんなところに男女が二人ってことは一つしかない。僕的には二つなんだけど…世間一般的には一つだというか、僕的には二つ目のほうが良いかな~って思いながら見る。「ごめんね、部活中に呼び出して」緊張しているのか声が少し高い。確かに、あの子の名前は何だったっけ? 鶴橋だったか?わからん


 夏制服で首から滴る汗、緊張してることが疑えて両手を胸にぎゅうっと握り締めている。


 その少女は顔を上げて、クラスメイトの襟川の顔を見上げた。(高身長、運動神経抜群、性格よし、イケメン悪いところなど何もない。)


 ーーああ、これは世間一般の奴だ。


 その女子は小さく息を吸うと意を決したように、夏服をきゅっと強く握りしめた。


「あの....襟川君は今彼女とかいませんよね?」


「いないよ」


「よかったぁ...私と付き合ってください」


「ごめん、君とは付き合えない」


「なんで? 彼女いないんですよね? もしかして、他に好きな人がいるのですか、もしかして立花さんの事が好きなの教室でよく話してるし」


「君には関係ない」


 襟川が告白を断ると、少女は顔を歪ませた。


 張りつめた空気がこちらまで漂ってきたクラスでのはしゃいでいるあの空気感の反対の絶望感。


 やがて、会話が数言葉を交わしたところで、襟川がこちらへ向かってくる。女子の方はその場に立ちづんでいる。


 その光景に俺は隠れること忘れてしまい、襟川の視界が俺を捉えた。


 襟川は苦笑いをした。怒るわけでもなく、恥ずかしくがるわけもなくだ。


「もしかして、見られちゃったかな」


「すまん、そこの自販機に用があってな。覗くきはなかったんだ」


「たしか、九重先生に外れの教室に来てくれって言われてたっけ? ここに居た理由がわかったよ」


 さっきまでも雰囲気がまるでなかったかのように感じる。話す話題がなくなり遂好奇心が先走ってしまう。


「なんで、告白を断ったんだ? あの子、結構可愛かったように見えるけど」


「はは、確かにかわいいけど生憎顔では判断して付き合うような人じゃないからね。それに、鶴橋さんにはすこし問題があるし....」


 最後の言葉のトーンが一段階低くなった。


「ふ、贅沢な悩みだな。俺だったら一発でOKしちゃうね」


「君と俺は違うからね」


「まったく、その通りだ」


「じゃあ、これから部活だからまたな、佐々木」


 まったく、これだからイケメンで性格がいいのは嫌いなんだ。ボッチの俺の名前まで覚えているなんて、確かにモテるは。あれは


「帰るか」


 そう言って、その場を後にした。


 あそこの自販機にいけるほど図太くもないし、あの少女の最後の言葉。


 すっかり、辺りは暗くなってしまった。廊下の照明を道しるべにして教室へと向かう。


 静かだ、だが襟川が去った後のあの言葉脳裏に浮かぶ。


 ”絶対に許さない”


 その言葉は襟川に言ったのか、それともこの場でまったく関係のないある一人の少女に向かっていった言葉なのか分からない。


 もやもやしながら、濃い一日が終わった。


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あれから、三日がたった。三日前とは違いクラスが騒々しい雰囲気が伝わって来る。


いつもなら、そんなに残っていないお昼時間の教室にも多くの生徒が残っている。中でもひときわ目立つのは襟川雄太と立花春奈を中心とした上位カーストの面々だ。机を囲んでご飯を食べてる。


これは、休憩時間などで話すときの同じく楽しくはしゃいでいるように見えるが、その光景がどこか違和感を感じた。


「ところで、春奈なんか元気ない感じだけどどうしたん?」


少し派手めな茶髪の朝比奈唯隣に居る黒髪ショートのいかにも清楚系な立花に話しかけた。


「え? あっ、何でもないよッ お弁当がおいしすぎてぼーっとしちゃった」


「そっかー。で、紫音は何してんの?お弁当は?」


「忘れた」


「もー、すこしおかずわけるから」


朝比奈の目の前に座っている背が小さい卯月紫音、こくんと頭を縦に振る。


「オカンみたいだな。マジがー、唯はもう子持ちのオカンか。 早すぎっしょ!」


茶化すように話している、いかにも馬鹿そうなチャラ男の馬場。


「きっも、一回死ねば?」


馬場は朝比奈の目線が合い、ひっっと声を上げながら襟川の背中に隠れた。


静かにお弁当を食べていた朝比奈が、ちらりと視線を上げた。


「あの、唯ちゃんとかは文化祭誰と回るの?」


その言葉を聞いた朝比奈は目を丸めた。思ってた反応違って立花はおどおどする。


「あーし、春奈と卯月とばりばり一緒に回るつもりだったけど、迷惑だった....?」


「いやいや、誘われなかったから彼氏とかと回るのかなって思って?唯ちゃん可愛いから」


「いや、あーし彼氏とかいないから、この前話したじゃん。」


「聞きような、気がするな ははは....」


「唯はこの見た目で純情」


「うっさい、紫音」


いつもと違った反応だ。卯月の頭をぐりぐりする朝比奈。いつもならその光景をみていつもなら立花が止めに入る。違和感を持った卯月が立花に視線を投げる。


立花はこの光景が目に入っていないで、ぼーっと襟川の方を見ていた。


「あの、雄太君は?」


それまで会話に加わることなく、傍で見守っていた襟川に問いかける。襟川は肩を竦めて微苦笑を浮かべた。


「……一応いるかな」


「そ、そうなんだ……」


立花は気のない返事をしながらも襟川から目を逸らさない。だが、その態度はどこか違う何かを聞きたげな顔をしていた。けれど、襟川は質問をもうここで終わりと微笑んで見せる。そうさせると、ぐいぐいいく性格ではない立花は何も聞けない。会話が途切れてしまった二人の間に馬場が入って来る。


「雄太はもう誰かと行くの決めたん 誰々教えてくんね?」


そう馬場が言うと、他の連中も興味があるのかうんうんと頷く。すこし沈黙が続くと、馬場は何かに気がついたのか、襟川に話しかけた。


「やっぱり、鶴橋さんと付き合ってるって噂はマジだった系?」


「は?」


立花を始めに、その場にいた連中は呆けたように口を開ける。朝比奈はというと馬場、やらかしたという視線を向けている。さしもの俺も衝撃を受けている。確かに、三日前に告白は断っていたよな、あいつ、顔では判断しないんじゃないのかよ……。うそだよな……?


「馬場、あんたはだま....」


他のクラスメイトもこの噂を知っていたのか視線がみな同じと事に集まった。教室には水を打ったような静けさが包まれた。


みんな注目する中、朝比奈の言葉が遮られた。


「何でそんな噂が広まってんだ」


いつもの爽やかな声ではなく低く絞り出された鋭い声。


普段とかけ離れた雰囲気を放つ襟川に面食らったようで、ここでとうとう理解したこの話題は襟川に取って触れられたくない事だと、だが謝ろうとしても言葉が出ない。その時、救世主が現れた。


「もう、雄太もそんなに怒んないの。 あんた、見た目はいいんだからそーゆ噂は出るのはしょうがないでしょ」


朝比奈は落ち着けと目線で訴えった。襟川はふっと短い吐息を漏らして口角を上げる。


「悪いな大樹、鶴橋さんには根の葉もない噂が回って迷惑だろ。この話は無しな」


襟川はいつも通り笑顔で明るく馬場にかける。


「あ……、そうじゃないと思ってだよ、悪い!!」


「いいって、今日の部活はびしばし行くからな」


悪い笑顔を浮かべながら微笑む


「まじか、手加減してくんね」


すると、チャイムの音が鳴る。


「じゃあ、席に戻るは」


襟川と馬場は席に戻る。そんな後ろ姿を立花は黙って見ている。


その肩に卯月は顔を乗せる。


「大丈夫」


「そうだよ、春奈、そうな落ち込んだら美人な顔が台無しだよ」


「うん」


そんな会話を聞いた辺りで俺は机で寝ることにした。


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やはり、休みの時間ほど心が休まる時間はあるのだろう。


ざわざわと喧騒に満ちた空間。誰も彼もが授業から解放され、それぞれ親しい友人のもとに集まり話しながら、昨日のテレビや放課後のことについて話しているものだ。飛び交う言葉はなぜ、自分の耳には異国の言葉に聞こえるのだろうか、それを聞いても何も意味がないと思い、自分はその場でうつぶせながら、時間を過ぎるのを待つだけだった。


その時、教室のドアが開き、クラスの視線が一斉にそちらに向いた。いつもなら、一瞬見てそれで終わりで教室はいつもの喧騒に満ちた空間に戻るはずだったが、一向に騒がしくならない。


ドアの前にいた人物は、鶴橋だったからだ。


昨日のこともあって、クラスのみんなはどうすればいいか戸惑っている。幸い、文化祭の部活の出し物関係で副部長である襟川はこの場にはいないのがこの空気に触れられる隙なのだろう。


「お! なになに、鶴橋さんなんか用事あるん?」


その場の雰囲気をものともしない、バカみたいな声で馬場は鶴橋に話しかける。


「はい、校門の前に立花さんっていう人の学生証明書が落ちてたので届けようと思ったんですよ」


名前を呼ばれる思ってもいなかった立花は一瞬驚いていたがカバンの中を確認してからすぐさま鶴橋のもとに向かい、笑顔で落とし物を受け取った。


「あの、ありがとうございます。朝はあったんですが、今確認したらなくなっていたので、拾ってくれて本当に助かりました」


「大丈夫ですよ。偶々、偶然、拾っただけなので」


「それでも、ありがとうございます! 何かお礼をしなくちゃ」


お辞儀をした立花は、お礼をするために何をしようかと迷っている。


「いえいえ、本当に大丈夫です。あわあわしている立花さんが見れただけで満足です」


口もとに手を当て、ふふふと笑っている鶴橋は、クラスのみんなから見ても親切心で届けてくれているのだと、だれもが思うだろう。


「やっぱり、立花さんは噂で聞いてた通りかわいいんですね。焼けちゃいますね! さぞ、中学生時代もかわいかったんでしょうね」


その言葉を口にした瞬間、立花はその場で硬直していたが鶴橋は何事もなかったように、


「では、用事はこれだけなのでお邪魔しました」


「えっ、うん...」


ぼーっとそれを見ていた俺は、あのやり取りの中で何かの違和感を感じながらも、以前の出来事もあったので、何かがあると思いながらも、卯月が鶴橋の背中を睨みつけているのを一瞬瞼を閉じるときに見えたが、睡魔が襲い瞳を閉じた。


体育館での喧騒が小さくなると、この教室にも夕日が差し込む。東から西に沈む残照が、夜闇を溶かし始める。


「そろそろ帰るか」


「お邪魔します」


さわやかな余裕を感じる涼しげな声が響く。


俺は貴重な放課後の時間を奪った本人かと思い、恨みがましい視線を扉に向けると、入ってきたのは実に意外な人物だった、本来はここにいないであろう人。


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そいつはなにやらリア充だった。これをリア充と呼ばずして何と呼ぼうかと言うほどのイケメンである。


薄い金髪であるが、そこにはチャラさが感じることもなく、さわやかであるとさえ感じる。おしゃれな制服のきずくしや、瞳はやたらにまっすぐで、俺と目が合うとこちらに笑う。こちらも、二度目なので負けじと口の口角をあげるが、まったくかなう気がしない、これがレベルの差かと思う。


俺が本能的に勝てないと思うレベルのイケメンだ。


「もう帰るのか?」


学校指定ではないカバンを床に置くと、ごく自然に椅子を引っ張り出し、俺とは椅子三つほど離れた位置に座りながら「ここいいかな?」と軽く断りを入れながら椅子を引いた。そんな仕草さえひとつひとつ自然で様になっている。


「いやー、なかなか部活が忙しくなってな。もうすぐ文化祭があるからもっと忙しくなるからな。ごめんな」


二年にして副部長をやっているから、必要とされているのだろう。だが、なぜ謝る?俺は、襟川と約束した覚えもないし、話したこともあの覗き、ごほん、自販機の帰りの短い会話でしかない。


もしかしたら、あの噂は俺の口から出てと解釈し、制裁を加えに来たのかと瞬時に思い、身構える。


「ん? どうした佐々木」


「どうしたもこうもない、何しに来たんだよ。俺とお前は友達かここで待ち合わせした覚えがないと思うけどな」


「友達だと思ってたけど、俺の勘違いだったかな」


「それよか、何か俺に用があるんじゃねぇの?」


友達だよと言われ少しうれしくなったから、話をそらしてついつい急かすような物言いになってしまったのではない。


「ああ。それなんだけど、ここって何でも屋であってるかな?九重先生が教えてもらったんだけど」


あの年増がと叫びたい気持ちを抑えながらも、気になった言葉があった。


「何でも屋?」


「困ったことがあれば、この教室にいるやつをこき使っても構わんよって言われてな。あと、逃げたら殺すとも言ってたな」


「はぁ~ 何でも屋じゃないが困ったことがあるんだろ?」


「君の性格だともっと渋ると思ったけど、案外すんなり受け入れたんだな」


「九重先生に罰でここにいさせられてるんでな、もし先生の約束事を反故にしたら、後が怖いんでね」


そう言うと、襟川はおもむろにポケットからスマホを取り出した。手慣れた手つきで画面を操作して、スマホの画面を俺に見せてくる。


その画面のLINEを見た俺は襟川のほうをぎろりと睨みつけるが、すぐさま違和感を覚えた。しかも、それ一つでもなく多くの同じ件名のLINEがあった。


『あの、告白を受け入れてもらえて嬉しかったです。これからも末永くよろしくお願いします』

『もし、暇ならどこかに遊びに行きませんか?初デートをしたいです』

『返事がないけど、忙しんですか?お返事待っています。あまり、無理しないでくださいね』


ざっと要約するとこんな感じの、LINEの内容だ。


「おい、これって・・・ おかしくないか?」


襟川は黙って頷いた。


「お前って、今付き合っている奴とかいるのか?」


「いない」


「じゃあ、なんで鶴橋からこんなLINEをもらってるんだ?」


改めてLINEを見ながら、襟川は微笑を浮かべた。


「あの日から、毎日のようにこんな内容のものが来てな少し困っているんだよ、それとな、俺の周りの友達がな最近よく怪我をするんだよ」


「怪我?」


「ああ、それも、あの日を境にしてな頻繁に起こるようになったんだ。最初は床が濡れていて滑って転ぶような些細なことだったんだけどな、放課後に春奈が誰かに水をかけられたんだよ。それもトイレで使うような。汚い水をな。そこにいた朝比奈は上から降ってきたほうを向いたけど、足音が遠ざかっていく音がして、だれかが故意的に春奈を貶めようとしているんだと思った。」


俺は、眉をひそめたが、なぜあの日を境にして襟川の周りにそのような出来事が起こるのか大体理解してしまっている。それも、襟川もこの犯人をほぼ確信的に断定しているのだろう。


「これでいいのか、お前はこの犯行の犯人は鶴橋と確定して、その悪行を暴いて制裁を加えたいってことでいいのか?」


そう俺が言うと、襟川は、苦笑いしながら言葉を言う。


「佐々木は結構過激なんだな」


「過激か… やられたらやり返すって過激とかじゃなくて普通のことだと思うけどな」


「確かにな、でも、俺は制裁を加えたいんじゃなくて、いつもの日常に戻りたいだけなんだよ」


さすがに、リア充は言うことが違うな。襟川ほどのリア充の日常を取り戻せなんて、この学内カースト下層の俺が取り戻せるものか、それに、被害を受けながらも怒るのではなく、日常を壊されないように、丸く収めたいと言っている。これほど人間ができている、その考えも襟川が学内カースト最上位にいられる理由でもあるのかもしれない。


「日常か...それって、結構難しくないか。お前ほどの人間が手をあぐねているんだぞ」


「はは、そんな俺もたいそうな人ではないよ」


「じゃあ、鶴橋に直接言って、メールの件やぼかしながらも嫌がらせの件を話して、説得すればいいじゃないか?」


「確かにその手もあるけど、その手段は最後にしたいんだよ。佐々木は鶴橋のことをどのくらいまで知っている?」


「お前に告白したのと、立花の落とし物届けていたいたことぐらいだな」


「まったく、知らなんだな」


鶴橋のことを全く知らなく、笑う襟川。


「じゃあ、この件は佐々木には気が重いかもな。悪かったな、今の話は聞かなかったことにしてくれ、人に話せただけで気が楽になったよ」


おもむろに立ち上がり、襟川はカバンをもって扉のほうに歩いていく。その後姿を見て、俺はため息を深く着く。


本当に困っているんだと伝わる。


「わかったよ、俺もクラスの雰囲気が険悪になるのは嫌だからな、俺は俺のやり方でお前の依頼を叶えられるようにするよ」


その言葉に振り向く襟川の顔は驚いていたが、すぐさま「助かる」と言葉を残しながらその場を後にする。


この教室は静寂に包まれる。


「まず整理しよう、この件でいかに自分がメリットとデメリットを負うのか」


メリット

・解決後、襟川と親しくなり、女の子を紹介してもらえる可能性がある。ラブコメを期待できる。

・クラスの雰囲気を険悪の状況がならなくなる。居眠りが心地よくできなくなる。

・学内カーストが上がる可能性がある。


デメリット

・解決失敗時、九重先生からの制裁が来る可能性大。

・鶴橋のことを全く知らない。地雷の可能性があり。


最大のデメリットは、解決する自分の流儀だろう。この可能性でメリットがすべてをなくなる可能性があるが、今は一旦置いとくとしよう。


まずは、自分の目で情報収集が必要だ。


なぜ、こんなことになってしまったんだと思いながら、帰りの支度をした。


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昨日、襟川から依頼を受けた手前、まずは情報収集だ。最初に鶴橋のところにクラスに赴き何かしたほうがいいのだろうか、俺がそこに行っても何ができるのだろうか、いきなり女子と話すとか無理だし、そもそも、俺みたいなやつが話しかけて、「うわっ、きも」って言われたら心が持たない。これは経験談ではなくあくまで一般論としてだ。


となれば、最初は襟川のグループの観察といったところか、意味がないように見えて、何かがある可能性も無きにしも非ず。


言葉を発せなくても、その人物の動きや視線など表情で分かってくる情報もある。目は口ほど物を語らず。


昼休み、襟川たちは窓際の席に陣取っていた。襟川が壁際の窓に寄りかかり、その横に馬場がおり、椅子に座っているのは、立花、朝比奈、卯月のメンツの五人がいる。


ここからわかることは実に簡単。そのグループの中に上位に位置するのは襟川ということだ。馬場にたいしては、カースト上位のお供みたいな立ち位置である。


ここのグループの主な役割はほぼ決まっているように見えた。


「でな、雄太君はさ、昨日のマジでやばかったんだよー!あの、シュート、びゅーんって曲がってさ、マジでやばかったんだよ」


「馬場、語彙力なさすぎだし、マジやばいしかわからないしー!」


「マジやばい」


「私も見たかったかな、雄太君の姿」


馬場が話題を次々と振り、それに朝比奈は面白おかしく言う、卯月はつぶやく程度で、立花に関しては、襟川のことが好きなことが伝わる。


そして、襟川はこのグループのキングだ。時に同意し、話題を振り笑い、時に馬場と一緒にはしゃぐ。


そこから、当たり障りのない風景が過ぎる。


・・・これはあまりいい収穫を得てない気がする。


こりゃ収穫なさそうだな。そう思ってため息をついたときだった。


「ごめん、ハンドクリームをとってくるね」


そう言って、立花は席を立ち、自分の机のほうに向かってくる。


その様子をじっと観察していると、立花の様子がおかしいことに気づいた。


「春奈、おそーい!」


いつまでも、帰ってこない立花に朝比奈は声をかける。立花はすぐさま笑顔で「うん、いまいく」といい、学校指定のカバンにぼろぼろになったポーチをしまった。


そして、三日の情報収集の結果、立花は誰かに嫌がらせを受けているのが分かった。主に物を壊されたり、なくなっていたりなどだ。


だが、そのことが大ごとになっていないことだ。立花が被害を受けているのにもかかわらず、そのことを隠し通しているのだ。


それから、放課後いつものように外れの教室に向かう。いまだ、襟川の日常を取り戻すことの達成には程遠い。もし、立花の今の状況を告白すれば、何かの状況を変えられるのかもしれない。またはこれまで観察しながら考えていた、ある方法の実行。そうした自分が今できる一つ一つの方法を吟味し、どれが最善の行動など考えていた、そのとき。


「-----鶴橋!」


そんな真っすぐに伸びる声が、外れの校舎に響いた。


そこにいたのは、卯月紫音と鶴橋だった。


卯月は頼りない小さい体躯で、けど視線だけは強い意志で決してぶらさず、


「いつまでこんなくだらない事をやってんの! 春奈に嫌がらせするのやめて!」


普段無口な彼女だが大声で鶴橋をびしっと指しながら、はっきりと、意思がある言葉で糾弾する。


あのグループの中で唯一。立花の変化に気づきながらも、それを他に話すのではなく、自らの体でその犯人に立ち向かっているーーー卯月は。


人気のない、外れの校舎で、真っすぐな言葉で、犯人であろう、本人に切り込んでいるのだ。


俺はその様子から、目が離せなくなる。


鶴橋は不機嫌そうに、卯月を睨み続けていたが、すぐさま笑顔になる、


「はい? 何の話でしょうか?」


心当たりがないように、しらばくれっていた。


しかし、犯人に確信めいた何かを持っている卯月は折れない。


「そういうのはいらない!雄太に振られたからって春奈に嫌がらせするとか、ありえない!」


卯月は確信めいた言葉で、鶴橋を撃つ。あたりの空気が凍てつく。


「へぇ~…」


鶴橋は推し量るかのように、卯月の全身に視線で舐めた。


そして。


「全く心当たりがないですね」


すると、鶴橋は、一歩ずつ、卯月のところへ歩いていく。


その目は明らかにやばい。敵意。


そして卯月のすぐそばまで近づき、状態を倒し、目線を卯月と合わせる。


鶴橋は、顔を卯月の耳元に近づく。


「卯月さん、なんでそんなに震えているのですか? 私は何もしませんよ?」


「ふ、ふるえてない」


震えながら言うと、一歩二歩後ろにさがった。


口元は笑っているが、目が笑っていないまま、卯月を見下ろしている。


「震えているじゃないですか」


卯月の足元はがくがくと震えていた。言葉を言おうとするが言葉が出ない。


「次こんなくだらない事で呼び出したら、許しませんよ?」


それだけ言うと、鶴橋は軽い足取りでその場を後にした。


鶴橋が完全に見えなくなると、卯月はその場に膝をつき震えていた。


「こ、恐かった...」


さすがに、ここで傍観するのはまずいと思い、卯月に声をかける。


「おい、大丈夫か?」


ビクッと体が震え、こちらに視線を向けてきた卯月。


「だ、だれ...?」


おい、クラスメイトの名前ぐらい覚えとけよ。


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教室の外れ。いつもと変わらない殺風景な空間な自分の椅子の位置と椅子五つほど離れた位置に座っている卯月紫音。


いつも違う教室に女の子が存在するだけで、なぜ、こんなにも、ときめいてしまうのでしょうか?


正解は、童貞だからです!!てへぺろ。それしか思い浮かびません。


それと、俺の視線に何かを感じたのか、夏服のTシャツにサマーベストの上に、ブレザーを羽織った。


「なあ」


「…あまりじろじろ見ないで」


卯月はふっと短い溜息を吐いてすぐさまこちらの視線を逸らす。


(なんか、キモオタが席が近くなって、嫌がるみたいな態度されると落ち込むぞ、確かに、じろじろ見ていたけども)


そこから、静寂が続くが先の口を開いたのは卯月のほうだった。


「さっきのこと、春奈には言わないで」


「ああ、別に言いふらすことはしないが、卯月さんも結構大胆なことするんだな」


「春奈が悲しんでたから、絶対に鶴橋が嫌がらせをしてるって分かってるから」


卯月がそう思うのは決定的な何かがあるはずに違いない。立花のこの数日の、嫌がらせの件に関してもだ。


「ふうーん、証拠はあるの?確かにポーチとかボロボロにされていたけど、ほかのだれかかもしれないかもしれないだろ」


こちらに向いていなかった顔をすごい勢いでこちらに振り向く、驚き半分、怒りが半分。


「知ってたんだ。春奈が嫌がらせを受けているの」


「たまたま、偶然、見ただけどな」


教室は静かだった。


卯月は唇を噛み締めながら、スカートの裾を強く拳を握りしめた。


「なんで、助けようとしないのっ! あんな、酷いことされているの見て見ぬ振りができるのっ!」


怒気を強めた口調は、静かだった教室に響きわたる。


確かに、いじめともとれる事をされている状況を知っておきながら何もしないのは、確かに、悪であるといえよう。だが、そのことを知り、何も計画を立てずに、止めに行くのは最悪の中の最悪だ。その結果、何が起こるのを全く考えていない。その結果、更に大切なものを失う結果になることを理解していない。


だから言おう、見て見ぬふりをしている自分より、残酷なことをしているのかを。


「で、俺が知っていて助けるメリットはなんかあるのか?」


「メ、メリットって...」


「まあ、助けてメリットがあるよりも、デメリットも方が大きいような気がするのは俺の気のせいか、まずは、整理しよう。なぜ卯月は、嫌がらせの犯人が鶴橋だと思ったのか、教えてもらってもいいか?」


そこから、俺の言葉に反論をしようと意思を見せた卯月だが、空気を察知して、鶴橋について語る。


「鶴橋は中学生の時に傷害事件を起こしたことがあるの...」


それから、語られるのは思ったより闇が深い。

この話を簡単に説明すると、鶴橋が好きだった男子に彼女ができ、それに嫉妬し、その彼女をナイフで刺してしまったのだと、だが、これほどことが大事になっていないのは、学校側が隠し通したのだと言う。


内心俺は、この件から身を引きたいと思いながら、話の内容を整理した。


「大体わかった。卯月さんが震えてた理由と、思っていたより鶴橋がやばい奴ということも。それを踏まえて、確認なんだが」


「なに」


「お前、立花のこと嫌いなの?」


卯月は俺の言葉に困惑しながらこちらをじっと見ている。顔には、そんなわけがあるはずがないと、何を言っているのか分からないと物語っている。


言葉を言おうとする卯月の言葉を遮る。


「何言ってるかわからないって顔だな。まずはさ、お前が行動した事って立花のためではなく自分のためだろ。俺だったら、立花の為だったら、あんな愚かなことはしない。だって、話から鶴橋にその言葉を言っても無意味だ、それに、立花の嫌がらせがエスカレートすると思わなかったのか?」


言葉を失った卯月追い打ちをかける。


「鶴橋の目から見てな、襟川と立花は恋人関係に見えなくてそれに近い関係に目には映るはずだ。今の状況でも危ないのに、追い打ちをかけたのが、お前の行動だよ。鶴橋はこう思ったはずだ。私の好きな人から遠ざけようとしていると。嫉妬心が強い人は、自分勝手なんだよ。これは俺の予測なんだが、邪魔者の立花を排除すれば、襟川は自分のものになると思っているよ、あれは」


俺にそう言われた卯月は、口をパクパクさせている、顔から血の気が引いており、青白くなってしまった。彼女の瞳から大きな涙が流れていた。


「どうしよう、どうしよう、春奈が死んじゃう、どうしよう」


いくつか抜け落ちて知っている卯月は、顔を俯かせた。嗚咽をこらえる小さな息が漏れ聞こえてくる。


きっと今まで自分がしていた行いがどんな結末を引きを想像したのだろう。だから泣いているのだろう、失ってしまうかもしれないと、襟川の言う日常が壊れてしまうかもしれない恐怖。立花春奈を、彼女が取り巻く環境が崩壊してしまうと。


だが、過ぎたことを引きずってはいけない。人は過去には戻れない。タイムマシーンがあればどれほどよかったのか。人は未来を進むことしかできないのだ。


であればこそ、俺には聞いておかないことがある。


「立花は卯月に迷惑をかけたくないから、お前に知られたくないから隠してたんだよな。だったらな、現状を悪化させたお前には泣く権利があると思うか?」


この言葉はさすがに自分でもひどいと思っているが、勝手に踏み込んで、勝手に絶望する彼女は身勝手だと思ったからだ。


踏み込まれることを、知られることを望んでいな相手の環境を壊した彼女は、泣く前にすることがあるのではないのか。


だから、ここでは過去に犯した過ちの懺悔をするのでなく、未来に向かっての提案が必要になる、だから言おう。


「助けたいか? 立花を?」


卯月は答えるのを迷わなかった。


涙目で俺を見て、ぎゅっと拳を握る。


「助けたい。……春奈の日常を壊したくない」


瞳を潤ませ、震える声で、けれども、確かな答えを口にした。


「わかった。なんとかする」


だが、彼女は思いだろう。なぜ、そこまでするのかメリットとかデメリットとか先ほどまで言っていた人物が何とかすると言われても、実感をわかないだろう。


だから、この教室にいる意味、襟川から聞いた言葉を言おう。


「生徒の困りごとは、この何でも屋、佐々木勇之心にお任せあれ!」


その日に境に、佐々木勇之心の取り巻く、日常が変化の始まりなのだ。


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外れの校舎の自販機につなぐ廊下。


昨日の出来事を思い出す。やることが複雑になっていく。


ここ問題をより、完璧かつ、わだかまりなく解決するのが絶対の条件だ。

一つでも、予想外な結果が起これば、日常という環境の崩壊を意味する。すなわち、バッドエンドである。


卯月が想いを口にしたとき、あの時


「まず、卯月にしてもらいたいときは、一つだ。立花のそばに居続けること」


「……それだけ?」


「ああ、立花の嫌がらせは止まないと思うが、身体的な被害はそれである程度回避できると思う」


「わかった、春奈から離れない絶対に!!」


彼女の瞳には揺るがない決意が表れている。


「で、最後に。これを聞かないといけないんだけどーーー」


そして俺は、最後にこの問題についての、最後の重要なピースを、


「ーーーありがとう、これで何とかなりそうだわ」


ピースは全て揃った。


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午後十七時三十分。


文化祭の日まで、残すところ二週間に迫る。クラスにもそれぞれ、文化祭の色の話題が上がっている。


そんな校内でのこと。


「っ……」


ある他の教室にて、鶴橋は嘗てない緊張にその身を震わせていた。


その意識が向かう先は、自分の机の上にあるあるボイスレコーダである。自身の手のひらに強く握りしめている。


「な、なんでっ……」


今までは、余裕を感じさせていた美少女面が、しかし、急転直下の青白さを晒している。まるで現実が信じられないと言われんばかり。その様子は酸素が枯渇した雑魚のように、パクパクと口をしている。


「なんで、こんなのがあるのよ……」


そのボイスレコーダーから流れているのは、あの日、鶴橋が襟川に告白した内容なのだ。


俺は、鶴橋のもとに向かう。手を伸ばせば触れられる距離から、その背に向けて声が発せられる。


「それ、返してもらえます?」


「ひっ!?」


「それ、借り物だから」


ピクリと大仰にも肩を震わせて、鶴橋は背後を振り返る。


「あ、あなたは...?」


「ここで、部活をしている、ただの生徒ですけど、なにか?」


煽るように、が何しているような声音で言う。


これを目の当たりにして、ふと、鶴橋は思い当たった。


「まさかっ、あ、貴方なのっ!?」


「・・・何の話?」


「これを私に聞かせて、何を企んでいるのよっ!」


どうやら彼女は、自身の手元にあるボイスレコーダーの持ち主である俺が、何かを企む、何かをしようと思っているのだろう。ギョロリと睨みつける。


「企んでいる? 全く話が見えてこない」


「とぼけないでっ!」


俺は、鶴橋の興奮状態にここまでかと、ラインを引き、本題を切り出す。


「わかった。単刀直入に言う。立花の嫌がらせ、襟川の接触をやめろ」


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簡潔に用件だけを伝える。


すると、鶴橋は不安げに眉をひそめた。


「な、なにを言っているのかわかりませんね...」


言うと、鶴橋は折れに背を向けた。あくまで、知らないという意思表示らしい。


「残念ながらとぼけても無駄でな、潔く認めて、今後近づかないことを言ってくれると、助かる。近づくんだったら俺にしたらどうだ」


我ながら説得が下手だと思う。


これでも、言葉を選んでいるほうだ。


「近づかないで……って、貴方には関係ありませんよね」


おっ、最後のジョークはスルーされました。


どうやら、状況が整理できたのか、言葉に落ち着きが見えた。


「ああ、確かに関係ないな。だが、お前はあいつらに近づくのはやめたほうがいいぞ。さすがの、襟川もメンヘラ、ヤンデレ属性を併せ持つお前とは付き合いたくはないと思うからな。あまつさえ、他人を傷つけて平気な顔をしている人間が襟川がこの世で最も嫌うことだ」


すると、鶴橋はふっと笑う。


「違いますよ、私は雄太君と付き合っているんですよ?付き合っているのに、雄太君のべたべたしているあの女に何かしても問題はあるはずがないじゃないです」


「付き合っているか。なぁ、一回でも襟川の口から好きって言われたことがあるのか? じゃあ、あいつに電話して好きって言われたらこの件については俺は何もしない」


「ほら、電話しないのか? もしかして、番号がわからないとかじゃないよな? 付き合っているから、電話番号ぐらい知っているよな? ラインの電話でもいいぞ、電話できるんだったらな」


鶴橋は徐々に顔を歪める。彼女は、襟川に電話ができるはずがないのだ。LINEはブロックされており、襟川の電話番号を知っているものはごく一部。


だから、俺はスマホから電話帳を開き、それにかけた。


スマホのスピーカーからプルル、プルルと鳴り響く。


『おう、佐々木どうした? 佐々木から電話くれるの初めてじゃない』


『聞きたいことがるんだけど、時間いいか?』


『いいぞ、少しだったら』


『お前って、鶴橋のことどう思っている?』


『なんだ、そんなことか決まっているだろ』


鶴橋は掠れた声で、「やめて」っと弱弱しく言うが、俺は無視をした。


『大っ嫌いに決まっているだろ』


『そっか、わかった。またな』


スマホしまい、鶴橋のほうに視線を向ける。


「そんなはずはない、だって私はこんなにも好きなのに」と今起きている現状を、受け止めようとせず、現実逃避を始める。その顔には涙が流れていた。


だから、タイミングはここだ。まったく、本当に嫌になる。こういう方法しか思いつかない自分と、それが最善だと思う自分に、鶴橋が今まで行ってきた事が涙一つで許されるわけがないのだ。目には目を、歯には歯を、暴力には暴力だ。


はぁーっと深く、長く、蔑むように息を吐く。


「本当に哀れだな」


その一言が、場を支配する。


「鶴橋。お前さ、誰かに好きになってもらえる権利があると思っているのか?告白してさ振られて、自分を好きになってもらう努力もせず、好きな男子の周りの人達を排除して、邪魔者がいなくなったら本当に付き合えると思ってたとしたら、お前は本当の馬鹿なんだな」


「ち、ちが……」


鶴橋は震える声を無理やり遮る。


「違くねぇーよ。中学生時代のことも知ってる。好きになった男子の彼女ってお前よりさぞや、性格もよくてかわいかったんだよな?何もかも、自分より遥かに格上の存在。見た瞬間負けを悟り、努力をやめ、蛮行に走った。今の現状も同じだよ、お前、心のどこかで、立花には絶対に勝てない認めたんじゃないか?」


鶴橋の瞳はもう潤んでいない。からっからに乾いた目はが弱弱しく睨みつけている。


俺は、それでも反論を許さないように、鶴橋の心を壊すように、更に追い打ちをかける。


「認めろよっ! お前じゃあ、絶対に立花に勝てな」


言いかけたところで、言葉が途切れた。代わりに、扉がバタンと開く。


「やめて! そーやって鶴橋さんを攻撃するのはやめて!」


静かな教室に響いたのは、芯のある声で、正しくて、美しい声。


俺は心の底から、驚いていた。


だって、そのとき。立花春奈がそこにいたのだから、いつもの教室では出さない大きな声で、俺の鶴橋への糾弾を注意したのだから。


「佐々木君だよね? 話は途中から聞いてたけど、さすがに言いすぎだよっ!」


すると、立花は鶴橋のもとに近づき肩に振れ、支える・そして優しい声音で。


「佐々木君と何かあったか知らないけど、私は知ってるよ。鶴橋さんは本当に雄太君のことが好きで、私に嫌がらせしたことも、でもね、そんなの普通なんだよ。好きな人が取られちゃう、好きな人が私を見てくれないって、とても、つらいよね。どうしていいかわからなくなるよね。それが、鶴橋さんはどうしようもなくてエスカレートしただけで。鶴橋さんは、格下とかじゃないよ! 私以上に魅力的な女の子だもん」


鶴橋の瞳から大粒の涙が流れ始めた。今までの行いを懺悔するかのように、立花のほうを向き、


「ごべんなざい、ごべんなさい...」


立花は鶴橋を包み込むように、抱きついた。俺はその姿が、女神の抱擁でさえ勝てないと思えるほど、神々しいものだった。


「うん、いいよ!」


俺はその姿を呆然と見ていることしかできなかったが、俺はその場を後にした。


いつものように、外れの教室に向かう。


そこで俺は思う。


卯月に聞いた通りの、


立花春奈、彼女が本当にやさしい人でよかった。


人が傷ついている姿をほっておけないのが立花春奈で。


目の前で今でさえも、傷つき、心が、何もかもボロボロにされている彼女を見て見ぬふりできない人でよかった。それが、自分に嫌がらせをし、傷つけた相手でもだ。


この依頼を解決するもっとも簡単の方法は、立花春奈の優しさなのか。


確かに、簡単だ。もっとも簡単で、多くが傷つかないいい方法だと俺も思うが、俺の中にその方法はない。


だって、やられたらやり返す。


傷つけられたら、それと同じぐらい相手に傷つけないとフェアでない。


俺の流儀は、目には目を、歯には歯を、だがなぜかその先の言葉は思い浮かばなかった。


===========================


「佐々木」


外れの教室の廊下、自分の名前が呼ばれ振り返ると、九重先生が窓側に背中を寄りかけながら笑っていた。


「お前がしたい、ラブコメはできているのか?そんな浮かない表情して何かあったのか?」


九重先生は俺に背を向け、窓の景色を眺めている。


「最近、誰かさんのせいで忙しくて、ラブコメなんてできませんでしたよ」


皮肉めいた、棘がある言葉で九重先生に言うが、九重先生はその言葉を意図にも変えず笑う。


「その誰かさんはさぞや、お前のことを大切にしていることがわかるな」


窓から吹く風でほのかに香る柔軟剤の匂いとが近づいて、肩に手をのせてくる。改めて思う、こんな暴力的で先生の手はこんなにも柔らかな指先。あらためて、女の子なのだと思った。


「私は、前のお前より、今のお前のほうが断然にいいと思うぞ。ラブコメがしたいと言葉では言うが、行動に移さなかった君が今や、行動をしているのだから。 では、私はまだ仕事があるから、またな」


「なんだよ、それ………」


===========================


この廊下の通り、外れの教室へち向かうようになってからまだ二週間程度しかたっていない。


外れの教室、今更ながらここの教室の名前は何なのだろうかと思う。


扉の前に立ち、扉を開く。


いつもの変わらない、何もない教室。


けれど、そこにあまりにも異質に感じられる一人の少女がそこにはいた。


椅子に座り込みただただその場で、手をもじもじしていた。


何もない、教室になぜ女の子がいるだけで、この教室がいつもの教室ではなくなっているのかが不思議でならない。


ーーあまりにも異質な光景で、視線が動かせなくなった。


立ち尽くしたままの俺に、卯月が気づいて、こちらに向く。


「・・・あまりじろじろ見ないで」


その言葉には、心なしか嫌な感じを感じなかった。


「あ、悪い……」


そこから、静寂が訪れる。誰もしゃべろうともしない。


「鶴橋の件は一応丸く収まった」


「そう、ありがとう……」


その言葉には嬉しさがにじみ出ていた。


「それと、立花はすごい奴ってことが分かった」


「うん、春奈はすごいよ」


そういえば、なぜ卯月はここにいるんだろうか。


「で、お前、ここに何しに来たん」


「これ、文化祭の出し物が何がいいかの、アンケートを書いてる」


アンケート?そういえば、HRの時に、文化祭の出し物がスムーズに行われるようにそんな紙をもらったような気がしないわけでもないな。


「じゃあ、俺も書かないとな」


ペンを走らせながら答えていく、卯月は俺の手元の紙を凝視する。


すると、ぼそぼそと「石閲覧館……。おもしろくなさそう...」とつぶやく。


おい、石閲覧館をなめるなよ!面白いぞ! たぶん。難しい顔をして悩む俺を見た。卯月は小さく笑っていた。


ここで、先ほどの九重先生の言葉が分かった。この状況ってラブコメっぽくね!?


ーー俺と彼女はある出来事で関りを持った。


ーー彼女の助けてほしい言葉を遂行した(結果的に)。=惚れないことがおかしい


ーーこうして、彼女といる時間が心地よく思っている自分がいる。


結論、いま俺は、ラブコメを期待してもいいのではないのか? いや期待していいはずだ!


ーーなら、


ーーここで俺が言うことは。


「……なぁ卯月。俺と付き合わ」


「付き合わない」


「ほえ」


即答である、言葉を遮られ、全部を言いきっていないのか変わらず、即答されてしまった。それと、俺のではない変な声が出た。


卯月は即答しやがった。だが、彼女はくすっとおもしろく笑って。


「でも……友達ならいいよ」


こちらに、真っすぐ、強い瞳を向けてくる。俺はその視線を逸らすことができない。


「わかったよ」


俺がそういうと、卯月の顔がにっこりと微笑む。


「うん!これからよろしくね! 勇之心」


「お、おう…よろしくな、紫、紫、卯月」


「ヘタレ」


勝ち誇ったように、卯月は言う。


だめだ、俺のレベルには学内カーストトップのリア充に勝てるレベルには達していない。そんな可愛い顔で言われたら反論もできない、


だが、友達という響きも悪くはないと、心の中でひそかに思った。


「佐々木はいるか? お! 卯月ではないか。お前たちは知り合いだったのか。よきかなよきかな!

それと、ほい!」


九重先生が表れ、俺に向かって鍵を渡してきた。


「ここの鍵だ。なくさないよう、管理するように。お前たちも早く帰るんだぞ」


すぐさま、帰っていった。


「まったく、なんなんだよ。明日でもいいだろ」


「じゃあ、そろそろ帰るか?」


卯月に向かって言う。


「わかった」


二人は教室に鍵をかけ、外れの教室を後にした。


佐々木勇之進は気づいていなかった。二人の椅子の距離が三つ離れていることに。




















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ラブコメを期待するのはいいのだろうか?間違っているのだろうか? @akatukiqqqq

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