第32話 合理的関係

「何をしているのだ、お前はっ!」

あの後、騒ぎを聞きつけた私は騎士に拘束された。

アイルは「私の親友に乱暴なことしないで」と騎士に訴えていた。

これも乙女ゲームヒロインによくいるお優しいキャラを演じているだけなのだろうかと私は冷めた目で見ていた。

「カーディル殿下とアシュベル君に感謝をするのだな。あの二人が弁護してくれなければ今のところ、不敬罪で牢屋だぞ」

アシュベルとカーディルは王女宮の侍女が流している噂に疑問を抱き、アイルが流している証拠を陛下に提出してくれたのだ。

そして今回の口論はそれが原因。

王女に怒鳴るのは不敬罪だが、あらぬ噂を流すのは悪質な行為であり、王族と言えど貴族を貶めて良い理由にはならないと言ってくれたのだ。

それで情状酌量の余地ありということで今回はお咎めなしだった。

なぜかアイルが陛下に「ミキちゃんを許してあげて」と涙ながらに訴えていたけど。

だから私はミキちゃんじゃなくてレイファだって言っているのに。

アイルは私の噂を流したのは最近、私が遊びに来てくれなくて寂しかったからだと陛下に言っていた。

これにはさすがに陛下も叱りつけるまではいかなかったけどアイルに注意をした。

あんなお優しい注意の仕方で子供が言うことを聞くはずもないのに。

「王宮からお前が騎士に連行された聞いてどれだけ心配したか」

“レイファの家族ってレイファを愛していないでしょう”

「心臓が止まるかと思ったんだぞ」

分かっている。

お父様が私を出世の為の道具としか思っていないことぐらい。

私だってそうだ。

お父様を愛しているわけじゃない。

自分が生き残る為だけに利用している。何も問題はないじゃないか。利用し、利用される。実に合理的な関係。

そんなことで傷つくはずもない。

「‥…お父様、もし私が死んだらどうなさいますか?」

「何を言っているんだ?お前が死ぬわけないだろう」

疑いもしない返答に笑いそうになった。

そう、普通はそうなのだ。

約束された明日などないのに誰もが朝は当たり前のように来るのだと信じている。疑うことすらしない。私だってそうだった。さっきまでは。

「そうですね」

私はいつ、どこで死ぬのだろう。

何の情報もないのに自分の身を守れるだろうか。

「アシュベル君とカーディル殿下には後でお礼を言っておきなさい」

「はい」

良かった。

万が一を考えて権力のある攻略対象者と仲良くしておいて。

「しかし、お前がまさかカーディル殿下と親しかったとは。もっと早く知っていたら婚約話を持って行ったのに」

私はこの世界に転生してから、この世界が乙女ゲームの世界だと知った時から人を利用することしかしていない。

これじゃあ、お父様と同じじゃない。

やっぱり親子だから似るのかしら。ああはなりたくないと思っているのに。

いつまで続ければいいのだろう。こんなこと。

「そう言えばアグニとか言うあの男爵令息がお前にいろいろプレゼントを寄こしてきている。全く、男爵風情が身の程を弁えて欲しいものだ」

「それ、どうしたました?」

「ん?全部、送り返したが」

あら、珍しくいい仕事をするわね。

「間違ってもあんな男に引っかかるんじゃないぞ」

「気持ちの悪いことを言わないでください」

「す、すまん」

思った以上に低い声が、しかも殺気が混じった状態で発せられたので父を怖がらせてしまった。

「邸にもお前に何度か会わせろと来ていた。お前と約束をしたと。したのか?」

「するわけないでしょう。何の為に急いで婚約者を用意してもらったと思っているんですか?変な誤解をした王女殿下と勘違いをしている男爵令息に外堀を埋められない為ですよ」

「そうだったな」

「王女殿下が男爵令息を連れて我が家を訪ねたいということを言っていました。男爵令息は絶対に上げないでくださいね」

「当然だ。お前はここまで育てたのは男爵なんて下位貴族に嫁がせるためじゃない」

清々しいぐらいの道具宣言をありがとう。涙が出そうだわ。

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