第28話 食い違う話

ユニアス視点


「公女様の指南役ですか?」

「ああ。娘が彼女のことをとても気に入っていてね。彼女も娘といる時間が多いから護身術ぐらいは使えた方が良いと思うんだ。それに、お友達の中にも護衛一人ぐらいあった方がいいだろう。王女という立場上、危険を伴うからね」

城の奥の部屋から出ることがない箱入り娘に果たして必要だろうか。

王女殿下を溺愛している陛下の命令により、傷一つつけないように命じられた騎士が常についている。そんな王女に更に護衛を増やすという陛下の考えは理解できない。

それも護衛に任じられるのは公爵令嬢だ。平民や下級貴族ならともかく公爵家の娘が王女の護衛騎士というのは些か酷ではないか。

「陛下、もし公女様のお体に傷がつけば彼女の未来を閉じることになります」

「?。王女を守る為についたのならそれは名誉の傷。未来を閉じることにはなるまい」

本物の騎士や男なら傷は勲章にもなる。だが、令嬢だぞ。傷が残る令嬢にまともな縁談など来るはずがない。

公女の噂はよく耳に入って来る。

王女宮の侍女には嫌われているようだ。権力を笠に着たいけ好かない女だと言われていた。

王族と親しいものは大概、同性に嫌われるものだ。

それに公女でありながらお飾りの専属侍女という立場なら尚更。

王女の友人というだけで公女は侍女までさせられているのか。そもそも友人というのは王女が言っているだけで公女本人がどう思っているか分からないが。

「公女様は了承しているのですか?」

「公女本人が望んだことだ」

本当か?

「公爵も了承している」

何か食い違いがあるんじゃないだろうか。

「とにかく頼んだぞ。これは王命だ。王女の命がかかっている重要案件だからな」

王女の命が狙われることは限りなく低い。男なら縁戚から排除され、王位を奪おうと考えるかもしれないが。

王女の場合は自分の息子を嫁がせればいいだけだ。王女の縁戚になる娘を持つ家だって王女を排したところでどこかの縁戚から男が養子になるだけだ。リスクが高いばかりでメリットがない。

それでも必要なのか。

王は王としてはそれなりに優秀だが、こと王女のことになるとダメだ。

公爵家とあまり揉めたくはないが王命なら従わざるおえない。


◇◇◇


「レイファ・ミラノです。よろしくお願いします」

時折、王女の護衛として遠目に見ることはあった。

こんなに強い目を持つ令嬢だったのか。

彼女の話を聞いていると自分の為に護身術を学びたいようだった。

怯えと、絶対に負けるかという目をしていた。

公女が護身術を学びたいと思わせるほどの何かがあったのだろうか。そういう事件は私の耳には入っていないのでもみ消したか起こる前に対処することを選んだか。後者だったらまだマシだが。

公女は実に優秀だった。貪欲に技術を吸収しようとしている姿勢もあるが、それ以上に彼女の才能だろう。

王女殿下の護衛騎士を望まれている現状、それが喜ぶべきことなのか判断できないが。


「ユニアス」

公女の指南役になってから数日が経った。

仕事で王女宮に来ていたら王女殿下が嬉しそうに私の元に駆けてきた。

はて。殿下は既にマナー教育が始まっているはずだが。

子供のように城内を走り回る姿を無邪気で可愛いととるか礼儀知らずととるかは彼女の容姿の影響により意見が真っ二つに分かれそうだな。

「あのね、ユニアス。ミキちゃんと会ったんでしょう」

「ミキちゃん?」

「そう。今、いろいろ教えてるんでしょう」

もしかして公女様のことか。愛称だとしても名前にかすりもしていない。

「私の為に剣術を学んで私の専属騎士になってくれるのよ」

「それはご本人から聞いた話ですか?」

「ううん。でも分かるの。私とミキちゃんは親友だから」

何が分かるのかさっぱり分からない。

「私の大切な親友だから手を出しちゃダメよ」

「‥…」

何を言いだすんだ。

「ミキちゃんはすぐ男の人と親しくなるから困っちゃうのよね」

「王女殿下、そのような言い方は慎まれた方がよろしいかと」

「どうして?本当のことよ」

この方は本当に友人だと思っているのだろうか。私からしたら公女を貶めようとしているように見える。

「ああ、それとユニアスは今日から私の専属護衛だから」

「は?」

「お父様から許可は貰っているわ。すぐにユニアスに話がいくと思うわ」

「自分は騎士団長を拝命しています」

「だからいいんじゃない。騎士団長になるぐらい強いってことでしょう。そういう人こそ王族の護衛に当たるべきよ」

強いから騎士団長になれるわけではない。

騎士を纏められ、騎士の命を背負える者。そして皆の総意により騎士団長は決まる。騎士団長の仕事は多忙だ。騎士の育成や警備計画書の確認など。全体を見なければならない騎士団長が王族の専属護衛になることはまずない。

一時的な護衛はするが。

「それじゃあ、よろしくね」

そう言って王女殿下は走って行ってしまった。

「嵐のような方だ」

その嵐に飲まれて手傷を追わないように私も公女を見習って対策をとるべきかもしれん。

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