百合の花 ー17ー
A(依已)
第1話
ひとしきり歌や踊りが終わると、最初にわたしの手をとった彼女が、わたしを彼女の家に招待してくれた。
その家は、お世辞にも決して裕福とはいいがたい、日本でなら掘っ立て小屋?という感じの、簡素な造りだった。
家の中は薄暗く、台所のゆかは土間で、中心には囲炉裏があった。天井には、なにやらとうがらしや干し肉などの食べものが、たくさんぶら下がっている。
囲炉裏で夕飯を作ってくれているのは、彼女の母親なのだろうか。DNAとは、実によく出来たもんで、彼女を少し老けさせだけで、彼女に激似なのである。
お母さんは、一瞬、わたしをチラッと見、微笑んだ。見知らぬ外国人が、そばで立っていることに、少々驚いたようすであった。が、きっとこんな風に、彼女が異国の客人をもてなすことなんぞ、よくあることのようで、お母さんは、すぐさま囲炉裏に向きなおり、家族の夕飯の時間に間に合わせようと、汗を拭き拭き、夕飯作りに熱中している。
夕げのよい香りが、台所中立ちこめた。その匂いで、わたしは今日一日、ろくに食事らしきものを口にしていないのを思い出した。
"グーーーーッ"
と、冗談みたいに激しくお腹が鳴った。彼女がニヤっとした。言葉が通じなくとも、お腹の鳴る音は、英語にも勝る万国共通語のようで、"お腹が空きました"と、即座に通じてしまったらしい。
わたしは、猛烈に恥ずかしくなり、ぷーっと吹き出してしまった。そんなわたしを見て、ウケすぎてはいけないと、今までは吹き出すのを必死で堪えていたのだろう。彼女の方も、わたしにつられて大笑いをした。
百合の花 ー17ー A(依已) @yuka-aei
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