サンドール王国の終焉
サンドール王国 とある農村
彼は走った。止まれば命がないことを知っていたから。彼は走った。空をつんざく悲鳴が聞こえても、肉の切れる音が聞こえても、形振り構わず彼は走った。振り向けば燃え落ちる村と転がる村人が見えるだろう。その幻影から逃れるかのように彼は走った。
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サンドール王国 植民地 ツェザール
「わずか数週間、国を空けていただけだというのに。」
日本に派遣されていた元全権大使アウグストは川の対岸から自らの故郷を眺めていた。瓦礫も壊れた建物も放置されている。当たり前だ。建物だけでなく人も一緒に壊れたのだから。本来なら死んだ者達に花を手向けたいところだが、それをあちらこちらにいる帝国兵に見られたら連れていかれるだろう。
アウグストは群生するタンポポの中から、唯一綿毛のまだついている物を手に取り息を吹き掛けた。もう一度この地に命が芽吹くことを願って。
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サンドール王国 とある酒場
酒場はかつての明るい雰囲気が嘘のように陰鬱な空気に包まれている。たまに笑い声が聞こえたりもするが、無理してこの空気を壊そうとしていることが透けて見えてかえって虚しい。
この酒場は、地元の住人ぐらいしか使わないが今日はめずらしく新顔がいる。飲んだくれた男の一人が彼に話しかける。
「どうした、辛気くせぇ顔して。」
「うるさい。何でもない。」
「何でとなくはないだろう?今にも死にそうな顔してるぜ。」
「うるさいと言ってるだろ!」彼は苛立ちに任せてグラスを机に叩きつける。店内が一瞬静かになったが、すぐに喧騒がもどる。
「あれか、お前も家族を失くしたたちか。」
「あんたもか。」
「ああ、そうだ。」酔いが醒めたのだろう。男は大きく頷く。
「ならば、そっとしておいてくれ。俺は逃げ出したんだ。親も、妹もおいて一人で。友人は皆、村を守ろうと勇敢に闘おうとしていたというのに。俺は、何のために生きればい?違うな。俺は死ぬべきだ。一緒に死ねばよかったんだ。」彼は嗚咽する。
「復讐したいとは、思わないのか?お前は悔しくないのか!なにもかも奪われて。」
「俺だって悔しいさ。どうせ、何の価値もない命だ。できることなら、あいつらも一緒に地獄へ送ってやりたい。」
「付いて来い。話がある。」男は彼の分の飲み代も払い、戸惑う彼を人気のない裏路地へと連れていった。
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サンドール王国
城は豪華絢爛な調度品で飾り付けられているが、財政難のせいで最近少しずつその数を減らしている。
「申し上げます。王家直轄地モーリッツが農民の反乱により失陥いたしました。」珍しく長持ちしている宰相が言う。
「なんだと!ツェザールにいる帝国軍は何をしている!」女王ローザは杯を宰相に投げつける。
「いえ、それが反乱鎮圧料を直前に5倍に上げると一方的に通知されまして…。」宰相はしどろもどろに言う。
「あいつら、ふざけているのか!そんなの払えるわけないだろ!」ローザは顔を思いっきり歪めた後、いいことを思い付いたとばかり表情を歪める。
「貧乏人からいくら取ったとしても限りがある。商人からさらに税を徴収する他ないな。」
「そんなことをすれば、商人まで反乱に加わる可能性も…」
「なら、代案はあるのか?」
「それは…?」
「話にならん。」宰相はローザに睨まれ、震え上がった。
サンドール王国王城 庭園
庭園には早咲きの薔薇が敷き詰められ、ささやかな風によって花弁が揺れる。
「まったく、どいつもこいつも無能ばかりで嫌になる。」ローザは独りごちる。近頃、どこもかしこも悩みの種ばかりでこの場所だけがローザの憩いの場となっていた。
「陛下、危ない!」常に侍らせている衛兵、カルリーノがローザの背中を勢いよく押す。カルリーノの圧倒的な腕力を前に成す術なく地面に倒れ込む。
その次の瞬間ローザのいた場所を矢が通過していった。
「陛下、失礼します。」カルリーノは、腰を抜かして立てないでいるローザを抱え、城の中へ戻って行った。
ローザ落ち着きを取り戻してすぐより、大がかりな犯人探しが始められたが犯人が見つかることはなかった。
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植民地 ツェザール サンドール王国臨時司令部
瓦礫と化したアンゼルマの街。無事な建物は全て帝国が接収し、軍関連施設として使っている。
「司令、サンドール王国よりまた反乱の討伐依頼です。」参謀は呆れた口調で言う。
「またか。」
「どうします?」
「前のように価格を吊り上げて向こうから断らせさせろ。決してこっちから断ったという形をとるな。今の我々にその余裕はないことを悟られては厄介だ。」
「了解しました。」
「流出した武器の回収はどうなっている?」
「残念ですが、計画通りには進んでおりません。それどころか、武器が何処かで生産されているという不確定情報があります。」
「なんとしても探し出せ!」
「はい!」
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