キャルツ魔法学校の日常
アンゴラス帝国 帝都キャルツ
灰色の建物が建ち並ぶ中心部より少し離れた所に、幾つもの建造物が複雑な1つの巨大建造物を構成している。この建物こそ、帝国のエリートを生み出してきたキャルツ魔道学校である。
「アリシアさん、アリシアさん、起きてください。授業中ですよ。」片眼鏡をかけた女性教師、ベラは叱咤する。
「むにゃ?ふぁーー。寝てません。起きてます。」アリシアはビクリと顔を上げる。
「アリシアさん?」ベラはアリシアを睨み付ける。アリシアの肩が小さく震える。
「ごめんなさい、寝てました。」
「そうですか、アリシアさん。授業中に寝るだなんて、しかも先生に向かって嘘をつくだなんて罰が必要だと思いませんか?」ベラの冷たい声が響く。
「おっ、思いません。」アリシアは震えた声で答える。
「本当にそう思いますか?」
「うっ、えっと、必要かもしれません。」アリシアは観念したかのようにボソボソ言う。
「そうですよね、アリシアさん。問題集の53ページから78ページを週末の間にやって来ること。」アリシアは授業態度が非常に悪く、人よりたくさんの宿題をやらされる。それがアリシアの成績が良好な理由だということを、父は知らない。
「そんな!23ページは多過ぎますよ!鬼!悪魔!オーガ!」アリシアは頬を膨らませ言う。しかし、無駄な抵抗だった。
「先生をオーガ呼ばわりするなんて随分勇気がおありですね。アリシアさん?」声色がますます冷えていく。それだけで人を殺せそうだ。
「ごめんなさい、ごめんなさい、これ以上増やさないで!」アリシアは懇願する。
「どうしましょうかね?」ベラは、口角を上げながら言う。
「リーンドーン、リーンドーン。」時計塔から授業の終わりを告げる鐘がなる。
「すかさずアリシアはドアへ向かって脱出する。」
「アリシアさん。まだ話は終わってませんよ。待ちなさい!」
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キャルツ魔道学校 食堂
「ゼェ、ハァ、疲れた。もーだめ。」
「アリシア、後ろにベラ先生が…」級友のクローディアが言う。
「ギャアー!ごめんなさい先生、あれ?」慌てて振り向くも誰もいない。
「うそだよー♪」
「クローディア、世の中にはついていい嘘とついてはいけない嘘っていうのがあるの。知ってる?」アリシアは淡々とした口調で言う。
「そんな怒んないでよ。私のポテト少し分けてあげるから。」
「やったー♪もーらい♪」アリシアはクローディアの皿に乗ったポテトを全て平らげる。
「あーー!少しって言ったよね!ちょっとアリシア、出しなさいよ!」
「モグモグ♪ゴックン♪」
「アリシアのバカー!」クローディアはアリシアの髪を引っ張る。
「アリシアに嘘をつくだなんて罰が必要だと思いませんか?」ベラの声色を真似てアリシアが言う。
「微妙に似てるのが余計むかつくー。」
「さぁ、早く戻らないと授業に遅れちゃうよ。」
「お前が言うなー。」
「リーンドーン、リーンドーン。」
「あっ、ヤバい!」クローディアが言う。
「それー!」アリシアは学年1位、2位を争う健脚を持ってダッシュする。
「ちょっと待ってよアリシア!二人で怒られようよ。」クローディアは息を切らせながらアリシアの後を追うのだった。
結局、アリシアだけが授業に間に合い、クローディアだけが怒られ、宿題をたっぷり出された。
「ひどいよアリシア、抜け駆けするなんて!」
「足の速さの違いでしょ。私のせいじゃないよ。」
「アリシア、後ろにベラ先生が…」クローディアが小声で言う。
「もうその手には乗りません。オーガがそこらじゅうにいてたまんないもんね。」
「アリシアさん、オーガがどうかしましたか?」殺気を感じさせるような冷たい声が響く。
「ベ、ベラ先生。ちょ、ちょっと、オーガの生態に興味がありまして…」アリシアは詰まりながら言う。
「そうですか、魔道生物に興味を持つことは魔道学校の生徒として素晴らしいことです。」ベラはアリシアの目を見つめながら言う。
「ですよね。では私はこれで失礼致しま…。」アリシアは足早に立ち去ろうとするが、今回はそうもいかなかった。
「ですから、オーガの生態についてレポートを描いて来てください。」
「そんな!ひどい!このオーガ!」
「あなたがオーガの生態に興味があるといったのでしょう。」
「うぁーん、うぁーん!」アリシアは泣き叫ぶ。
「嘘泣きを止めなさい。」
「えっ?何でばれたの!お父さんにもバレたことないのに。」アリシアは顔を上げてキョトンとする。
「あなたの考えそうなことはすぐに分かります。それより次の授業に行かなくていいのですか?」
「あわっ!そうだ、行かなくちゃ!」アリシアは再びダッシュする。
「アリシア待ってー!」クローディアが続く。
「廊下を走ってはいけません!」ベラの声がするが、お構いなしに走り続ける。
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カルバール公園、噴水前
第23代皇帝、カルバールの生誕を祝われて作られたこの公園の噴水は、主に帝都の住民の待ち合わせ場所として機能している。今日は1年に1度の国王誕生日とあって人が多い。屋台もたくさん出ている。
「クローディア、待った?」おめかしした、アリシアが全力疾走しながら登場する。白いカッターに黒い上着を合わせた大人びた衣装だが、全力疾走のせいで台無しだ。
「今は何時何分?」少し声色を下げて言ってみる。
「7時45分です。」アリシアはびくつきながら言う。ちょっとかわいいかも。
「待ち合わせ時間は何時何分?」
「7時…です。」目の焦点が合ってない。
「なにか言うことはない?」
「えーと、あーと、今日は楽しもう♪」少しムカついたので綺麗な髪を引っ張ってみる。
「痛い、痛い、やめてよ。謝るから。そうだ、クレープ奢るから、ねっ!」クレープに釣られて髪を放す。
「せっかく髪を整えてきたのに台無しじゃん。クローディアのせいだ。」アリシアは頬を膨らませる。
「その前に全力疾走のせいで、汗まみれになってたけどね。」
「じゃあレッツゴー♪」アリシアはまた、走り始める。
「待ってよアリシア、はぐれるよ。アリシア!」クローディアはまた後を追うはめとなった。まぁ、いいか。今日はアリシアと過ごせる最後の日。精一杯楽しまないと。
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