サマワ王国空中戦 上
サマワ王国 旧トランスト軍港 護衛艦いかづち
第一護衛艦艦隊群より護衛艦ありあけとともにサマワ王国へと派遣された、護衛艦いかづち。暗く電子音だけが響くそのCICでレーダー観測員が気づく。
「んっ?これは!」
「どうした?」艦長が問う。
「未確認非行物体を確認。数、約200!」
「200だとっ!」艦長はあまりの多さに驚愕する。
「現在この付近には日本国籍の航空機はなく、サマワ王国には航空機及び竜は存在しない。よってアンゴラス帝国を名乗る武装集団の騎と判断する。対空戦闘用意!司令部にも情報を送れ。護衛艦2隻では対処しきれん。」
「対空戦闘用意」艦長の号令で乗組員達は一斉に動き始める。
「短SAM、SAM発射用意完了。」
「司令部より返信、サマワ王国使節団を護衛中の護衛艦2隻を援護に向かわせるとのことです。戦闘機も駆けつけるとのことですがこちらは時間がかかるようです。」
「全員配置につきました。」
「ミサイル発射!」艦長が命じる。
「ミサイル発射。」砲術長が繰り返す。
甲板の四角い蓋が開き白い尾を引くミサイルが大空へ舞い上がる。2隻合わせて32本のミサイルが白竜目掛けて空を泳いで往く。
-----------------------
雲がなく、太陽の眩しい絶好の飛行日和。そんな中、光を浴びて白く輝く白竜184騎は懲罰攻撃のため、サマワ王国へ向かっていた。
「隊長、攻撃が楽しみですね。」竜騎士ナータがいやらしい笑顔を浮かべて言う。
「殲滅でなく、あくまでも恐怖を植え付ける事が目的だからな。」隊長が窘める。
「分かってますよ。大丈夫ですって。」
「それにしても、植民地制圧軍だけでなく駐留軍までやられるなんて何があったんでしょう?」不安気に新人騎士のジラートが訊く。
「栄えあるアンゴラス帝国の竜騎士がこんな弱気でどうする?そんな事考えるのはお偉方に任しときゃいいんだ。」
「でも…」ジラートは口ごもる
「でもじゃない!俺達は命令を理解して、遂行さえすればいいんだ。その事だけを考えろ。余計な雑念は命取りになるぞ。」隊長が叱る。
「すみませんでした。」
会話が途絶え、再びかぜの切る音しか聞こえなくなる。その時新人騎士が何かを見つける。
「隊長、光が沢山近づいてきます!」
「なんだあれは!各騎、回避機動に移れ!」編隊を組んでいた竜は分散し、曲芸飛行を始める。しかしそんな努力もむなしく光の矢は正確に白竜に突き刺さり、爆発を起こす。
「こらっ、どこへ行く!言うことをきけ!」初めて感じる死の恐怖。混乱に陥った新兵の中には竜を制御できずに戦域を離脱するものもいた。ジラートの竜も逃げかけたが、幸か不幸かなんとか押し留める事ができた。
「白竜が成す術もなく…。なんて事だ。」
「なぜだ!帝国は列強だぞ!こんなことがあってたまるか!」
「サース、サースがバラバラに!嫌だっ!そんな!」悲観に暮れる声、怒りに震える声がこだまする大空。隊長は黙って考えを巡らす。
「あの光、サマワ王国の方から翔んできたな。奴ら神竜でも味方に付けたのか?」冷静になろうと務めても隊長は見たこともない強力な攻撃に戸惑いを隠せない。
「隊長、撤退すべきです。こんな事態は想定されていません。」ジラートが言う。
「いや、作戦を続行する。退却した制圧軍の司令がどうなったか知っているだろう。前進して敵を殲滅する。それ以外に生き残る道はない!」浮き足だっていた部隊は少しずつ統制を取り戻し、再び進軍を始めるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます