独立記念日 下

サマワ王国 王城


「我が国は、人口およそ500万。主な産業は農業です。36年前にこの世界に召喚され、アンゴラス帝国の衛星国となりました。」宰相が言う。


「ちなみに農業作物の生産量はどれ程でしょう?」天田が言う。


「およそ700万ガレルです。」農業相が答える。


「我が国とは単位が違うようです。ガレルとはどれ程の量でしょう?」


「1人が1年間で消費する穀物の量が1ガレルです。」天田は頷き、質問を変える。


「サマワ王国は他の国と国交はあるのでしょうか?」


「アンゴラス帝国の衛星国32ヶ国と国交を持っています。その他の国との交流は認められませんでした。」天田と部下は顔を見合わせる。


「アンゴラス帝国についての情報も頂けますか?」


「もちろんです。アンゴラス帝国は人口80億人、衛星国32と植民地56を持つ列強国です。総艦艇数は7000以上だったと記憶しております。」天田の表情が厳しくなる。だが、すぐに取り繕い話を続ける。


「我々は不幸な行き違いによりサマワ王国を占領する事となりましたが、我々と友好を築いていただけるならば共に友好国として道を歩いていくつもりです。」


「本当ですか!」サマワ・ラマタワが思わず叫ぶ。


「失礼。衛星国としてでなく、独立国としてですか?」気を取り直し聞く。


「はい、もちろんです。具体的には食料、天然資源の我が国への輸出、及び我が国に敵対する勢力への輸出の禁止を守っていただけるならば、我が国は貴国を独立国として承認するつもりです。」


「こんなことがあるなんて!」


「神の恵みだ!」


「ただ同然で輸出させられるのでは?」会議室に声がざわめく。


「独立国後は速やかに自衛隊を撤収させます。」


「お待ち下さい!今、撤収されれば、アンゴラス帝国の制裁を受けることになります。駐留し続けてはもらえないでしょうか?」サマワ・ラ・マタワは言う。


「陛下、ようやく独立できるチャンスなのですぞ!外国の軍を受け入れれば、後々良くないことが…。」外務相が耳打ちする。


「分かっている。しかし、それができる力は我が国に無い。軍の創設から始めねばならんのだ。それに何年かかる?槍や剣の作り方を知る職人も、訓練の仕方を知る者もほとんど残っておらんのだ。」悲しげな表情でサマワ・ラ・マタワは言う。


「駐留については私の一存では決めかねますので、本国に持ち帰ります。」一呼吸置き、天田が再び続ける。


「他の衛星国の大使はこの国に駐在していますか?もし宜しければ、紹介して頂きたいのですが。」


「構いませんがアンゴラス帝国に外交権を譲渡している国が殆どです。いい答えが得られるとは限りませんよ。」と外務相。


「正式に外交を締結する前に、サマワ王国と他の国に使節団を派遣していただこうと思っていたのですが…。」天田は少し残念そうに言う。


「大使達については、日本の軍の強さを直に見た者がほとんどですから、説得してみます。」


「よろしくお願いします。」天田とサマワ・ラ・マタワは、固い握手を交わすのだった。




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サマワ王国 王城前広場


円形の広場には、国王の演説を聞くために何万の聴衆がごった返している。


「こちらの世界に召喚されてからは苦難の連続でした。アンゴラス帝国の蹂躙。そして無慈悲な統治。何百、何千もの国民が連行され、飢死しました。しかしそれも今日で終わりです。今日、サマワ王国は独立します。自由と平和を再び手に入れるのです。皆さん、一緒にこの平和を、この国を守り続けていこうではありませんか。」聴衆の歓声が響く。ようやく自らの国を取り戻す事ができたのだ。本来は他国の大使も式典に招かれていたが、本国の意向により欠席している。歓声を送る国民も、アンゴラス帝国の報復への恐怖を心に秘めているのだった。




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サマワ王国 とある酒場


普段はあまり人気がない酒場も今日は客が入りきれないほど入っている。


「おーー!いい酒じゃねぇか。」透き通った紫色の酒を眺めて言う。


「王室の倉庫から引き出された酒だからな。いいに決まってる。」


「こりゃうめー。マスター、おかわりだ。」くいっと酒を飲み干した男が言う。


「皆、平等に配るよう言いつけられてますのでお代わりはありません。」マスターが申し訳なさそうに言う。


「くそっ!もっと味わって飲めば良かった」男は悔しげに吐き捨てる。


「独立か。信じられんな。」老人が呟く。


「おっさん、こんな時なんだから羽目を外してもいいんだぜ?」


「わしはな、こっちの世界に召喚される前、王国の親衛隊じゃったんだ。帝国との戦闘で死んでいった仲間達を思い出すと、わしはな、わしはな、うぐぐぐぐぐ…。」


「泣くなよおっさん。ほら、飲め。一杯奢ってやるよ。」


「すまんのぉ。」


「じゃあ、独立を祝って乾杯!」宴は日が昇るまで続いたのだった。

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