八丈島上陸作戦 上
八丈島 八重港
植民地制圧軍提督、レーノンは憔悴していた。分遣した船団が連絡を絶ち数時間。何度も魔信を送っているにも関わらず未だ返答はない。
「一体、何をやっているのだ!」怒鳴るように提督は言う。
「だから、私に行かせろって言ったのに。馬鹿ね。」主席魔導師のミールが言う。
「お前は黙ってろ!」
「魔信の故障では?」船長がおずおず答える。
「30隻分の全ての魔信が一斉に故障したというのか。そんなわけないだろっ!」主席魔導師のミールが言う。
「本意ではないが、私もミールに賛成だ。」
「では、提督はどのようにお考えで?」
「野蛮人に船団がやられるわけはないが、この前のような野生の奇妙な竜などが徘徊しているような土地だ。あのレベルの高位の魔法生物の群れに襲われれば…」
「しかし、連絡の暇さえなく全滅ということはないかと思います。やはり、何らかの原因で魔信が使用不能になっただけでは?」
「そうだな。念のため白竜を何匹か上げておけ。」言葉と裏腹にレーノンの心は重いままだった。
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八丈島より北へ25kmの海域
護衛艦 いぶき 艦橋
「AH-1Sが撃墜される前に竜の大群に攻撃を受けていると報告にあったようだがどう思う?」司令が問う。
「中国軍の開発した無人偵察・攻撃機に翼竜-1、別名YL-1というものがあります。おそらく、それかと…」幕僚が言う。
「翼竜-1の発艦にはカタパルトが必要です。哨戒機からの写真を見るに敵船にはカタパルトはありませんので、それはあり得ないでしょう。」艦長が反論する。
「ならば翼竜とは何なのでしょうか。」
「翼竜-1の後継機では?」
「それにしては、速度が遅すぎます。400㎞も出ていません。」
「そもそも、あの緊迫した情況で機種を正確に報告できるのでしょうか。」
「聞いておいてなんだが、そろそろ議論は終わろう。答えは出なさそうだ。さて、我々のやるべきことは1つだ。作戦を開始する。」
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編隊を組み飛んでいる16匹の白竜。それは青空に映え美しく、見る者に安心感を与える。
「たとえ相手が高位の魔法生物であったとしても200を越える白竜には勝てやしまい。」レーノンは呟く。
「全くです。」船長は自信ありげに頷く。
白竜は一糸乱れぬ飛行をしていたが、突如として乱れバラバラの方向へ散らばった。
「何かの訓練でしょうか?」船長が聞く。
その直後、光る矢のような物が現れ、白竜に刺さり爆発した。それも1匹や2匹でなく全ての竜にだ。
「そんな馬鹿な!」レーノンは呻く。数秒間、呆けていたが混乱する部下を見て我に帰る。
「全艦出航!白竜は全て発艦。魔導師は全て甲板上に出せ。」的確に指示を飛ばすが、その努力が実ることは無かった。
「北より光の矢が多数接近してきます。」直後に矢が船へと突き刺さる。
「戦列艦マルス、ミレユ、竜母マルケミス轟沈しっ!」見張りが言い終わらないうちに、隣の船に矢が刺さり爆発する。
「ぐあっ!」衝撃で船が揺れ何人かが海へ放り出される。
「提督、大丈夫ですか?」船長が倒れた提督を立ち上がらせる。もう爆音はやんでいる。
「くそっ!まだ白竜が発艦していないというのに。沈んだ船はいくつだ!」提督は見張りに問うが、見張りは言いよどむ。
「提督、残っているのはこの船を含め3隻だけです。」船長が代わりに言う。
辺りには船だったものや、人間だったものが浮いている。未だに燃えている船もある。駐屯地がやられたのだろうか。島からも煙が上がっている。
「たった3隻だと。有り得ん。有り得るわけがない。我々はアンゴラス帝国軍だぞ!こんなことが有るわけない。」提督は恐怖のせいなのか、壊れたように繰り返す。
「北へ向かいましょう。北になにかがあるのは確かです。」船長が言う。
「却下だ。あの光の矢を使われては一たまりもない。撤退する。」今すぐここから離れたい、そう叫びそうになるのを抑え提督は言う。
「ふざけんな!逃げるだと?お前はこれでも帝国軍人かっ!」ミールが叫ぶ。
「上官に向かってなんて口の聞き方だ!」提督も怒鳴り返す。しかしいつもより声が小さく聞こえる。
「提督、上陸部隊に帰投の命令を出します。」連絡官が言う。
「いつ再び攻撃が始まるか分からんのだ。残念だがその時間はない。直ちに撤退する。」
「しかし…」連絡官が続けようとするが遮られる。
「我々は本国へ情報を持ち帰らなけばならんのだ。」
「そんなの魔信で済むだろ!お前はただ逃げたいだけだろうがっ!臆病者。」ミールが言う。
「そんなことはない。直接報告することで情報の信憑性が高まる。我々がここで全滅しても無益。戦略的撤退だ。」と提督。
「ぶち殺すぞっ!」ミールは提督へ向け歩きだすが、途中で部下に止められる。
「本国へ進路をとれ。友軍艦へも伝えろ。」
船はゆっくりと進路を変え、南へ向かい進み出す。
破片が当たったのか。あちこち傷だらけで、帆も破けている。かつての威容はもうない。
そんな船の下で、後をつける影に誰も気付かない。
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