第47話 悪意の町④
パンッ!パンッ!パンッ!
アーベルの耳に乾いた銃声が連続して聞こえた瞬間、アーベルの右足に強い衝撃が走り、走り出そうとしていたアーベルはもんどり打って仰向けに倒れた。
「アーベル!アーベルっーー!」
アーベルの頭の中でフウの叫び声が響く。
「フウ......クッ、大丈夫......だよ」
アーベルはクスターとの戦いが始まってからずっと頭の中で叫び続けていたフウに初めて返事を返すと、右足を引きずるように立ち上がり、自分に銃口を向けてゆっくりと近づいて来るクスターを、左手だけで握る剣を中段に構えて見据えた。
「僕が甘かった......」
本当だったらさっきのやり取りでクスターの命を終わらせることも出来た。
だが、初めての対人戦でもあり、エリーの下に向かえる僅かな時間さえできれば良いと、クスターにトドメを刺すのを、人間を殺す事を躊躇ってしまった。
「おいガキ。お前を少し甘く見てたがこれで終わりだ」
アーベルの正面、アーベルが踏み込んでも剣が僅かに届かず、絶対に外さない距離まで足を進めたクスターは、腹部の痛みを堪えながら、突き出した両腕で銃を構えてアーベルの頭を照準に捉えた。
だが、決意を決めたアーベルは銃口を、クスターを、静かな瞳で見据えたまま微動だにしない。
張り詰めた空気が二人の間に流れてから数秒後、引き金に掛けたクスターの指が微かに動こうとした瞬間、アーベルの剣がスッと翻り、剣から伸びた風の刃がクスターの身体をスパッと斜めに切り裂いた。
パンッ!
一発の銃声が空に向かって響きわたると、クスターは最後の言葉を発することも出来ずに、天を仰いで地面に倒れて行った。
「アーベル......やった、ね」
アーベルはフウの声には答えず、仰向けに倒れて目を見開いたまま動かなくなったクスターを見つめた後、右肩と右脚の止血をしてから、足を引きずりながらエリーの連れ去られた方向に走り出した。
二か月以上も毎日フウの指導で練習して最近使えるようになったアーベルのスキル。
初めて敵に対してスキルを使うつもりで使い、そして敵を倒した。
そして人間が自分のスキルを受ければただじゃ済まない事は分かっていた。
結果としてたまたまクスターが死んだんじゃない。
アーベルがクスターを確実に殺すつもりでスキルを使い、そしてアーベルの意思で殺した。
それがどういう事か分かっているアーベルは、その事実を呑み込んで、黙ってエリーの下に急いだ。
♢♢♢
ビリビリッーーーー
ナイフで裂かれ、引きちぎられたベストを放り投げたカストは、エリーの頬に触れそうな所まで顔を近づけて荒い息を吹きかけると、一段と血走った眼でエリーのシャツに手を掛けた。
それでもエリーは気持ちだけは負けない様にカストを睨みつけていたが、これから自分が何をされるのか、どうなるのかを想像して、恐怖で心が圧し潰されそうになる。
クスターやカストが、攫った女の服を脱がして全裸にする理由は三つあった。
一つはカストが口にした身体検査だ。
肌に直接針やカミソリの刃のような薄い刃物を張り付けている可能性がある為に、服を脱がせて確認する必要がある。
冒険者の女はまずないが、犯罪に手を染めているような女の中には、自分の陰部に大事な物を隠したりすることもあった。
二つ目は全裸にすることで逃げにくくすることだ。
一昨日攫った青髪の女冒険者のような弱い女は、チャンスがあれば恥も外聞もなく全裸でも逃げ出すだろうが、金髪の女の様に気の強い女は、下手に正気を保つため、全裸の自分を気にしていつもの様に動けない事がある。その一瞬の躊躇いが生死の分かれ目になる事がある。
そして三つ目。
それは理由ではなく単純にカストの欲望だった。
いつもクスターに顎でこき使われ、攫った女を先に犯すのも大抵クスターだが、女を裸に剥いて検査―――先に欲望をぶつけられるのはカストの役得の一つだからだ。
カストはエリーのシャツにナイフを入れ、一気に引き裂いて乱暴に剝ぎ取ると、更にその下に着ていた白いアンダーシャツの首元に手を掛けて、そのまま力任せに一気に下へと引きちぎった。
「ンンッーーーーーーーーーーー!!!!!!」
声にならない悲鳴を上げたエリーの、形の良い乳房が剥き出しになって揺れ、弓なりに縛られて隠すことが出来ない白磁のように滑らかで傷一つない白い肌がカストの前に曝け出された。
「ヘヘッ......いいもん持ってんじゃねーか」
目の前に晒されたエリーの乳房を、ねっとりと舐めるような視線で見つめたカストは、身体検査という名の欲望に更に火が付き、ずたずたに千切れたアンダーシャツを投げ捨てて、今度はエリーの革のズボンに手を掛けた。
ウェストバック、そしてベルトを外し、腰とズボンの間にナイフを差し入れて真っすぐにズボンを切り裂いてゆく。
ビリッ!ビリビリーーーッ!
自分のズボンが引き裂かれ、剥ぎ取られて行く音を聞いたエリーの心が折れかかり、とうとうカストから目を逸らしてしまう。
犯罪を犯している緊張感と、目の前で転がって抵抗できない裸の女。
カストがクスターに誘われてこの仕事を始めるようになって覚えたこの瞬間は、どんな酒より、薬よりも高揚することができる、止める事ができない麻薬になっていた。
「後はこいつだけになっちまったなっ!」
ズボンも剥ぎ取られ、露わになったエリーの白磁のような太腿に手を伸ばして撫で回し、醜悪に顔を歪めたカストは、エリーの白い下着に手を掛けて何の躊躇いもなくナイフを入れて一気に剥ぎ取った。
「!!!ーーーーーー」
エリーには、今の自分の姿がどうなっているのかがありありと分かり、再び声にならない悲鳴を上げる。
「こりゃ最高だ。胸も尻も腰のくびれもたまんねーぜ!」
せめて目隠しもされていればまだ良かったかもしれない。
上から降って来たカストの声に、エリーが恐る恐る目を向けると、両手両足を縛られて弓なりになった全裸の自分を、荒い息を吐きながら口元に笑みを浮かべてなめ回すように見つめているカストの醜い顔が目に入った。
「フヘヘッ!下も赤毛かよ」
「!!!―――」
その瞬間、全てを見られた羞恥心と屈辱感、そしてこれから行われるであろうおぞましい行為が頭をよぎって、エリーの全身から血の気が引いて震えが止まらなくなり、頭の中は恐怖で一杯になり、最後まで抵抗していた金の瞳からとうとう大粒の涙が溢れ出した。
大人になったばかりの若々しく美しい顔が屈辱と恐怖に歪み、頭を振るたびに赤く艶やかな髪がサラサラと流れる。
細く白い首の下には大きさと形のバランスが取れた美しい乳房が荒い呼吸と共に揺れ、引き締まったウエストと女らしい丸みを帯びた尻の先にはスラッっとした長い足が弓なりに伸びている。
そして、傷一つない瑞々しく弾力のある透き通るような白い肌にはうっすらと汗が浮かび、エリーが藻掻くたびに艶めかしく光る様子に、カストは―――エリーの様子からまだ男を知らないと思われる―――その白い肌に今すぐ襲い掛かりたい衝動に駆られて手を伸ばし掛けるが、最後に残った理性がカストの行動にストップをかけた。
予定では女を馬車に放り込んだ後、すぐにクスターの下に戻って男のガキの死体の後始末を手伝う予定になっている。
だが、エリーにいつもより時間を掛けすぎたせいで、急いで戻らないとクスターに何を言われるか分かったっもんじゃない。
最悪、目の前に全裸で転がる極上の女とヤれなくなってしまうかも知れない。
「まあ、後始末が終わったらたっぷり味あわせて貰うぜ。夜中までひたすら、失神してもヤッてやるからよ」
涙を流しながらただ嗚咽を漏らすだけのエリーに向かってカストはそう告げると、馬車の荷台から降りて走り去っていった。
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