[こぼれ話] 会議は突然に。

 それは、3歳になった私ことキルケが引き起こした出来事について語ろうとおもいます。

 偶然にも発した呼びかけが、まさかあんなことになるなんて思いもしませんでした。


 私が生まれた湖のほとりにあるちいさな村。魔女の言葉で湖を意味するロホと呼ばれています。ロホに住まうのは魔女のみ。そして、全てが私の親族です。

 魔女族は長命種であり、老衰で死んだ人は未だいません。ここには、1,500年以上も生きてる魔女がいます。そんなに長く生きているに関わらず、若く、30代前半にしか見えません。

 とても素晴らしい種族に転生したことに感謝します。


 あの日は、湖のそばで母と姉の使い魔をはじめ、叔母、従姉妹、曾祖母の妹の孫の使い魔5頭と私でいつものように遊んでいました。午前中は皆、魔女の仕事をしているため、かまってくれません。子供は私だけ。そのため、私の相手は使い魔達がしてくれます。

 空を飛んでもらったり、追いかけっこをしたり、最近の流行りはリズムゲームです。転生前の記憶から、引っ張ってきたものでとても盛り上がります。


 そんな時、母が私を呼んだのです。


「キルケ!そろそろお昼よ!」


 リズムゲームに夢中で突然呼ばれてしまったため、無意識に返事をしてしまいました。


「ママ!いまいく。」


 何もおかしなことのない返しです。ですが、母は目を見開き、驚いたように私に言います。


「キルケ!もう一度言って?」

「うん?、、、いまいく?」

「その前」

「ママ?」


 どうしたのでしょう。何も言わずにどんどん近づいてきます。そして、抱き上げられます。


「ママ?なんて、良い響き。それは私の事よね。かわいい響きだわ。」

「え?どうしたの?あっ!!!」


 私は気付きました。

 ロホで、というよりも魔女は、母親も姉も叔母も祖母も他の方々も名前呼びだったのです。母をカーマと、姉をナナトと、祖母をリンゼと呼ぶ。


 そのためか、私が言葉を話せそうな時期に誰の名前を一番最初に言うかを氏族で競い合うことをしていました。その頃の私の耳元では、様々な名前が繰り返し、囁かれるという拷問にあっていました。夢の中でも様々な名前が繰り返されるという忘れ難い思い出です。


「ママ。いいわ、その呼び方。これからはカーマでなく、ママって呼んで!!こうしちゃいられない。みんなに教えなくちゃ。」

「え、待って!!」


 母は気分が高まると周りが見えなくなる傾向にあります。今回も私を置いて、どこかに走り去っていきました。私と使い魔達は唖然と立ち尽くします。


「と、とりあえず、遊んでくれてありがとー。かいさーん。」

「ヒーン。」


 そう言って、母の使い魔クォンさんと姉の使い魔アッハさんに連れられ、家へ戻りました。


「ただいま。」

「お帰り。あれ?カーマと一緒じゃなかったの?」


 家では、姉が昼食の配膳をしながら、私に聞きました。


「うん。なんかどっか走ってった。」


 そう答えるしかありません。クォンさんとアッハさんが先程のことを説明してくれます。


「ヒヒヒーン。ヒヒン、ブヒーン。ヒーン」

「ブル。ヒヒヒン。ブヒーン。」

「へえ、キルケ、面白いこと言ったわね。カーマは、それを気にいったのね。これはひょっとすると。うーん。次は12日後か。ちょうどいいというか、なんというか。」


 何やら、不穏な感じがします。どういうことかを尋ねようとしたのですが、ドアを勢いよく開き、母がみんなを連れて戻って来ました。


「キルケ。さっきの呼び方で呼んで。」

「、、、ママ。」


 母の要望に応えると周りで「確かにかわいい。」「なんだか、キュンとするわ」などとざわつきます。


「他の種族でも聞いたことないわね。ナナト。あなた最近、外で仕事することが多いでしょ。ママというの聞いたことがあるかしら?」

「いや、ないね。気になるなら、トアラで確認すれば。」

「それもそうね。確認はあとでするとして、キルケ。」

「ひゃい。」

「他にどんな呼び方わしたい?そうね。ナナトのことはどう呼びたい?」

「お姉ちゃん。」


 普通に呼んでみました。その結果は、「ありきたり」「キュンとしない」「いまいち」など言いたい放題です。


「ナナト。多種族はなんて呼び方があるか知っていて?」

「そうね。姉さん、姉ちゃん、姉上、お姉さま、姉御、姉貴とかかな。」

「今出たのとは違う呼び方。キルケ。さあ、考えるのです。かわいい呼び方を。」


 もう、みんな怖いです。やけくそです。前の記憶をフル稼働します。


「ネーネ。」

「いいわね!じゃあ私は?」


 今度は、祖母のリンゼが尋ねてきました。


「ば、!」

「ば?」


 危なかったです。勢い余って、ババアと言ってしまうところでした。

 かわいい呼び方を考えます。そう、あのアニメの。だんだんと憎めなくなる湯屋の。ゆ、


「ばーば。」

「それね!」


 いいんですかい。色々ツッコミたい。

 そのあとも曾祖母、高祖母からも聞かれ、ひーばば、ふーばばと呼んで、気に入ってくれたようです。ただ、叔母だけは、かわいい呼び方はみつかりませんでした。

 オババ、オバハン、おばちゃまでは納得出来なかったようです。


「じゃあこれでいきましょう。」

「はい。調べはお願いします。」

「わかったわ。任せといて。」


 と、会話した後、解散しました。

 何が何やら。やっと、昼食にありつけます。お腹すいた。



 天災は忘れた頃にやってくるとよく言ったものです。

 その日も使い魔達と遊び、昼食を食べ、午後に薬草畑にお水をあげるお手伝いをして、お昼寝、お勉強という名の本を読んでもらい、いつものように過ごしていました。

 いつもと違ったのは、このあとの夕食が早かったこと。

 何故かクォンさんとアッハさんがこの日に限り、両脇にいます。

 普段なら、私達がご飯を食べている時は、それぞれの主の側でご飯を食べます。


「なんで今日夕ご飯早いの?」

「それはね、夜にお出かけするからね。」

「ほんと!!どこに??」


 5歳のお祝いの日まで、ロホから外出しないと聞いていた私は、驚きつつ、目を輝かせて、母に尋ねました。


「内緒。さ、早く食べましょう。」


 「どこだろう。どこだろう。」と気もそぞろに夕食を食べます。

 全て平らげた私に母は、飲み物を渡してくれました。それは、いつも食後にいただくのとは違く、甘く美味しい飲み物でした。


「ママ、これ美味しい、、、、、、、ね。」


 バタン。




 --




「キルケ、キルケ。起きて。」

「まだもうちょっと。ねるの。」

「トアラに移動したから、起きなさい。」

「トアラ?どこ??、、、!」


 勢いよく起き上がります。


 周りを見回しましたが家の中ではありませんでした。至る所に篝火が焚かれ、周囲を照らしています。上空には、深い夜空の中に紫月が綺麗に輝いています。

 いつのまにか外にいます。しかも、夜です。


 ここは、私の知ってる場所ではありません。なにより、私の知らない魔女達が大勢います。


 『あれ?なんで寝てたんだだっけ?

 確かご飯食べて、食後のジュース飲んで。それから?あれ?』


 不思議に思いながら、母に尋ねました。


「ママ!ここどこ?」

「トアラよ。今日はベルターシの日。これから集会が行われるの。」


 母は説明してくれます。かなり大雑把です。

 あなたの周りにいませんか?説明のド下手で「これでわかるでしょ」って顔をする人。母がそれです。


 全くわかりません。でも、わかったことはあります。たぶん、激おこしていいことだと思います。


 ここに連れてこられるために一服盛られたこと。

 ありえません。ほんとにありえません。


「ママ!!ねむらすの飲まされた?わたし!!」

「そうよ。びっくりしたでしょ。起きたら、違う場所にいました!って。」

「びっくりじゃなーーい。」

「そんなに怒らないで。ちょっと驚かせて、楽しんでもらおうと思ったんだから。それに怪我しないようにすぐ支えられるようにクォンとアッハに対応してもらったのよ。」

「・・・」


 悪意のない善意ほど恐ろしいものはありません。

 しかも、両脇にいた理由はそれか!!


「はじめてなんだから、ちゃんと説明したほうがいいって言ったのに。」

「とめない、ネーネもわるい。」

「ごめんね。ここに来るために使う転移のまじないは、30歳以下だと、負担が大きいんだよ。吐き気、頭痛、目が見えなくなったり、体の痛みで歩けないって言うのもあるらしい。だから、仮死にする薬を飲ませて、体を保護するまじないをかけて、運ぶ規則があるんだ。ちゃんと説明させなかった私もカーマも反省するから。許して。」

「キルケ。ごめんなさい。次はちゃんとするから。」


 驚かすためだけではなく、ちゃんとした理由があったようです。まさか、私は、寝てたのではなく、仮死してたみたいです。

 理由があるにしても説明しないのはいけないことだと思います。反省してほしいです。


「反省して!!」

「こめんなさい。」

「ゆるす。」


 普段は本当に良い母なんです。本当に。

 優しいし、ご飯は美味しいし、なんだかんだ頼りになる。暴走すると突き抜ける行動をするのと説明をもっと詳細にできるようになってほしいんですけど。

 そう考えると、プラマイゼロ以下マイナスな気もします。


 この場所や集会に関しても姉が詳しく教えてくれました。


 トアラとは、魔女の始祖様の生まれ落ちた地で魔女の聖地とも言える場所で魔女協会本部兼、始祖様を含む15人とその使い魔が住んでいるそうです。

 そして、トアラの図書室。ここにはこの世界の発行されている書物やこの世界で起こった事象が書かれた本があるとか。ここで調べ物をすればこの世界では、わからないことはないらしいです。そのため、魔女はこの世の知識の番人と呼ばれます。


 今私たちがいるのは、協会の近くにあるクレーターになっている底です。

 ここには、一段高くなった舞台があり、その前を扇形に長椅子が並べられています。椅子は七つの区画で分かれています。その区画ごとに氏族でまとまって、座っています。


 このあと、日付が変わった時から、日が出る前までに魔女の集会が行われ、最初に会議をして、そのあとに宴、いわゆる飲み会をするそうです。

 魔女の集会は、季節と月に密接な関わりあります。


 この世界には、4つの月が存在します。紫月、赤月、黄月、白月。

 夜に一つの月しか出ない日が、年に4回。その日が季節が変わる節目とされています。


 春の訪れ、紫月の日。ベルターシ。

 夏の訪れ、赤月の日。ルナーサラ。

 秋の訪れ、黄月の日。サヴィン。

 冬の訪れ、白月の日。インバルク。

 

 それぞれの日に魔女の集会が行われると言うことです。


 400年に一度全ての月が出ない一年があるそうで、その年には魔女の祭典「バンナスティンヌ・フェル」が行われます。

 この400年が区切りの年として、世代の変わる年となっています。



 --



 カラーン。カラーン。カラーン。


 と、どこからか鐘の音が鳴り響き、騒がしかった周りが静かになります。これから、集会が始まるようです。


 舞台には、七つの椅子が並び、左右に机と椅子があります。舞台の最奥には、さらに一段高く、椅子が一つ置かれています。

 しばらくするとそこへ十人の魔女がそれぞれの場所へ座ります。

 一人は私の知る人でした。ロホの長であり、始祖様の子の一人である魔女アニスタ・アルブレターフニストームフルクヘトカ。


 話によると七つの椅子には、氏族の長達。左右には、この会議の内容を留める係が。そして、最奥に始祖様が座るそうです。


「さて、雪の果、再生されし大地に木の芽が宿りし時となった。今宵、紫月は昇った。ベルターシを開催する。ア・シュール」

「ア・シュール」


 始祖様による口上に続き、全ての魔女が「ア・シュール」と紡ぎます。これは、季節の訪れを祝うまじない言葉だそうです。

 すると私達の身体が紫の光を帯びます。春を司る神の祝福だそうです。季節によって色が変わるらしい。


「まあ、今年も伝えることはない。変わったことがあまりないからな。皆健やかに過ごせ。」


 集会の会議は、いつもこんな感じだそうです。何百、数千年も生きてる魔女たちにとって、変化はそんなにないようです。鈍くなってきてるんじゃないかなとも思います。

 会議の記帳にも「春の訪れ、ベルターシ。変わりなく健やかに過ごせ」と記載されてるとか。


 始祖様の事について語ります。

 名をマグーカ・ル・リアノンといいます。

 あんなに長い氏族名を付けたのが謎です。始祖様は短くて言いやすそうでずるいです。

 この地に産み落とされ、4000年以上生きてます。

 透き通るような白い肌に長い白髪はくはつの子供の容姿。それなのに、畏怖を感じるほどの威厳のある姿をしています。


「じゃが、今年は久々に提案がロホからあるそうだ。カーマ。」

「はーい。キルケも立って。」


 母が呼ばれ、私も言われた通り、立ちます。ここにいる魔女全ての視線が、集まります。


 何故?説明不足。説明プリーズ。と思いながら母の顔を見ます。


「私のかわいい娘キルケが先日、母である私をそれは、もう、かわいい呼び方をしてくれたのです。ロホの者でトアラの図書を調べましたが、そのような呼び方はありません。ぜひ皆様に聞いていただき、定着させることをここに提議します。さあ、キルケ!私のことを読んで。」

「、、、、、、、、、、、ママ。」

「おーー!。」


 私の発した呼び方に歓声が。


「他にもあるのです。ナナトのことは?」

「、、、、、ネーネ。」

「おおーーー!」


 そのあとをばーばやひーばば、ふーばばと言う度に絶賛の声が上がります。

 なんでしょう。このやるせなさ。疲労感。

 魔女族って、バカばっか?


 今の私は思考を放棄するのでした。


 不意にロホの長アニスタに声をかけられました。


「キルケ、素晴らしいわ。私の呼び方はないの?」


 思考を放棄した私はもうヤケクソです。


「アニスタは、ババさま。マグーカは、オオババさま。」

「いいわ。いいわ。」

「オオババさまかあ。。うーん。」


 私から数えて、五つも上の代です。敬称付けとけばいいでしょ。始祖様はその上だから、偉大ってことで、を付けとこって、考えたのです。


 氏族の長達は気に入ったようですが、始祖様は納得してないようです。それでも周りは異常な雰囲気になっています。


「これは定着のためにターメイに記載ですね。」

「そうね。こんな呼び方されるなら記載でいいでしょう。」


 と、盛り上がります。

 ターメイ。この言葉を聞いて、青ざめます。あの民族衣装ことロリィタファッションを毎日着ることを義務付けることが記載されているというあのターメイです。

 ロリィタファッションが嫌いというわけじゃないんですよ。かわいいし、むしろ好きです。でも毎日は。

 他にもかわいいのとか、かっこいいのとか着たいじゃないですか。


 ともかく、これはまずいです。

 私に娘や孫ができても、母や祖母をママやネーネ、ばーばと呼ぶことになります。身内だけならいいです。身内だけなら、我慢できます。

 ですが、この世界にない呼び方だと言っても、多種族の前でこの呼び方は色々と精神にきます。


 私は反対しそうな人を見るのです。そう、始祖様。

 彼女は、チラチラとある一角を見ています。その視線の先は、大笑いしてる森の魔女がいます。

 始祖様とその魔女は、視線を交わし言葉を交わしてるような感じです。頷き合ってます。何かサインでもあるのでしょうか。

 そして、大笑いしてた森の魔女が挙手をして、意見を述べました。


「ちょっといいかい?皆少し落ち着こう。」


 騒がしかったのが、落ち着き、彼女の意見に耳を傾けます。


「確かに珍しくて、かわいい呼び方。だけど、私らみたいな年配が自分の母や祖母をママとかネーネと、かわいらしい呼び方に抵抗があるさね。これをターメイに記載するとみんなもそうなる。良いのかい?」


 なんてことでしょう。常識人、私の救世主様がここに居られました。感動です。

 感動のあまり、手を前で組み、尊敬の眼差しを向けます。

 始祖様もうんうんと頷かれております。


 自分たちが呼んでる姿を想像したのでしょう。ターメイ載せない派が増えてきたようです。

 これは阻止できそうな雰囲気になってきました。


「だから、条文をつけましょう。『母、姉、祖母らの呼び方は、未成年に限る』と。これなら、私達は言わずに子供達だけがかわいく呼ぶのを見ることができるさ。そのあとは当人同士で決めればいいさ。」


 は?


 、、、。


 『未成年に限る』と言った。魔女は99歳が成人年齢!それまで縛られることになる。

 救世主様でなく、悪魔です。私の尊敬返せ!!


 絶賛の声があがります。


「あと、始祖様と氏族の長の呼び方だけど、おおばばさまとばばさまの呼び方は良いと思うさ。これはみんなで呼ぼう。」

「賛成。」


 魔女ほぼ全員が、賛成してます。反対は始祖様と私だけでしょうか。


 意見した森の魔女は、反対する私達に満面の笑顔を向けます。

 始祖様には、『どう?要望通りでしょw』私には『やったね、キルケちゃん。』と聞こえた気がします。

 この方、自分には被害を被らないようにして、面白がってます。確信犯です。


「では、マグーカ、いえ、おおばばさま。採択を」


 口がワナワナ震えながら、嫌そうに震える低い声で、


「キャッドゥ」


 承認を意味するまじない言葉を紡ぎます。


 こうして、ターメイに新たな規則が加わることになりました。



 魔女の始祖マグーカ・ル・リアノンを「おおばばさま」と呼ぶこととする。

 その子ら、山の魔女コーネスト・ケヤルーテバズセッツェストテンプ。森の魔女シアンエ・ルドーシスバルクフェドラソロジェミド。、、、、(※他六名の名前が入りますが割愛します)を「ばばさま」と呼ぶこととする。

 母を「ママ」、姉を「ネーネ」、祖母を「ばーば』、曾祖母を「ひーばば」、、、、(※こちらもいっぱいあるので割愛します)と呼ぶこととする。ただし、呼ぶ者は未成年に限る。


 xxxx年 ベルターシにて

 発案者キルケ




 何故か私が発案者になりました。3歳での発案者。快挙です。全く嬉しくないです。

 これ以降、私は99歳の成人まで、違う呼び方を試みても決められた呼び方でしか言えなくなったのでした。


 これからは言動に気をつけようと思います。



 --



 私にとって、不本意な会議は終わりました。この後は、宴、いわゆる飲み会だそうです。

 そろそろ眠く、だいぶ疲れてる私は。母と帰ることになりました。また、仮死の飲み物を飲みます。


 帰り支度をしているとあの魔女がこっちに近づいてきます。

 私を貶めた災厄の魔女です。

 かたわらには、、、、、。


 かっ、かわいい!!!

 猫です。今の私の身長の半分くらいでしょうか。かなり、大きいです。背中な小さい羽らしきものがあります。毛並みが気持ち良さそう。

 彼女の使い魔のようです。


 こんな生き物を見つけたのです。ふらふらと近づいてしまいます。

 猫さんは話しかけてくれました。


「ニャニャニャー。」

「ケット・シーなんですか?はじめまして、ノラさん。キルケです。」

「ニャー。」

「あのあのあの!さわっていい?」

「ニャ。」


 許可されました。欲望剥き出しに触ります。


「もふもふだーー。」


 癒されます。先程の傷つき、やさぐれ気味な心が癒されます。

 もうこのまま埋もれていたい。そう思っていたところ、上から声がします。


「ノラ。気に入られたみたいさね。」

「ニャーー。」


 そうでした。厄災の魔女がいたのでした。現実に戻されてしまいました。


 私は、立ち上がり、睨みます。

 彼女は、屈み込み私と同じ目線になり、自己紹介してくれます。


「はじめまして、キルケ。私は森に住まう魔女。ファティファ・ルドーシスバルクフェドラソロジェミドさ。」


 返事はしません。睨むだけで十分です。そんな私に対して、不快など微塵もなく、微笑みながら、両肩をがっしり掴みます。


「んー。君面白いね。いいよ。いいよ。同志。今3歳だから、2年後。また会いましょう。楽しくなってきたさ。」


 そう告げて、去っていきます。

 私は呆気に取られてしまいます。


『同志って何?

 2年後って何?何されるの?』


 不安を抱きながら、母の元へ戻るのでした。


「さあ、これをまた飲んで。帰りましょうね。」

「はーい。」


 トアラに来た時と同様に仮死の飲み物です。


 、、、バタン。

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