[第6話] 魔法を使うことは夢なのに。

 早朝、窓から溢れ入る朝日で目が覚める。

 静寂に包まれた中にふと湖の波の音が僅かに聞こえる。

 少し肌寒く感じる日常の朝だ。

 布団の中が恋しいが、なんとか起きて、顔を洗いに汲み置きした水のある台所へ向かった。


 ドアを開けて、見える光景。


「そうだよね。夢じゃなかった。夢オチを期待してたのになあ。」


 そこには、昨晩飲み明かして、そのまま寝落ちしてしまったのであろう数人が床に転がっていた。

 はじめてのおつかい。もとい、ひとりでお祭りにいくことは現実なんだと改めて認識する。


 私は転がっている物体に向かって、飛び跳ね、踏み付けながら、起こしていく。


「起きろー。朝だ〜!!」


 「グェ」とか「ぎゃあ」とか悲鳴が聞こえる。

 こんなにかわいく、か弱い子供にひとり旅をさせるんだ。ささやかなる復讐を遂げても私は悪くない。私刑だ!!

 

 その後、顔を洗い、部屋で寝てる母にも同じ復讐を果たす。そして、朝食の手伝いをして、皆で食べた。


「明日のためにキルケはお勉強と準備しないとね。」

「なんのおべんきょう?」

「お金の種類や使い方。街まで行くための地図の見方。良い人、悪い人の見分け方も覚えないとだめでしょ。それから、お使いのリストを考えないと。他にもあるかしら。」


 盛りだくさんである。普通の6歳に一日の詰め込み量でないと思うのは私だけだろうか。

 転生して、一度は成人したであろう私にとっては、楽勝だと思うが、めんどい。

 前世の記憶。あれから、6年の間に増えました。ただ、自分のことだけは未だにわからない。思い出せないようになってるのか、もしくは最初に無理矢理思い出そうとして、破損したのか。何歳まで生きたのでしょう?


 そんなことを考えながら、周りの話を聞いていました。その中に不穏な人の名前が出てきました。


「明日から着るキルケの洋服選びもでしょ。ファティファさん呼ばなくていいの?」

「そうなのよね。色々新作もってきてもらいたくて、呼びたいのだけど、今日じゃ無理でしょ。ねえ、キルケ。あと二日遅くしない?そうすれば、」

「イヤ!!!!ゼッタイに!!!!」


 話す途中に言葉を被せて、力いっぱい拒否をする。それだけは絶対にイヤである。


 ファティファさんが誰かと言うと森の魔女で魔女族全ての民族衣装を一手に作り上げる変態さん。

 私の「新たなる子供を祝う儀式」であるお披露目式の前日に、私を拉致って、恍惚な顔をしながら、「良いではないか、良いではないか。」と服を脱がし、服を着せては、「ぐへへ。尊い。」とか、訳もわからないことを言いながら、着せ替え人形にする変態さんです。もう一度言います。変態さんです。

 そんな人が来たら、それだけで私の体力と精神が削られて、お祭りどころではない。拒否します!


「そう。残念ね。しょうがないか。昨日連絡しとけばよかったわね。」


 森の魔女の住む場所がロホから一日かかる場所にあって、本当によかったです。このイベントのことを昨日にでも連絡していたら、あの変態さんの事です。夜通しかけて、飛んで来てたでしょう。危なかった。




 朝食も終え、まずはお金の種類と使い方のお勉強です。

 講師は、私の従姉妹さんと叔母。


 使われている貨幣について教えてくれます。

 この世界は、統一貨幣ではないそうです。貨幣の発行元は四箇所、とある帝国と世界各国にあるダナン教会、それから、別の大陸にある二つの国家。

 四種類の貨幣が存在しています。


 帝国貨幣は、帝国と属国のみで使用されていて、別の大陸にある国家の貨幣は、各々の権力者たちが見栄のために使い続けてるとか。

 今回使うのは、どこでも使えるダナン教会の貨幣です。この貨幣は、帝国内でもは普通に使えるそうです。

 ほぼ統一貨幣と言ってもいいでしょう。教会の影響力恐るべし。

 魔女仕事の支払いも教会貨幣しか受け取りを拒否にしているそうなのでこの貨幣さえ覚えとけば良いそうです。


 さて、お勉強です。

 従姉妹さんは、私の目の前に教会貨幣と薬草、水晶石、魔石や雑貨など、様々なものを置いていきます。そして、いきなり声掛けをしてきました。


「へい、らっしゃい!嬢ちゃん!何か欲しいものあるかい!」

「えーと。じゃあこれ。」

「それかい。それは中銅貨1枚と銅貨3枚だ。これもどうだい大銅貨2枚だが、物がしっかりした上等な品だ。他ではこの値段で買えないぞ。」

「、、、、、じゃあそれも。」


「それが銅貨、その横が中銅貨で大銅貨、小銀貨、大銀貨、金貨。ここにはないけど、聖貨があるわ。」

「えと、これが2枚でこれが1枚でこれが3枚。」

「まいど。」


 まさかの模擬的な勉強方法でした。というより、おままごと的な?

 従姉妹さんの横では、叔母が補足と「あー、そこは値切らないと」「騙してるかもしれないわ。よく表情見て。」「もっと可愛く言って、オマケをもらいなさい。」など、茶々をいれてきます。


「まあ、こんなところかしら。」

「そうね。いい、キルケ。最重要なことは、値札は定価ではない。値切らなければ定価にならない。はい、復唱。」

「値札は定価ではない。値切らなければ定価ににゃらない。」


 お金についての勉強が購入時の処世術込みで教えられるとは思いませんでした。確かにお金の使い方ではあると言えなくはないですけど。

 『叔母様。騙されたことが多いのですか?』と言いたくなります。


 従姉妹さんは片付けをしながら。


「お疲れ様。値切るのは重要だよ。浮いたお金で好きなものが多く買えるんだから。私も初めてのお使いの残りはお小遣いだもの。楽しみなさいな。」

 

 なるほど。値切って、値切って、美味しい物たくさん食べてやる。と意気込みます。




 次のお勉強は地図の見方です。

 講師は曾祖母の妹さん。


「キルケのために街までの地図を作ってきたわ。ご覧。」

 と、おもむろにテーブルの上に一枚の正方形の紙を置きました。

 その紙には、湖、森、村、街、山、川、太陽と二つの月の絵。それと湖の近くの村っぽい絵にロホの文字、川の近くの街の近くにバラ・フォイルいう文字が入った地図でした。

 朝食後に急いで作ったとしたら、すごいです。絵もしっかりしていて、着色までされているのですから。

 ただ、気になります。


「なんで太陽と月があるの?月の数足りないよ。」


 地図です。太陽と月など必要はないでしょうと。


「これはね、まじないの掛かった地図なのよ。太陽と月で方角がわかるの。それにほら、こうすると。」

「えー、すごい!!どうなってんの?」


 彼女は、紙の地図をぐるぐる回し始めました。それなのに描かれた地図の絵は固定されたように動きません。摩訶不思議です。

 まじないの地図は、持つ者が紙の右下の辺りにトントンと魔力を流せば、天地左右が決まるそうです。そうなったら、絵は固定されます。

 何度も変更可能なので、ついついテーブルの反対側に行ったりきたりするたびに魔術を流してしましました。

 叩くたびに絵の位置が変わるのです。興奮するのは無理ないです。ただ、何度もやってるので怒られました。

 

 次に太陽と二つの月。この世界では、太陽は一つ、月は四つあります。今出てるのは紫月と赤月。他には、黄月と白月があります。

 太陽は元の世界と同じ方角、東から昇り、西に沈みます。四つの月はそれぞれ昇り沈みや出てる時間帯が異なります。


 この地図の太陽と月の絵は時間によって、絵の場所が動きます。

 現在太陽が南東の方角にいます。一つ目の紫月かだいたい北にいます。もう一つの赤月がほぼ真上にいます。地図には、左下辺りに太陽。右側に紫月。ど真ん中に赤月が描かれてます。つまり、左が南、右が北、手前が東で奥が西になります。

 大丈夫ですか?ついてこれてますか?

 

 街は奥側に描かれ、ロホは手前に描かれています。つまりロホから、西の方へ向かえば、街があるということです。

 動く太陽と月の位置を照らし合わせれば、方角がわからなくてもだいたいの行き先は検討できます。

 まじないすごい!魔女すごい!


「私も地図作りたい!」

「残念だけど、まだまだ当分先ね。」


 まじないの習得は、教わるものでなく、それぞれ独自に学んでいきます。

 お披露目式でラウルという本を貰います。この本には、まじない大全とターメイが記載されていています。

 魔女が新しくまじないを作ったら、レシピを魔女協会に申請を行う規則があります。そして、申請されたレシピは、全てのラウルのまじない大全に掲載されます。

 ただし、自分のラウルで読むには条件があります。

 協会がまじないのクラスを判断しています。各々の力量にあったまじないだけが見ることが可能です。

 今回の地図のまじないは、私の本に載ってません。難しいまじないなのでしょう。残念です。


 私の認識では、魔女といえば、魔法が使えるものだと思ってました。ですが、この世界の魔女は使えません。

 呪文で炎をだしたり、水を出したり、広域殲滅魔法を出したりしたかった夢が叶わないと知った時はがっかりしょぼんでした。


 その代わりなのかわかりませんが、魔女が使えるのはまじないです。

 まじないとは、精霊に対価の魔力を与えながら、魔女の言葉でお願いをして、道具や薬に力を宿らせ、不思議現象を起こすことです。

 先ほどの地図は精霊に時刻、絵の認識、場所太陽と月がどう動くかなど、他にも材料やら道具やらあるそうですが、複雑にお願いをして、作成したそうです。


 精霊は、神の奇跡の力を宿しているとか。その奇跡の力を利用するため、このような魔道具を作れるし、思いもよらないまじないも作ることができるそうです。

 

 また、精霊には、クラスがあって、無垢精霊、自然精霊、大精霊とクラスチェンジをしていくそうです。

 無垢精霊は、自然の要素が染まっていない精霊です。その精霊が自然の要素、光、闇、水、火、風、土が加わると自然精霊になります。そして、長年生きると大精霊になるそうです。

 私たちが力を貸してもらっているのは、無垢精霊。この精霊は、純粋な奇跡の力だけのため、まじないとの相性が良いみたいです。


 エルフやドワーフも精霊から力を借りらことのできる種族です。自然精霊や大精霊の力を攻撃や補助に使える精霊術というものです。魔法っぽくて、羨ましいです。


 魔法は、自分の魔力を直接変換させて、現象を起こす行為。そのため、精霊に魔力を与えて現象を引き起こすことに魔法とは言わないそうです。

 魔女もエルフもドワーフも精霊に魔力を与える回路ができているため、直接変換ができず、魔法が行使できないと言うわけです。

 魔法は使えませんが、まじないで面白いことできそうで楽しみです。


 地図の見方の勉強のあとは、良い人か悪い人か見分けるためのネックレスの使い方とこういう人にはついていってはいけませんという、よくわからない説法。そして、ロホの魔女待望のキルケファションショー開催です。


「あれでもない。」「これでもない。」「そっちがいい。」「こっちがいい。」


 疲れました。

 着せ替え人形にさせられて、4刻ですよ。


 なんでこんなことにーーー!!!

 おまつりにいきたいなんて言うんじゃなかった!!!


 そう、二日続けて、思うのでした。

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