[第5話] 私は朗読する。

「それでは、朗読させて頂きます。

 むか〜し、昔。

 ある街にとても若い魔女っ娘が訪れました。」


「黒いとんがり帽子に身体を覆う黒いケープマント。

 長い水色の髪、くりくりぱっちりとしたお目めのとてもかわいらしい魔女の子供でした。肩には、使い魔のケルピーが乗っています。」


「『ようこそ、小さな魔女さん。ひとりかい?誰かと一緒ではないのかい?』

 と門兵さんがにこやかに尋ねてきました。子供ひとりで現れたので心配しています。

『こんにちわ。ひとりです。お祭りを見に来ました。』

 魔女っ娘は答えました。」


「『魔女がこの街に来るのは数年ぶりだ。この近くに住む魔女の村の子かな?よく来たね。』

 門兵さんは、そう言うと、この街に訪れた魔女のことを教えてくれました。

 なんでも、数年前に美しい魔女親子に命を救われたそうです。それから、魔女が訪れたら、特に親切にしようと心に決めていたとのこと。門兵さんが言う魔女親子は魔女っ娘の母親と姉の事でした。そのことがわかるとさらに丁寧に街のことや祭りついて教えてくれます。

『色々教えてくれてありががとうございます。』

 家族の貴重な話を聞き、嬉しそうにお辞儀をして、お礼を言いました。

『祭りを楽しんでいってね』

 と門兵さんは笑顔で門を開けてくれます。

 魔女っ娘にとって、初めての大きな街。とてもドキドキしながら、街に入っていきます。」


 --


 心地よいソファーで奥様とお嬢様の間に座り、本を抱えて、読み始めます。

 奥様、お嬢様、旦那様が本を覗き込み、ソファの後ろに、使用人達。遠目から護衛騎士たちプラス1が私の朗読を聞いています。


 不思議な事に、この本を朗読しても全く噛みません。まじない補正でもあるのでしょうか。それにこの本に出てくる魔女っ娘ちゃんには共感を覚えますね。

 私も初めての街はドキドキしたものです。本当に懐かしい。家族構成も使い魔も同じケルピーだなんて。


 そんなふうに思いながら、朗読を続けます。


 ・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・・・・・・・。


 これ、私のことだ!!!


 そう。この児童書に書かれてる内容は私が初めて、街へ出掛けて、大変なことが起こったことが書かれています。


 これ書いたのはロホの魔女の誰か!!


 私は、思い浮かべます。私が街に行くことになったことを。とてもとても小さかった時のことを。



--



 それは、母の何気ない一言でした。


「そろそろお祭りね。」

「おまちゅり??」


 と、私は母に聞き返しました。


「そう。ロホから1刻ほど飛ぶと大きな街があるのよ。この時期に収穫の感謝を女神様に捧げるお祭りをするの。美味しい食べ物や飲み物のお店が並んで、至るところから音楽が響いて、その周りで踊り明かす。それが数日続く楽しいお祭りよ。」


 聞いているだけで楽しそうである。何より美味しい食べ物。そして、飲み物。

 そうお酒だろう。こんなお子様状態だから、飲めないだろうけど、喉がゴクリとなります。


 あー、のみたいな〜!


 私がこの世界に生まれてから、6年が経ちました。

 前回外出したのは、1年前。

 魔女は5歳の時に魔女族総出でお祝いをします。

 「新たな子供の祝う儀式」と言われるお祝い、通称「お披露目式」です。その儀式に参加後は、外出はしていません。なので母にねだるのは当然の結果です。


「ママ!!そのおまつり、行きたい!!」

「そうねー。ナナトの時もそうだったし、いい機会だわ。行ってらっしゃい。」

「やったー!!やった〜!わーい!ヤッホー!!」


 お祭りに行けることが嬉しくて、ぴょんぴょん跳ねて、はしゃぎました。

 ナナトとは、300歳以上離れている私の姉です。今は仕事でロホから出ています。当分帰って来ないそうです。


「いちゅ行くの?いちゅ行くの?」

「そうねー。まずは街の知り合いにいつからか聞いてみましょうか。」


 そう言うと、母は街の知り合いに手紙を書き始めました。手紙を封入して、まじないを掛けます。すると、両脇から羽根が生え、送り先へ飛んでいきました。

 これは、手紙配送のまじないです。届いた先の人は、手紙を読み、中に入っている紙に返信を書いて、同じ封筒に入れると戻ってきます。とても便利な往復手紙です。


 疑問に思う方がおられるかと思います。「雨の日はびしょ濡れになるんじゃないか?」と。

 そこは、ファンタジーです。何故か防水加工されています。先達の研鑽の賜物でしょうね。

 手紙配送のまじないは簡単なので私でもすぐに覚えました。お披露目式で仲良くなった友達によく送っています。


 その日は窓に張り付き、手紙の戻りを待つのでした。


「来たーー!!ママー、戻って来たーー!早く読んで!早く!!」


 急かす私を母は「ちょっと落ち着きなさい」となだめられながら、確認してくれます。


「うーん。明日から、7日間やってるそうよ。ちょうどよかったわね。」

「あちたから?いつ行くの?」

「そうね。準備に明日一日かかるだろうから、あさってから、行ってらっしゃい。」

「わーい!あさってから行って、、、?」


 ん?何か違和感が?母はなんて言った?

 『あさってから、行ってらっしゃい。』と言った?

 『行ってらっしゃい。』?

 そういえば最初の時も『行ってらっしゃい』と言ったような。

 あれ?


「えと、ママは行かないの?」

「行かないわよ。お仕事あるし。」


「・・・。」


「そうだ。街に行くなら、ついでにお使いもお願いしようかしら。キルケならできるわ。それと泊まる宿の手配と、あとはお泊まりの準備と。そうと決まれば!」


 あれぇ?おっかしーいなー。

 母と初めてのお祭りを楽しむことを想像してたのに、なんか違う。

 はじめてのおつかい。〜異世界で大冒険スペシャル!〜が始まりそうだ。

 しかも宿泊込みで?この歳で?


 なんだか、私の想像の斜め上の方向にトントン拍子で進んで行く。

 ここは一つ、『ひとりなんてむり〜〜〜〜!ママといっしょにいきたい〜〜!!』と駄々をこねましょう。かわいい子供成分を存分に発揮すれば、きっと一緒に来てくれはずです。私はかわいい娘なのですから!

 と考えてた最中さなか、母がいなくなっていました。

 「ママどこー?」と探すこと数分。母は、曾祖母、祖母、叔母、従姉妹、曾祖母の妹、曾祖母の妹の娘と孫ら、ともかく、ロホにいる魔女を連れて戻ってきました。


「キルケ!初めてのお使いに行くんだって!!」

「もうそんなに大きくなったのかい。」

「何作ればいいかしら?今日はお祝いね。美味しいもの作るから待ってさい。」

「私もお使い頼もうかしら?」

「いいかい!キルケ!外はすこーしばかり危険よ。良い人と悪い人を見分けなくてはなりません。」


 矢継ぎ早に声をかけられます。

 キルケ!はじめてのおつかいにいく!!壮行会が始まってしまいました。


 なんでお使いがメインに!

 お祭りに行くことがメインのはずなのに!しかもひとり。

 

 こうなると、ムリとは言えません。雰囲気に流されるだけです。

 不安いっぱいに顔を引きつりながら、ワイワイガヤガヤと美味しいご飯を食べるのでした。


 こんなはずじゃなかったのにーーー!!!

 おまつりにいきたいなんて言うんじゃなかった!!!


 そして、次の日の準備も大変な思いをするのでした。

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