第38話 六月二週(⑦)

 茂田は俺に「分かったな」と言うと、その場から離れていった。


「あ、おい、待てよ」


 連れの男がそれに気付き、茂田を追いかける。

 俺と日置は、その場に二人残された。


「何があったんだ?」

「いや……。なんか、茂田が南に告白するって」

「はぁ? 何がどうなったらそんな話になるんだよ」

「俺が知りたい」


 とりあえず、と日置は近くのベンチに腰掛け、俺も座るように促す。

 日置の隣に座った俺は、以前の出来事も交えつつ、一連の流れを伝えた。


「なるほどな。茂田がせいらちゃんを狙ってるっていうのは、まぁ思った通りだな」

「うん」


 そして、茂田は俺に『南と付き合っているのか?』と言った。

 確認してきたのが三人目となると、さすがの俺でも思うことがある。


「……なぁ、俺って」

「ん?」

「南と付き合っているように見えているのか?」


 日置はてっきり肯定してくるものだとばかり思っていたが、質問には答えなかった。

 その代わり、真剣な表情で俺に問いかけた。


「お前さ。茂田がせいらちゃんに告白するって言って、何も思わなかったのか?」

「え……」


 茂田が南に告白すると宣言して、俺は確かに驚いた。

 その言葉を聞いた瞬間、心臓が跳ね上がったように感じた。

 そして、俺は何も言えなかった。


「せいらちゃんさ。お前と話してる時、楽しそうにしてるよ」


 俺の言葉を待たずに、日置は続けた。


 その言葉に俺も頷き、『そうだよな』と思った。

 俺の話で南が笑って、南の話で俺が笑う。

 そんな時間を、俺も楽しいと感じている。

 

「傍から見れば、『あ、この二人は何かあるな』って思っちまうくらいには、な」

「……」

「多分、茂田もそれに気付いて、焦ったんじゃないか? 本気で好きだったから」 


 俺は茂田の立場でものを考えたことはなかったが、日置の言葉には何だか説得力があった。


「まぁ、正直茂田のことなんてどうでもいい。問題はお前だ」

「俺?」

「お前、茂田がせいらちゃんに告白しても良いのか?」

「……」


 またしても、俺は何も言えなかった。

 俺にはそれを拒否する権利はない。


「もっと言えば、『誰かがせいらちゃんに告白しても別に良い』ってお前が思ってると、せいらちゃんに思われても良いのか?」

「え……」

「だから茂田はわざわざ言質を取ったんだろ? 告白するって言って、お前は別に止めなかった。『山岸は告白のこと知ってるし、構わないって言った』とかせいらちゃんに伝えて、揺さぶるとかな」


 そんなこと、考えてもいなかった。

 俺は急激に不安に駆られた

 日置の言う通り、茂田がその行動を取るのだと思った。


「今せいらちゃんに告白しても、茂田は成功しないと思う。でも、諦めなければ、時間が経つうちに、どこかで心が開かれる時があるかもしれない」


 そして俺は、日置の次の一言で、何故こんなに不安なのか気付くことになった。 


「お前も、いや、お前がそうだったんじゃないか?」

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