第12話 五月一週(中編)

 日置が見ている方向に視線を向けると、確かに見覚えのある女子が二人いた。


 非常に、非常に嫌な予感がする。


 俺は女子の視界に入らない場所に行こうとするが、日置はそんな俺に構わず女子に近付いて行った。


「おぃ~っす」

「あっ、日置君?」

「何してんの?」


 クラスの中で友人は俺一人だと思っていたが、日置は意外とコミュニケーション能力が高かったらしい。

 平気で女子グループの中に飛び込んでいって、話し始めた。


「UFOキャッチャー」

「へぇ~、取れてるの?」

「全然! あそこのやつ取れない」

「あ~、難しそうだな」

「日置君取ってよ~」


 あっという間に女子と馴染む日置を見て、俺は驚愕していた。


 おかしい……。

 俺は入学してからクラスの女子と一度も会話をしていないというのに……。


 ちなみに日置から数メートル離れて、女子達の視界に入るギリギリの位置に俺はいたが、未だ存在は認識されていないようだ。

 チャラチャラする三人を眺めていると、ようやく話題が俺に回ってきた。


「日置君一人でこんなとこ来てるの?」

「いや、遼太郎と」

「え?」

「ほら、そこに」

「あ……山岸君、いたの!?」

 

 うん、俺の名前を知っててくれただけで良しとしよう。


 決して悲しくはない。


 でも立ち去っておけば良かった。


 悲しくなんて、ない。


「う、うん」

「へぇ~、二人で何やってたの?」

「ゲーセンで遊んでた」


 そして、俺を置いて日置と女子は話を進めていく。

 一瞬で蚊帳の外になった俺だったが、ちょっと安心した。


 悲しくなんて、決してない。


 そして、部外者面して三人の会話を聞いていた俺に、不穏な気配が忍び寄る。


「そっちも二人で遊んでたの?」

「ううん」

「もう一人来てるよ」


 少し離れた場所から、もう一人の女子が近付いてきた。


「誰? 俺知ってる人?」

「さすがに知ってるよ~、クラスメートだもん」

 

 知り合ってからの時間なら、この中で一番長い、教室では俺の前の席に座る女子……。


「せいらも一緒に来てるよ」 


 今一番会いたくなかった彼女は、最後に会った時と同じように驚いた顔をして俺を見ていた。 

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