第4話 四月三週

 学校からの帰り道、俺は前方との距離を測りながら歩いている。

 決して不審者ではないと思いたいが、傍から見たらそう見えてもおかしくないかもしれない。

 そう、原因は『南 せいら』だ。

 南が俺の前方を歩いているのだ。

 教室で見慣れた後ろ姿だ、間違うはずがない。


 むしろ、南とは小学校からずっと同じクラスだった。

 幼馴染というわけではないが、家もそれなりに近い。

 つまり、帰り道も同じということだ。


 俺の自宅から駅までは自転車、駅から学校までは徒歩といった感じで、油断するとすべての場面で南と遭遇する。

 入学からこの日までで南の行動パターンを学習した俺は、極力南と鉢合わせしないよう、気を使って登下校していた。

 

 決してストーカーではない。


 だが、いつもより遅い時間にも関わらず、不覚にも南と帰宅時間が被ってしまったのだ。

 決して追いつかぬようにペースを落として歩く俺と南は、一定の距離を保っている。

 気付かれるか、気付かれないか、ギリギリの距離感だ。

 このペースだと電車に間に合うのか?

 次の電車はしばらく後になる。

 乗り遅れたら困るな、と思っていると、ポンと肩に手を置かれた。


「うおっ!?」


 前方に集中しすぎていたのか、それとも緊張していたのか。

 驚きすぎて変な声が出る。


「うわぁ!?」


 俺が驚きすぎたせいか、手を置いた方も変な声を出した。


「……遼太郎、驚かすなよ」

「……驚かしたのはお前だろ」


 言っておいてなんだが、日置は驚かそうとした訳ではないだろう。


「いや、クラスメートを尾行してるやつがいてさ」

「……」

「驚いて声掛けたら、変な声出されて」

「いきなりで驚いたんだよ」

「……まさかストーカーか?」

「違う。何でお前がこっちにいるんだ?」

「バス停があっちだから」


 日置の示すバス停は駅前にあった。


「そうか、俺も駅に向かっているだけだ」

「せいらちゃん追いかけてたんじゃなくて?」

「同じ駅なんだよ。あとせいらちゃんって言うな」


 お前、南と話したことないだろう。


 そんな話をしていると、南が振り返って俺達を見ていた。

 久しぶりに正面から見た南の顔は、驚いているように見えた。

 そして次の瞬間、南は駅に向かって走り出した。


「あ……」

「あら……」


 突然の光景に、言葉を無くす俺と日置。


「……あれ、俺達を見つけたから走ってったよな……」

「……そうだな」

「……つまり、俺たちのせい?」

「……そうかもな」

「いや、遼太郎のせいだな。間違いない」

「……」 

  

 まぁそうだろうな、という返事の代わりに、日置を肘でつついた。

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