Reunion-07
「バルドルを回復させる事さえできれば、いや、魔石を通しさえすればシークさんに送れるんだ!」
「バルドルはヒーラーに回復をねだってる……バルドルはこの可能性を分かっているのよ!」
「ただの欠片だけど、バスター証にもテュールの効果は生きていた。チッキーくんの気力に書き換えられてもそのままだとしたら、テュールがその橋渡しをする事も可能だ」
今まで盛大にばら撒いていた1つ1つの意見が、突如として勝手に組みあがっていく。
無駄な意見もあったけれど、意味のある意見を出すために必要だった。そう思えるくらい、この場で皆が導き出した答えは整ったものだった。
「シークさんの……そうだ、聖剣バルドルはシークさんの気力だか何だかを自分にコッソリ刻んでるって、ゼスタさんがそう言ってたよな!? だから封印出来てるんだ」
「という事は、バルドルへの回復魔法は、やっぱりシークさんに届いているのよきっと!」
「あくまでも理論上、だけどな。バルドルとテュールは分かっているのかもしれない。その上で、確証がないから黙っているんだ」
「バルドル自身も相当に消耗しているからな。バルドルを通じた回復に、保険を掛けて魔石による回復も用意した。今はもっといい案が持ち込まれるのを待っている……。とにかく今はモンスター退治だ!」
気分が上がったり下がったり、本当に忙しい。でもさっきまでの後ろ向きな気持ちとは全然違う。モンスターへの八つ当たりじゃない、早くギリングに戻りたくて、居ても立ってもいられないんだ。
今はただ、立ちはだかるモンスターが邪魔で仕方ない。早く倒して、管理所に連絡を入れて、ゼスタさんやビアンカさんに呼びかけなきゃ。
* * * * * * * * *
「シールドアタック! ディズ、私の気力で引き付ける!」
「ブルクラッシュ! アンナ、力溜め終わったら教えて! ……跳ぶ!」
管理所からの放送は、ズーという巨大な鳥型のモンスターが現れたという内容だった。昼間泳いでいた砂浜よりもずっと先にある小さな船着き場に、空で旋回する黒い影が何体も確認できる。
ぼく達が駆け付けた時には既に戦闘が始まっていて、4組程のバスターが分散してズーを狙っている所だった。辺りは暗く、黒い翼のズーの動きは分かり辛い。
他の魔法使いがライトボールで照してくれ、確認できたのは4体だ。ベテランがいれば難なく終わる……はずだった。
けれどこの場にいるパーティーの構成が悪い。攻撃職の魔法使いは見たところ2人だけ。飛び道具を持っているのはアーチャーが1人、それとうちのクレスタの合計4人。
他のパーティーの近接職は、殆ど何も出来ていない。ズーの急降下を防ぐだけで精いっぱいだ。でも、防御を担当してくれるならそれはそれで助かる。攻撃担当が専念できるからね。
「クレスタ! 用意出来たか!」
「任せろ、この時のためにライフル背負ってんだ! ナイロンコアの入ったホローポイント(弾頭の中央部が凹んだ鉛弾頭の一種を指す)で、当たれば肉が中から喰われるぜ!」
「説明聞いても分かんないってば。とにかく照らしてあげるから、外さないでよね」
ミラがライトボールを打ち上げて周囲を照らし、クレスタがズーに狙いを定める。次の瞬間、金属の板を思いきり殴ったような衝撃音と共に、弾丸が発射された。
勿論見える訳はないんだけど、その弾がズーに命中した事は容易に分かった。クレスタの正確さは誰にも負けない。自慢の8インチバレルの38口径での腕前は見事だ。
クレスタは30メータ程離れたところで暴れまわるウォーウルフを、4発撃って4匹に命中させられる。訓練を積んでも全弾命中は難しいのに。
「フッ、不人気職を舐めるな」
「アンナ、力を増幅させるから! 自分たちのタイミングでやっちゃって!」
「そのまま……行くよ!」
「高く跳びなさい……よっ!」
クレスタが弾丸をズーに命中させた事で、ズーの高度が下がる。1発では倒せなくても、あの様子じゃ高度を維持するだけで精いっぱいだ。
不規則な動きは飛び道具には不利。だったら大剣で、そんなの関係ないくらいの大技を繰り出すまでだ。
「会心……破点!」
アンナが押し出す盾に飛び乗り、そのまま足をばねのように使って空へと跳び上がる。ゼスタさんとビアンカさんの見様見真似で完成させた、合わせ技だ。
「このっ……!」
剣をズーめがけて勢い良く突き立て、渾身の力でひねる。これはシークさんとバルドルにかつて教えてもらった技だ。
ぼくは大剣を扱う。ロングソードでの繊細な動きは出来ないから、その分強引に捻る動きに変えている。
「キェェェェ!」
「プロテクト! ディズ、ズーが落ちてくるわ!」
「ガードする! シールド……ガード!」
「翼を撃つ! 避けて首を狙え!」
地上に降り立ってもズーは厄介だ。強靭な足で地を蹴り、突進してくる。アンナが鷲のような頭部を押さえつけている間、ぼくとクレスタが止めを刺す。
「愛してるぜ、俺の自慢の8インチバレル。38口径でも……十分だ!」
「行くぞ! ブルクラッシュ!」
ぼくの決め技はブルクラッシュ。シークさんが一番得意としていた技だ。刃に対して斬る面は確実に垂直に。それを意識しなくても出来るようになるまで、2年かかった。
クレスタが銃の腕では誰にも負けないように、ぼくだってこのブルクラッシュではシークさんにだって勝てる自信がある。
ぼくの斬撃が肉を断つ音に、乾いた発砲音が重なる。ズーの突進を押さえ込んでいたアンナが力を失った鷲頭を地に叩きつけ、ズーは二度と動かなくなった。
「よっしゃ、1体終わり! うーん流石は俺の愛銃! さて残りは!」
「あれ……さっき4体に見えたんだけど、1体倒したのに明らかに5体飛んでるよね」
「数なんて気にしない! 全部倒せばいいのよ、全部!」
「ミラ! ちょっと待って……あーんもうすぐ走って行っちゃうんだから。プロテクト・オール!」
最終的には10組のバスターが集まり、結局1時間程の戦闘で倒したズーは16体だった。
大きな群れがこんな人が多い所に来るのは珍しいと思っていたら、年に1、2回、こういった事があるらしい。
灯台、町の監視塔、色々なところで見張っていて、1体でも確認出来ればすぐに警報を出すそうだ。慣れているからパニックも起きず、ゴウンさんもぼく達に任せてくれたんだね。
「疲れた……」
「私も疲れた。でも駄目、興奮して絶対寝られない!」
「管理所に行こう、魔石の事を伝えないと! 疲れてる場合じゃない」
「疲れてるならヒール掛けてあげようか」
「うわっ、ミラってば鬼だわ」
退治が終わってズーの死骸を焼くと、各バスターが宿や家に戻っていく。思えばモンスターの死骸を焼くというのも、シークさん達が始めた事だった。
19時から始まった討伐も、ズーを焼き終わるまで待って解散すれば22時になっていた。
「22時か。今から管理所に向かって23時前に着いたとしても、もう宿直の担当しかいないよね」
「討伐報告は明日の受付らしいし、そうかも。あ、でも待って? 22時って事は、時差で言うとギリングは……」
地図で見ると、メメリ市からギリングへは経度が東に130度くらい違う。という事は、時差はおよそ9時間。東にあるギリングは今、朝になったところだ。
「今から管理所に行って宿直の人に話をした後、ギリングの管理所に電話すれば、ちょうどいい時間よね?」
「そうか、あっちは管理所の開所時間になる! 行こう!」
「ゴウンさん達には管理所から連絡をしよう。夜に出港する船があればすぐ乗らなきゃ」
この船着場から管理所までは、徒歩で30分。どんなに急いで管理所に行こうと、自分達が早くギリングに戻れるわけでも、シークさんの封印がすぐに解ける訳でもない。
それでも暗い通りを小走りせずにはいられないくらい、ぼく達は大きな希望を持っていた。
「ああ、体が重い、戦闘の後じゃなかったらもっと速く走れるのに」
「えっと……『そうかい? 体は普通に見えるけれど。君の心が軽すぎるのさ』って、バルドルなら言ったはずね」
「言いそうだね。気持ちが先走ってるだけだと言わずに、澄ましたように捻りを利かせる」
「そんなバルドルを、シークさんがそっけなく返り討ちにするんだぜ」
「そんな会話もきっとまた聞ける! いや、この方法なら絶対にいけるわ!」
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