Reunion-06
「意図しないテュールの妨害……いや、でもそれだとアレスは? テュールで封印しなかったのは何故なんでしょう」
テュールが外に残された理由は何となく説明がつく。けれど、アレスはどうなんだろう。
今のシークさんとの共通点は? バルドルが封印の外にある事と、何か同じ条件はないんだろうか。
きっと何かを見落としている。
どうしてシークさんは封印を維持できているんだろう。バルドルはテュールと同じ? いや、安定化させるなんて話は聞いていない。
「バルドルは、封印を維持している……。シークさんの魔力、シークさんの気力……手放せない、封印を解除できない、瀕死のシークさんが解除と共に死んでしまうかもしれないから」
「それ、それだディズ! テュールは封印を維持する役目じゃない、アレスを守ってたんだ!」
「アレスを守る? クレスタ、どういう意味?」
「アレスが封印を守れるように、テュールは外でバルドルと同じことをしていたんだよ!」
そうか、そうだ! テュールは元から封印に使われていたんじゃないんだ!
武器の気力と魔力は持ち主のもの。アレスが封印を発動させた時、使ったのは……。
「術式は確かにアダム・マジックが彫って、魔力も込めたはずだ! でも、恐らくその魔力を戦いで消費したりして、アダムの魔力だけでは封印出来なかったんだよ」
「もう! つまりどういう事? こっちに考えさせないで答えを言って! もう私考えが吹っ飛んじゃった!」
「持ち主だよ、アンクスの気力だ! ヒュドラの封印を維持するために、アンクスの気力を使ったんだ」
「え、でもそのアンクスはもうこの世にはいないのよ? それじゃあ封印はあっというまに解けてしまうじゃない」
ミラがもっともな意見を述べる。確かに、気力の持ち主、つまりアンクスはこの世にはいない。封印を維持する事を考えるなら、アンクスの気力じゃない。
でも、クレスタはとてもいい事を言ったと思うんだ。
「クレスタの言っている事は、外れてはいないと思うんだ。多分だけど、テュールは……自分に貯めていた魔力をアレスに渡していたんじゃないかな。アレスだけじゃ足りない魔力を、自分の分まで使って補ったんだ」
「え? でもどうやって魔力を封印の中にいるアレスに渡せるの?」
「アンナちゃんの言う通り、そこが問題なんだ。それが可能なら、そもそもバルドルや他の武器が黙っていないはずさ」
ゴウンさんが言う事も間違っていない。でも、ぼく達はもう一度考えるべきなんだ。どうしてシークさんが封印の中にいて、バルドルがそれを維持しているのかを。
「アレスとテュールの当時の魔力の主はアダムです。アダムは魔力を込められる、解除出来る。そしてアレスもテュールも、アダムの分身。今のバルドル達のように」
「分身同士で魔力が繋がっている? いや、それだけじゃ弱い」
「魔石……」
「そうか! リディカ、その魔石を貸してくれ!」
ゴウンさんが魔石を手に取る。そう、魔石は魔力や気力を吸収する。そして放出する事も出来るんだ。
「テュールはその盾の裏側に魔石が多く使われていたんだろう? アレスにも魔石が使われていたのなら、アダムの魔力を通じて……」
「魔力か気力かで繋がっていれば、後は魔石を通じてやり取りができるんだわ!」
「突破口が見つかった、これでいける! クレスタ、アンナ、ミラ、すぐにギリングに戻ろう!」
「ええ、ゴウンさん! ゼスタさんとビアンカさん、あと……シャルナクさんとイヴァンくんにも知らせて下さい!」
これでシークさんは復活できる! バルドルに、魔力をシークさんに返すように言えばいいんだ!
俺達よりもゼスタさん達が先にバルドルに伝えるかもしれない。でも、それでもいいんだ。役に立てたのならそれでいい。
ケルベロス、グングニル、アルジュナはヒュドラ戦に参加していない。アレスも封印されていた間の記憶はないし、その仕組みも分かっていない。テュールも記憶はないはずだし。
残るはバルドル。当時の封印の仕組みを把握しているならこれを伝えて、同じ方法が試せることを教えてあげたらいい。
そうして
そんなぼく達を引き留める発言をしたのはレイダーさんだった。
「待ってくれ。バルドルに魔石は使われていないはずだ」
「……あっ」
「それに、バルドルはシーク同様に消耗しきっていて、シークに渡せる魔力も気力も極僅かだと聞いている」
「じゃあ、アレスとテュールのようにはいかない、って事ですか?」
レイダーさんがゆっくりと頷き、そのまま顔を上げることなく腕組みをする。
そうだ。肝心な事を見落としていた。
聖剣バルドルに、魔石は……使われていないんだ。
「打つ手、無しってこと?」
「じゃあ、この魔石を封印に打ち込む装置を試そう、そうすれば……!」
さっきまで手が届きそうだった夢。絶対にそれでシークさんを助け出せると思っていた。
その夢への梯子があと少しで届かない。それが分かってしまうと、とうとう期待していた分だけの絶望感が襲い掛かってくる。
モンスター相手なら絶対に勝てる。でも、目標にしていた事を、どうしても助けたいシークさんを、僕の憧れの英雄を、助けられないかもしれないというこの絶望には勝てる気がしない。
自然と目から涙が零れていく。悲しいんじゃない、悔しいんだ。
「絶対に解けないなんて筈はない。解除の術式……ああ、シークの魔力じゃなけりゃ解けないか。じゃあ1000人、いや、1万人で斬りかかって、1万人で術を掛けて、とにかく封印との力比べを……」
レイダーさんは冷静に発言しただけで何も悪くなんかない。むしろ見落としてぬか喜びしたぼく達が悪い。でも申し訳ないと思ったのか、なんとかして封印を破ろうと力技で押していく作戦を提案を始める。
その時だった。
「……警報だ、サイレンが聞こえる」
「警告音が3回、管理所からね」
家の外でけたたましいサイレンが鳴る。管理所からという事は、モンスターの襲来という事。大事な話をしている最中なのに……!
「ディズ、行こう。俺は正直、何ともならないこの感じをモンスター退治で吹き飛ばしたい」
「だったら私も行く。暴れたい、暴れて、ただとにかく何かを守ってないと頭がパンクしそう!」
「行きましょ。さっきまで描いていた薔薇色の未来はないけれど、シークさんだったらきっと、こんな時にだって人助けに走っていたと思うわ」
みんな、一度宿に装備を取りに帰ろうと言う。そうだ、ぼく達の目的はシークさんを助けるためだけじゃない。同じように誰かを助けて、あの人の進んだ道を誰よりも守っていきたかったんだ。
「行こう。ゴウンさん、俺達行きます」
「宜しく頼む。酒を飲んでいたのもあるが、カイトスターもレイダーも、家族を守らなきゃいけない。俺とリディカは子供を迎えに行く」
「分かりました。引退した皆さんを引っ張り出さなくていいよう、しっかり戦ってきます」
挨拶をすると、俺達は今度こそ荷物を持って玄関に向かう。その背後で、リディカさんが「待って」と声を掛けた。
「お守り代わりに持って行って。武器屋マークの主人から貰ったピアスよ。シークちゃん達とお揃い。とても小さいけれど、この石はテュールの欠片も使われているの」
「それなら俺の分も渡そう。前衛職のアンナちゃんとディズ、2人が付けるといい」
「はい、有難うございます! あれ?」
お揃い?
「テュールには魔石……はっ、そういえば! シークさんとお揃いって、これ、確かシークさんが耳につけてましたよね!」
「って事は、シークさんは魔石を持ってる? バルドルにこのイヤリングを取り付けたら、魔石同士でやり取りが出来るのかも!」
間違いない、シークさんは封印された時、このイヤリングを身に着けていたはずだ。ビアンカさんが「バルドルにも付けてあげたの。きっとシークとお揃いのつもりなのよ」って言ってたから。
ってことは、聖剣バルドルには小さいけれど、魔石が取り付けてある? それも、5年も前から……!
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