Reunion-05

 


「ゴウンさん、申し上げ難いんですけど、魔石を使う案はもう幾つか試したんです。魔石に貯めた魔力や気力を封印の中のシークさんに届ける手段がありません」


「あれ? でも待って、魔力を送る装置って事は、シークさんに送れるってことですよね」


「実際にはやってみないと分からない。カイトスター、後ろの本棚にある黒い箱を持ってきてくれ」


「分かった。えっと……これだな」


 天井まである白い本棚から、カイトスターさんが黒い箱を取って戻って来た。中には真っ黒で拳ほどの大きさの石が入っている。


「これ……は、魔石!」


「ああ、魔石だ。騎士の称号を使わせてもらったよ。バスター協会に純度の高い魔石を見つけてもらった」


「シークちゃんを助けるために、バスター協会も血眼で探してくれたの。きっと世界中探しても、こんな大きな魔石はそうそう見つからないと思う」


「凄い、こんなに大きな魔石は初めて見ました」


 魔石には鉱脈と呼べるものもなく、見つかるかどうかは運次第。光の加減によっては赤くも見える。加工される前の状態で、こんなに大きいものは滅多にない。


 けれど、問題はこの魔石の大きさじゃない。


「でも、この魔石をどうするつもりですか? 装置は?」


「装置っていうのは、この魔石に目一杯魔力を込めたものを、思いきり打ち砕くものなの」


「えっ!? 砕くんですか!」


「そう。でもただ砕くだけだと、魔力は四方八方に散ってしまう」


 砕いた際に開放される膨大な魔力を、封印の中にまで浸透させるというのが案らしい。ここに来てまさかの力技。どんな強力な魔法でも壊れなかった封印の中に、魔力が届くのかな。


「砕けて飛び散らないためには……確実に封印だけに魔力をぶち当てるためには……」


「それをバスター協会と考えていたの。そこで、大きな魔石を筒状の入れ物に詰めて、台座にセットして封印に当てて、銃のように魔石を打ち出して破壊する。圧縮して押し出したものが、僅かでもシークちゃんに届けば……」


「火薬無しの、爆発しない大砲のような感じですね。封印自体の研究が進んでいない今、方法を考えるというよりも力技で押し込もうと」


「でも、魔力を流し込んだ所で、シークさんは封印の中で目覚めるのかな? 自ら封印を解除出来るのかな」


 魔力や気力を仮に流し込めたとする。問題はシークさんを回復出来ても、自力で封印を解除できるのかどうかだ。


 時が止まったような空間で、体は動くんだろうか。意識は戻るんだろうか。解除の術を発動できるんだろうか。


 ぼく達は、今まで封印を外側から壊す事を一生懸命考えてきた。今回の魔石の件も、外側から壊すためのものだと思っていた。


 はたして、魔力を内部に送るという行為自体に意味があるのか、それも含めてやってみないと分からない。


「やれるだけやってみましょうよ、これがもし駄目だったら、中に魔力を送る方法がない、外側から壊すしかないって結論付けられるんだから」


「この大きさの魔石をイチかバチかに使うなんて勿体ないけど、シークさんを助けられるなら」


 アンナの言葉に同意して、ぼくは早速明日にでも装置の製作をお願いしようと呼びかけた。カイトスターさんとレイダーさんは先に話を聞いていたのか、ぼく達のやる気にニッコリと笑顔を作ってくれる。


 その後レイダーさんが焼いた魚を運んできてくれた。案の定ゴウンさんとカイトスターさんと一緒に、お酒を飲み始めた。


 いつの間にかテーブルの上には多すぎるくらいの料理が並び、ぼく達もそのまま頂く事に。鶏肉の蒸し焼きも美味しいけど、やっぱり獲れたての魚は最高だ。



「……ねえ、一緒にアークドラゴンも封印されているのよ? アークドラゴンにも魔力が届いちゃうよね?」


「えっ? あっ、そうか。回復するのはシークさんだけじゃない。でもアークドラゴンは封印を解除できないんだし」


「いえ、ミラちゃん、とても重要な事に気づいてくれたわ。思い出してみて。ケルベロス、グングニル、アルジュナ、アレス……封印を自ら解いた武器があったかしら」


 リディカさんの言葉に、皆はハッとした。そう言ったリディカさんですら、今まで頭から抜けていた事だ。


 武器達は、自分勝手に封印を解いた訳じゃない。術者が死ぬか、術者が解除するしか方法がないのであれば、当時の封印を保っていたアダムが封印を解いたという事になる。


「バルドルさんに聞いた事があるの。封印を解除したのは自分だって。でも自分が封印出来ているかどうか、実は確認できていないって。アダムの術が抜け出てしまったって」


「シーク達を強くさせるため、4魔の封印を1体ずつ解くつもりだった、と。確かそういう話もしていた」


「アダムの健康状態からして、封印がうっかり解けてしまったって事だろうか。バルドルが貯め込んでいたアダムの魔力を解き放ったのではなく、アダムが維持できなくなった」


「各武器には封印を維持するための術式が刻まれている。その魔力を自ら手放すことも出来るはずだ」


 ぼく達は武器達の事をもう一度よく思い出そうとしていた。ゴーレムの封印を維持しようと片方の剣で耐えていたケルベロス。封印が維持できずに4魔を野放しにしてしまった、グングニルとアルジュナ。


 そして、ヒュドラの復活が確認されるよりも、はるか昔に発見されたテュール。封印を強引に解かれ、魔王教徒に拾われていたアレス。


 ……封印を、強引に解かれた? 何故テュールはアレスと一緒に封印されていなかったんだろう? イヴァンくんの背に彫られた術式は封印解除のものだと……あれ?


「ねえ、アレスとテュールのパターンだけ、他と違う気がするんだけど」


「どういう事?」


「だって、テュールはかなり昔からバスター証の材料にされてたんだよね。という事は、テュールだけ封印に使われてない。でもテュールは気が付いた時には削られていたって」


「アレスと同じように、ヒュドラの封印が維持されている間は記憶がないって事だな。待てよ、イヴァンくんの背に術式を彫ったのは魔王教徒、だけど魔力を込めたのはアダム・マジック! そうだよな?」


「ええ、意図していたかは分からないけど、アダムも外から解除しようとしていた事になるわ。どうして? アレスの魔力を回収しないまま、どうしてテュールだけ封印の中に入れずに……あっ」


 アンナもおかしな点に気づいたみたいだ。テュールを封印の中に入れなかったことが、何かヒントになるかもしれない。


「テュールのパターンって、今回のシークさんのパターンと同じじゃないかしら!」


「アレスとテュールの魔力の持ち主は、どちらもアダム・マジックだ。シークさんと聖剣バルドルの魔力の持ち主は……」


「どちらもシークさんね! そして、アダム・マジックは自分の力で封印を解かなかった、いや、解けなかったんだわ」


「アレスの能力? いや、テュールの能力だ。以前のバスター証だが、力を安定化させる効果があった。逆に言えば、どんなに魔力を込めようが気力を込めようが、本人の限界を超えないよう制御されていた」


「テュールは封印から引きはがされ、自らの封印は解けてしまったのね。けれど、アレスの封印を解こうとするアダムの力すら、テュールは弱めてしまう。逆に不安定だったアダムの力に対しては補っていたのよ」


 何かが分かりそうな気がしている。みんな、それぞれが不審に思った点を繋げていこうとしている。


 この点と点を繋げた時に完成する絵。そこに封印を解くための答えがあるんだ。


 カイトスターさんが分かり易いようにとコインをそれぞれの武器に見立て、テーブルの上に並べる。


 不安定だった封印を維持できなかったケルベロス、グングニル、アルジュナを除き、残ったのはアレス、テュール、そしてバルドルの3つ。


「おそらく、封印を解こうとする魔力が足りないから、アダム・マジックは解除の術式を彫られたイヴァンを利用したんだな」


「なるほど、そこに改めて魔力を込めたら……いや、本当に解除の術式だったのかは分からないけど、少なくともアダムの魔力がそこに追加される事になる」

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