【Epilogue】

Epilogue



―Epilogue―





 燃え朽ちていくアークドラゴンを背に、シークがゆっくりと歩き出す。その背には当然のように聖剣バルドルが担がれている。


 シークは青々とした草を踏み分けながら進んでいく。視界の先には村の外壁が見え、一番高い見張り台の屋根だけが顔を覗かせている。


 時を止めていたシークにとっては、体感として僅か1ヶ月での帰郷だ。それでもその光景は懐かしく思えるものだった。


「ちょっと休憩させて。ポーションを飲んでおくよ」


「ここでエリクサーを選ばないのが何とも君らしいね」


「だって、勿体ないじゃん」


 シークは貧乏性を指摘されて小さく笑う。地面から飛び出した白い岩に腰を下ろし、バルドルを脇に置いて、ポーションの小瓶の蓋をキュッと回す。


「ここが……初めて君を使って戦った場所だよね。覚えているかい」


「勿論。君がオーガに油断して背を向けた事まではっきりと」


「はははっ。その頃に比べたら随分と上達しただろ? バルドルと出会わなかったら俺は何をしていたんだろう」


「ありもしない過去を妄想するより、これからの事を考えるべきじゃないのかい」


「そうだね、まだバスターとしてやりたい事が沢山ある」


 雲が所々うっすらと浮かんでいる青空の下、草が僅かに揺れる程度の爽やかな風を浴びながら、シークの目は遠くに見える山の頂を見ていた。


 聞こえて来るのは風の音、そしてかすかな鳥の声。それらが昼下がりの休息をいっそう長閑に感じさせてくれる。


「ここにこうして来るのは何年ぶりかな」


 シークは初めてバルドルと共に戦った時からの年月を、指折りで数える。


「僕の記憶によると、7年と4か月ぶりだと思うよ」


「そんなに経ったっけ」


「17歳で旅に出て、今君は何歳なのさ。いったん20歳のお祝いの時に戻ったきり、君は村に1度でも寄ったかい?」


 20歳の誕生日から約5年。その間シークはずっと封印の中にいた。初戦はそれよりも2年前の春の出来事。確かにバルドルの言う通り7年と4か月が経過している。


 シークはその事実に小さくため息をついた。


「帰ってないな。じゃあ……早く戻るか」


「旅に? それとも村に? 出来る事なら旅に戻って貰いたいところだけれど」


「君は一時でも一緒に過ごした仲間と、再会したいなんて事は思わないのかい」


「まあ、そうだね。向こうが会いたがっているのなら、寄ってあげてもいいと思う」


「素直じゃないな、今更だけどね」


 シークはゆっくりと腰を上げ、それから脇に置いてあったバルドルを持ち、ゴツゴツした岩から飛び降りる。


「行くよ、バルドル」


「僕を当然のように持ち歩いてくれて、どうもね、シーク」




【Breidablik】

 魔法使いは、喋る伝説の聖剣を拾って旅に出る……魔術書も買わずに。



 これは魔法使いの少年と喋る聖剣が繰り広げた、壮大でのんびりとした冒険旅の中のほんの数年間のお話。








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本編を最後まで読んで下さって有難うございました!

エンドロールの後は番外編が続きます。どうか読んで行って下さい!

いつかの日かシークとバルドル、そして仲間たちの事を思い出して、懐かしんで頂ける瞬間があることを願っております。


この作品を読んでいただいた事で、何か心の中に持って帰って貰えるものがあることを願って。


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