Top Secret-13


 * * * * * * * * *




「よっしゃあ双竜斬! 続けていくぞ!」


「ちまちまやってても時間が掛かるだけ! 大技で行くわ……魔槍!」


 ギリングの北西の平原で、一際激しい戦闘が繰り広げられている。


「バルドル、いくよ!」


「僕の気持ちはもう既に行っているから、早く追いついておくれよシーク」


「なんだそれ。よし……俺も大技だ! フレア・ブルクラッシュ!」


 シークがボアを相手に渾身の一撃を繰り出す。高温の火球を爆発させる魔法「フレア」を込めるのはやり過ぎだが、ちまちまと戦い、道中で自然に疲れが癒えてしまえば意味がない。


「気力は引き出してやる! ストリング引き千切るつもりでめいっぱい放ちやがれ! パワーショットだ!」


「こ、こうか? 技などさっぱり分からないが……ふんっ!」


「ヒュウッ! 痺れるぜ! あと1度上を狙う度胸がねえとな!」


 シャルナクが放った矢は白い霧のようなオーラを纏い、ボアを貫通するどころか爆発してしまった。勿論特訓は始まってもいない。この威力でもまだ序の口だ。


 シークと同じく、シャルナクやイヴァンも気力の訓練を積んでいない。一撃を放つ際は、武器達に気力を引き出してもらう必要がある。


 弓術士は距離を取って安全に戦うことが出来る反面、矢の本数という制約に加え、溜めの時間が必要となる。


 僅かな失敗も許されない。非常に高度な技術を要する職業だが、真面目でひたむきなシャルナクにはピッタリだ。


「シーク、おかわりだ!」


「じゃあ食べ易い大きさに切り分けてあげるよ。残さずしっかりどうぞ」


「それは不親切にどうもね」


 今日は技の特訓ではなく、疲れて共鳴が出来る程の「空き」を作るのが目的だ。武器達は自ら次の標的を見つけ、その位置を持ち主に教える。


 春先であれば、新人のクエストの邪魔になる。しかし夏から秋は新人も自信が付き、旅をメインにするようになる。地域にもよるが、ギリング周辺はグレー等級のクエストが余る日もある。迷惑だと言われる事はない。


「アレス! えっと……うりゃあ!」


「ああ、そうでした。イヴァンさんに大剣技の名前を教えていませんでしたね」


「かっこいい名前の技がいい……なっ!」


「大剣技に、かっこ悪い名前の技なんてありません! 全部かっこいいんです! なんてったって大剣ですからね!」


 小柄なイヴァンは獣人の持ち前の力を使い、アレスの側面でゴブリンを平打ちする。ゴブリンは衝撃で潰され吹き飛ぶ。


 スイングビートというシャレた技名があるのだが、初期のシークがそうだったように、イヴァンも技名を知らない。まだまだ格好がつくのは先のようだ。


「……バルドル、上から斜めに切り払う技、名前なんだっけ」


「スラッシュかな。先に言っておかないと君は『斜め斬りィ~』なんて叫んじゃうからね。後輩の前では流石にやめておくれよ」


「だから先に聞いたんだよ。今の『斜め斬りィ~』って、俺の真似?」


 シークだけはない。ゼスタとビアンカも後輩の前でカッコつけようと、色々な技を繰り出していく。町から随分遠い場所でゴブリンの群れと巣を一掃し、適度に疲労が溜まった頃には、もう太陽が山々に隠れようとしていた。


「フルスイング! ……ハァ、攻撃を防いだり喰らったりはしてないけど、結構いい具合に疲れたわ」


「お嬢、もう共鳴するには十分ばい。ケルベロスちゃん、バルドル坊や、どげんね?」


「ゼスタはもういいぜ。俺っちも十分斬り足りたし、そろそろ帰ってさっさと名を刻んでくれ」


「シークも大丈夫だね。僕が気力をちょっぴり余計に引き出したから」


「ハァ、ハァ、本当にちょっと?」


「まあ、捉え方には差があるかもしれない」


 風が平原の草を撫で、汗を乾かしながら通り過ぎる。そろそろ切り上げようとビアンカが提案し、各々が疲れ具合れを確かめ合う。シャルナクとイヴァンは慣れないせいか、既にくたくたになっていた。


「いよいよアダムの魔力ともおさらばか。おいゼスタ、失敗すんなよ」


「お前が共鳴して俺の体使って、自分で刻むんだろうが。間違えるなよ」


 街燈が灯り、商店は殆どが店じまいを済ませている。だがそんな中、疲れながらも皆の足取りは軽い。


 バスター管理所で2つのクエスト完了を報告すれば、いよいよ武器屋マークの工房で自身の力を武器に込める事になる。


「1万3000ゴールド……か。お金には余裕があるし、シャルナクの矢をもう少し確保しておきたいね」


「そうだな。シャルナク、ビエルゴさんに言って買っといてくれ」


「いいのか? これは皆で稼いだお金だ。管理所で1日働く以上の額だというのに」


「パーティーに必要な矢だから、皆で買うんだよ」


 資金の余力はある。4魔退治の報酬やその他クエストで稼いだ分は、旅費や必需品以外に使っておらず、溜まる一方だった。


 貧乏性が抜けないシーク、富豪令嬢なのに堅実なビアンカ、遊び回る暇がないゼスタ。イヴァンにいたっては美味しそうなもの以外に興味がない。


「あの、シークさん、その……装備はみんなこのままで大丈夫なんですか? 武器は大丈夫だけど……」


「防具の事か。かなり上等なものとはいえ、あと1年使えばそれなりに痛むね。とびきりの装備をビエルゴさんにお願いしようか」


「あ、私賛成! 仲間だって分かるように揃えたいの! デザインを揃えて、縁の色だけ変えるとか」


 ビアンカが目を輝かせる。3人の装備はビエルゴの店で同じ時期に作ってもらったため、統一感がある。けれどシャルナクとイヴァンの装備は雰囲気が違う。


 店の中でもとびきり上等な防具を買ったのだが、シーク達と揃える事を想定して作られた訳ではないからだ。


「いいじゃない、壮観だと思うのよね!」


「その格好でやられなければな。それよりも先に共鳴だ。悠長な話をしてる場合じゃないぜ」


 5人は武器屋マークに寄り、マーシャに工房を使わせてくれと頼んだ。まだビエルゴとクルーニャがいると聞き、その足で工房へ向かう。


 武器に名を刻む方法は分かっているが、技術は持ち合わせていない。横にビエルゴ達がいれば安心だ。


「お邪魔します、ビエルゴおじさま、クルーニャさん」


「おお、シャルナク。工房に何か忘れ物でも」


「いえ、今から……とても大切な儀式をするんです。ビエルゴおじさまとクルーニャさんに、ご助力頂きたいのですが」


「助力?」


「信じては貰えないかもしれませんが、この武器達に力を込め……」


 シャルナクはビエルゴに説明をしようとする。だがビエルゴは微笑んでから首を横に振った。


「知っとるよ。アンデッドゴーレム退治はわしも見とった。わしは武器職人だ、武器の威力がどう変わったかくらい分かる。戦いの途中で聖剣バルドルが乗り移ったと思った。噂通りだと」


「共鳴の事、知っていたんですか」


「シャルナクも管理所で働いていれば、共鳴の話が有名になっとるのは知っておるだろ。お前さん達の活躍情報が欲しいバスターや、民間のファンは山ほどいる。わしを含めてな」


 ビエルゴがニッと笑い、クルーニャは何の話だと首を傾げる。ビエルゴはとにかく見ていろと言ってクルーニャの背中を優しくポンポンと叩き、シーク達の準備を見守る。


「おいゼスタ、俺っち達が最初にやろう」


「はっ? 俺!?」


 順番を決めようとしたところで、ケルベロスが1番に名乗り出た。ゼスタは思いもよらぬ提案に驚き、戸惑っている。


 勿論、他の武器よりも先に成功させたいだけではない。ケルベロスが最初に試そうと提案したのには、ケルベロスだからこその理由があった。


「俺っちは2つで1つ。仮に一方が失敗してもまだもう片方ある。共鳴してりゃあ成功するまでもう片方に戻れる」


「なるほど……確かにそうだな」


「バルドルとシークだけは失敗させられねえんだ。俺達で検証してやろうぜ」

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