Top Secret-13
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「よっしゃあ双竜斬! 続けていくぞ!」
「ちまちまやってても時間が掛かるだけ! 大技で行くわ……魔槍!」
ギリングの北西の平原で、一際激しい戦闘が繰り広げられている。
「バルドル、いくよ!」
「僕の気持ちはもう既に行っているから、早く追いついておくれよシーク」
「なんだそれ。よし……俺も大技だ! フレア・ブルクラッシュ!」
シークがボアを相手に渾身の一撃を繰り出す。高温の火球を爆発させる魔法「フレア」を込めるのはやり過ぎだが、ちまちまと戦い、道中で自然に疲れが癒えてしまえば意味がない。
「気力は引き出してやる! ストリング引き千切るつもりでめいっぱい放ちやがれ! パワーショットだ!」
「こ、こうか? 技などさっぱり分からないが……ふんっ!」
「ヒュウッ! 痺れるぜ! あと1度上を狙う度胸がねえとな!」
シャルナクが放った矢は白い霧のようなオーラを纏い、ボアを貫通するどころか爆発してしまった。勿論特訓は始まってもいない。この威力でもまだ序の口だ。
シークと同じく、シャルナクやイヴァンも気力の訓練を積んでいない。一撃を放つ際は、武器達に気力を引き出してもらう必要がある。
弓術士は距離を取って安全に戦うことが出来る反面、矢の本数という制約に加え、溜めの時間が必要となる。
僅かな失敗も許されない。非常に高度な技術を要する職業だが、真面目でひたむきなシャルナクにはピッタリだ。
「シーク、おかわりだ!」
「じゃあ食べ易い大きさに切り分けてあげるよ。残さずしっかりどうぞ」
「それは不親切にどうもね」
今日は技の特訓ではなく、疲れて共鳴が出来る程の「空き」を作るのが目的だ。武器達は自ら次の標的を見つけ、その位置を持ち主に教える。
春先であれば、新人のクエストの邪魔になる。しかし夏から秋は新人も自信が付き、旅をメインにするようになる。地域にもよるが、ギリング周辺はグレー等級のクエストが余る日もある。迷惑だと言われる事はない。
「アレス! えっと……うりゃあ!」
「ああ、そうでした。イヴァンさんに大剣技の名前を教えていませんでしたね」
「かっこいい名前の技がいい……なっ!」
「大剣技に、かっこ悪い名前の技なんてありません! 全部かっこいいんです! なんてったって大剣ですからね!」
小柄なイヴァンは獣人の持ち前の力を使い、アレスの側面でゴブリンを平打ちする。ゴブリンは衝撃で潰され吹き飛ぶ。
スイングビートというシャレた技名があるのだが、初期のシークがそうだったように、イヴァンも技名を知らない。まだまだ格好がつくのは先のようだ。
「……バルドル、上から斜めに切り払う技、名前なんだっけ」
「スラッシュかな。先に言っておかないと君は『斜め斬りィ~』なんて叫んじゃうからね。後輩の前では流石にやめておくれよ」
「だから先に聞いたんだよ。今の『斜め斬りィ~』って、俺の真似?」
シークだけはない。ゼスタとビアンカも後輩の前でカッコつけようと、色々な技を繰り出していく。町から随分遠い場所でゴブリンの群れと巣を一掃し、適度に疲労が溜まった頃には、もう太陽が山々に隠れようとしていた。
「フルスイング! ……ハァ、攻撃を防いだり喰らったりはしてないけど、結構いい具合に疲れたわ」
「お嬢、もう共鳴するには十分ばい。ケルベロスちゃん、バルドル坊や、どげんね?」
「ゼスタはもういいぜ。俺っちも十分斬り足りたし、そろそろ帰ってさっさと名を刻んでくれ」
「シークも大丈夫だね。僕が気力をちょっぴり余計に引き出したから」
「ハァ、ハァ、本当にちょっと?」
「まあ、捉え方には差があるかもしれない」
風が平原の草を撫で、汗を乾かしながら通り過ぎる。そろそろ切り上げようとビアンカが提案し、各々が疲れ具合れを確かめ合う。シャルナクとイヴァンは慣れないせいか、既にくたくたになっていた。
「いよいよアダムの魔力ともおさらばか。おいゼスタ、失敗すんなよ」
「お前が共鳴して俺の体使って、自分で刻むんだろうが。間違えるなよ」
街燈が灯り、商店は殆どが店じまいを済ませている。だがそんな中、疲れながらも皆の足取りは軽い。
バスター管理所で2つのクエスト完了を報告すれば、いよいよ武器屋マークの工房で自身の力を武器に込める事になる。
「1万3000ゴールド……か。お金には余裕があるし、シャルナクの矢をもう少し確保しておきたいね」
「そうだな。シャルナク、ビエルゴさんに言って買っといてくれ」
「いいのか? これは皆で稼いだお金だ。管理所で1日働く以上の額だというのに」
「パーティーに必要な矢だから、皆で買うんだよ」
資金の余力はある。4魔退治の報酬やその他クエストで稼いだ分は、旅費や必需品以外に使っておらず、溜まる一方だった。
貧乏性が抜けないシーク、富豪令嬢なのに堅実なビアンカ、遊び回る暇がないゼスタ。イヴァンにいたっては美味しそうなもの以外に興味がない。
「あの、シークさん、その……装備はみんなこのままで大丈夫なんですか? 武器は大丈夫だけど……」
「防具の事か。かなり上等なものとはいえ、あと1年使えばそれなりに痛むね。とびきりの装備をビエルゴさんにお願いしようか」
「あ、私賛成! 仲間だって分かるように揃えたいの! デザインを揃えて、縁の色だけ変えるとか」
ビアンカが目を輝かせる。3人の装備はビエルゴの店で同じ時期に作ってもらったため、統一感がある。けれどシャルナクとイヴァンの装備は雰囲気が違う。
店の中でもとびきり上等な防具を買ったのだが、シーク達と揃える事を想定して作られた訳ではないからだ。
「いいじゃない、壮観だと思うのよね!」
「その格好でやられなければな。それよりも先に共鳴だ。悠長な話をしてる場合じゃないぜ」
5人は武器屋マークに寄り、マーシャに工房を使わせてくれと頼んだ。まだビエルゴとクルーニャがいると聞き、その足で工房へ向かう。
武器に名を刻む方法は分かっているが、技術は持ち合わせていない。横にビエルゴ達がいれば安心だ。
「お邪魔します、ビエルゴおじさま、クルーニャさん」
「おお、シャルナク。工房に何か忘れ物でも」
「いえ、今から……とても大切な儀式をするんです。ビエルゴおじさまとクルーニャさんに、ご助力頂きたいのですが」
「助力?」
「信じては貰えないかもしれませんが、この武器達に力を込め……」
シャルナクはビエルゴに説明をしようとする。だがビエルゴは微笑んでから首を横に振った。
「知っとるよ。アンデッドゴーレム退治はわしも見とった。わしは武器職人だ、武器の威力がどう変わったかくらい分かる。戦いの途中で聖剣バルドルが乗り移ったと思った。噂通りだと」
「共鳴の事、知っていたんですか」
「シャルナクも管理所で働いていれば、共鳴の話が有名になっとるのは知っておるだろ。お前さん達の活躍情報が欲しいバスターや、民間のファンは山ほどいる。わしを含めてな」
ビエルゴがニッと笑い、クルーニャは何の話だと首を傾げる。ビエルゴはとにかく見ていろと言ってクルーニャの背中を優しくポンポンと叩き、シーク達の準備を見守る。
「おいゼスタ、俺っち達が最初にやろう」
「はっ? 俺!?」
順番を決めようとしたところで、ケルベロスが1番に名乗り出た。ゼスタは思いもよらぬ提案に驚き、戸惑っている。
勿論、他の武器よりも先に成功させたいだけではない。ケルベロスが最初に試そうと提案したのには、ケルベロスだからこその理由があった。
「俺っちは2つで1つ。仮に一方が失敗してもまだもう片方ある。共鳴してりゃあ成功するまでもう片方に戻れる」
「なるほど……確かにそうだな」
「バルドルとシークだけは失敗させられねえんだ。俺達で検証してやろうぜ」
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