Top Secret-09
* * * * * * * * *
「ホラホラ、次の的はどれだ! 襲い掛かられる前に射抜くのが本物の
「……右、ボアが1体。すまないが力を貸してくれ」
「なかなか洞察力あるじゃねえか! おいちょっと違うぜ、少し上を狙え、上に3度、左に1度。今日の風だとそれくらいだ」
晴天のギリングの北の平原に女性が立ち、弓を射る。放たれた矢はボアに突き刺さるどころか、貫通させそうな程の威力だ。ボアはその一矢で絶命した。
的確なアドバイスと、忠実に従う事が出来る腕前。初めて使う弓の癖や性能を瞬時に把握し、その加減は弓自身が教える。喋る弓と猫耳女性のコンビネーションは素晴らしい。
「すまない、わたしはまだ気力の制御を教わっていないんだ。技はアルジュナが教えてくれないだろうか」
「ああ、気力は俺様が引きずり出してやるぜ! 感覚だけ研ぎ澄ませて放ちやがれ!」
シャルナクはアルジュナに満足していた。その軽さ、どこまで引いても不安にならないストリング、グリップの握り易さなどに驚きを隠せない。
「シャルナク凄い! この距離でボアを狙って、しかも仕留めるなんて。これで合格じゃないかな」
「そ、そうかな。わたしはアルジュナに従って矢を放っただけだ、わたしの実力じゃない」
数体のボアを倒し、おおよその適性試験になった。問いかけるシークに、シャルナクからは謙遜した答えが返ってくる。問題はアルジュナがどう思うかだ。
「ねえアルジュナ、シャルナクに使ってもらった感想は?」
「あっ、えっと……シャルナクさんの気力を引っ張り出して使った時、物凄く……温かかったんだ。なんだか安心できて、ボクその……」
「アルジュナ、はっきりと言っておくれよ。僕達は君の意見次第で動きが全て変わるのだからね。僕とシークの相性に敵わなくても仕方がないけれど」
戦いを終えたなら、すぐに気弱ないつものアルジュナに戻ってしまう。だがその声はどこか嬉しそうでもあった。
「その、ボク……シャルナクさんと一緒に戦えたら嬉しいんだけど、その……ボクなんて」
「アルジュナ、あなたは自分を卑下しない方がいい。あなたを認めている者達まで貶める事になる」
「うん、ごめん、ボクでも……」
「アルジュナ、ハッキリ言ってくれ。わたしは不適格か、あなたにとって真の持ち主はわたしではないのか」
悪い事があるから伝え辛いのかと思えば、どうやらそうではないらしい。
「ボク、その……シャルナクさんがその、いいんだったら……ボクの持ち主になって欲しいんだ。でも……その、嫌だったら迷惑だし、その……戦うのって危ないし」
「わたしを持ち主に選びたいのか、それともこの状況ではそう言うしかないと思っているのかを知りたい」
「違う、その、ボク……シャルナクさんがボクで戦ってくれたらいいなって、思ったんだ。レイダーさんとは感じが違うけど……温かくて、とてもホッとする」
「じゃあ、じゃあシャルナクも一緒に戦えるって事だな!」
ただ恥ずかしくて言い出せなかっただけのアルジュナに、皆はホッと安堵のため息をつく。
「よし! 管理所にシャルナクも仲間に入れる事を伝えに行きましょ!」
「あー……シャルナクは1年も空けるんだったら管理所を辞めなくちゃならないよな」
「そうだな……わたしはそれも片づけなければならない。しばらくビエルゴおじさまの手伝いも出来なくなる。まずはわたしだけで話をしてくるから、明日また訪ねて来てくれ」
シャルナクは為になると判断すれば何でもやってきた。管理所で読み書きや人間の暮らしを覚え、鍛冶にも回復術にも挑戦した。シーク達は何でも提案し過ぎたと言って苦笑いする。
「外の世界で生きるには仕事が必要で、その仕事を得られたのはシーク達のお陰なのだから」
そう言って微笑むシャルナクは、本当に性格がいい女性だ。
「分かった。じゃあ……今日はここで解散だな。明日、8時に管理所の前で。シャルナクが管理所にいなかったら武器屋マークに行く」
「ちょっと待って、大事な話があるんだ。5人が揃っている時に話したかった」
解散してこの後どうしようかと話す中、シークは皆を呼び止めた。もう一度ビアンカの家に寄れないかと頼み込む姿を見て、武器達は話の内容を既に察していた。
「何か重要な話か?」
「うん、俺達にとっても、バルドル達にとっても。早めに知っていた方がいいと思って」
「いいわ、シーク。みんなもう一度うちに」
5人は再びビアンカの家に戻り、客間のソファーに腰掛けた。シークはドドムの宿でバルドルから聞いた話を伝えるため、皆の顔を見ながら静かに言葉を紡ぎ始めた。
「バルドル達がアダムから聞いている話だ。まだケルベロス達から聞いてないと思って。その……今バルドル達は、アダムの魔力によって喋れているらしいんだ」
「なんか、それに近い事は聞いたことがあったな。それで?」
「つまり、バルドル達は……アダムの寿命と共に喋る事が出来なくなる」
「えっ!? そうなの? じゃあ、そんなに長くは話せないのね……」
皆が驚く。ケルベロスやグングニルの自我は、当たり前のようにずっとあり続けると思っていた。今の関係が失われる事にショックを受けている。
「今更やけど、士気に関わるけん、言わん方がいいんやないかっち思いよったとよ」
「確かにアダムの魔力で喋る事は出来なくなる。その前に、俺達の魔力や気力で自我を維持させよう」
「俺達の?」
「うん。バルドルからその方法は教えてもらった。ただ、気力では試した事がないらしい。俺の魔力を5つに吹き込む事も出来るけど、それだと俺に何かあった時に同じだし、みんなの共鳴に影響してしまう」
「それじゃ、やっぱり……失敗も怖いし、ケルベロス達が元のままの自我を保てるか分からねえよな?」
バルドルを除いた武器達も、その点については考えていた。そんな武器達の表情……があればパァっと明るくなるであろう事を、シークが提案する。
「俺とバルドルで考えたんだ。予め共鳴をした状態で試すのはどうだろうって。そうすれば自我は俺達の体の中あるんだから、多分だけど変わらないよね」
「それです! それですよシークさん! ああ、それは名案です! イヴァンさん、是非その方法でやってもらえませんか?」
「いいじゃねえかその案! 文字通り『一振同体』になるのにピッタリだぜ! 俺っちの記憶が消えちまう心配もねえ」
「ええ考えやないの。器を入れ替える借体の応用っち事やね」
武器達は興奮し、是非ともそのやり方を試したいと言う。共鳴し、それぞれの武器にシーク達が力を込めて術式を刻む。それだけなら簡単にできる。
「シャルナクが正式にパーティーに加入できるようになったら、皆で試そうぜ!」
「そうですね、ボクもなんだかちょっぴり楽しみになってきました」
「シーク、話はその事でいいんだよな」
「うん」
武器達を維持する方法があると分かってホッとしたのか、もう皆はあまり深刻な事だとは思っていなかった。
ただ、その中でアルジュナだけは心配していた。それはシャルナクと共鳴できるかどうかや、元の自分が維持されるのかという事ではなく、バルドルの心配だった。
「あの……えっと、バルドル、その……」
「ん? なんだいアルジュナ」
「もしかして君……」
バルドルはシークに対し、アークドラゴンを倒せなかった場合、シークが封印を担う、借体を受け継ぐ者になると伝えていない。アルジュナはそれに気づいていた。
「あの、ぼくとアレスはシークさんのお家にお邪魔していいんでしょうか」
「もちろん。じゃあ、あまり長居しても迷惑だし、そろそろ帰ろうか。明日8時だったね」
その場は解散となり、皆が家路につく。アルジュナはバルドルに言いだす事が出来ないまま、シャルナクの背からバルドルを見つめていた。
アルジュナに感づかれたバルドルは、珍しく道中の口数が少なかった。
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