Top Secret-02
武器達の間に戦慄が走る。バルドルの静かな怒りは、その場の空気を変えた。
どんなに武器達が怒ろうとも、勝手に動いて襲い掛かっては来ない。それが分かっているからか、アダムは正直に頷いた。
「そうだ。お前さんと、シーク・イグニスタの事を指している。持ち主に懐く心まで持たせたのは失敗だったか」
「……僕が触媒になるのはいいんだ、その可能性は常に考えていた。けれどシークを君のようにはさせない」
シークを犠牲にする事、それは異端者の行いと何ら変わらない。
バルドル自身は封印のために使われる事を覚悟していたし、それしかないと思っていた。しかし真実を知った時、人の良いシークが放っておくだろうか。
「でもよ。結局はバルドルが触媒になっても、シークが触媒になっても、シークは生き続けなきゃならねえんだよな?」
「僕がシークの魔力をずっと留める。シークの魔力はシークが死んでも僕が放さない。出来なくても、するんだ」
「違いますよ、ケルベロス、バルドル。ボク達の戦いでアークドラゴンを倒せたらいいんです」
「確かに……そうやね。倒せたら悩む必要もないけんね、倒せばいいだけの話たい」
武器達の言葉にアダムも頷く。そして再度確認のため、バルドル達に声を掛けた。
「お前達、今の持ち主はアークドラゴンを倒せるか」
アダムの答えに、今度は武器達も即答しなかった。アークドラゴンの強さを知っているのはバルドルだけだ。4魔ですら苦戦する今の状態で、アークドラゴンを倒せると言い切る事は出来なかった。
「アダム、君は……どれくらい持ちこたえられるんだい」
「それは、何に対してだ」
「アークドラゴンを倒すまでさ」
「……数年は踏ん張れると考えている、それ以上は分からん」
バルドルは悩み、武器同士で相談を始めた。持ち主の実力と共鳴の完成度を真剣に話すためだ。今まで自分の主が一番だ言い張ってきたが、実際にどれ程だと明かした事はなかった。
「……僕とシークの共鳴は控えめに言って最高だね。ただ、シーク自身の力が足りていない。共鳴は完全でも、シークの筋力と技術を磨く必要がある」
「俺っちとゼスタも共鳴は問題ねえ。けどバルドルと同じだ、ゼスタはまだ業火乱舞も自力では使いこなせねえんだ」
「あたしとお嬢も似たようなもんやね。技は全部出来とる……けど、筋力は女の子にしては力が強いっち域を出とらん」
「ボクとイヴァンさんはまだ未知数ですね。イヴァンさんはこれからだと思います。共鳴もできましたし、身体能力は申し分ないです。けれどその、イヴァンさんは剣術自体が初心者なので、腕に関してはまだまだです」
「ボクはレイダーさんと共鳴した事はないけど……でも、レイダーさんの腕は間違いないよ。問題は……レイダーさんが、そろそろバスターを辞めたがってる事かな」
武器達は持ち主の事をそれぞれ冷静に分析する。今の状態のままでアークドラゴンに勝てるとは、どの武器も思っていなかった。
「アダム、1年待ってくれないかい。その間に僕達はシーク達の実力を引き上げる」
「1年か、ならば容易い。お前達が1年で何とかなると言うならそれを信じよう」
「……それと、シークに術式を教えてくれないかい。僕達が喋る事が出来るのは、君のお陰なのだろう?」
「そうだ。わたしの魔力が作用している」
バルドルはそれまでの緊張をふっと解き、少し落ち込んだような声を出す。その思いは武器達全部が考えている事だった。
「僕はシークに生かされて、もっと一緒に旅がしたい。シークの命が尽きるなら、僕はそれまででいい。でもそれが君に左右され、あと数年で喋れなくなるというのは……嫌なんだ」
「あたしからもお願いしたい。アークドラゴンを倒せても、その後の旅でいつ喋れんごとなるか分からんのは嫌ばい。大切にされる喜びを感じられんのは悔しい」
「魔力を込める人間が変わったって、僕達は全く別の『武器格』にはならないのだろう?」
アダムは驚いていた。武器達がモンスター討伐ではなく、持ち主との絆を理由にしたからだ。
「……結論から言うと、出来る。だが成功するとは限らない。数百年前まではアダマンタイトもドラゴンの髭も、手に入らないものではなかった。それでもお前達だけしか喋る事が出来ない。その理由を考えてみよ」
「それでもいい、僕は後悔しない」
「魔法以外は駄目なん? お嬢の気力は? 気力では作れんの?」
「気力で試した事はない。だが理論は同じだ。もしそれが出来るなら、共鳴はもっと強くなるだろう」
アダムの言葉を聞いて、武器達はホッとしたようだ。
「強くなれるなら尚更必要だ! ゼスタだけじゃねえ、俺っちも何か出来る事をしなくちゃな」
「……分かった、やり方はシーク・イグニスタに教えてやれ。後は持ち主の魔力や気力の高さと、お前達を信じる気持ちに賭けるんだな」
アダムとの話し合いは夜更けまで続けられた。武器達は自分達の在り方をずっと考えていた。
* * * * * * * * *
翌朝、陽が昇ってすぐにシーク達はアダムの家を訪ねた。武器を受け取り、そしてアークドラゴンの封印場所などの情報を聞くと、皆は早速討伐に行こうと意気込む。
「エンリケ公国の南部を縦断する山脈の中央……」
「沿岸部にしか人が住んでいないと聞きましたが」
「そうだ。その北にもアジトとしていた場所があったが。もう私の傀儡での追跡は出来ん」
アダムを連れて旅をするなら、無理は出来ない。シーク達はドドム港からカインズを目指すそうと意見を一致させる。
だが、それを引き留めたのはバルドルだった。
「シーク。率直に言おう、今の僕達では倒せない」
「4魔を倒せたんだ、武器が5つ揃っていれば……」
「シーク、僕が今まで嘘を言った事があるかい? 君を死なせたくないから言っているんだ」
バルドルのいつになく真剣な声色に、シークはそれ以上反論するのをやめた。
「アダムと相談して、1年の猶予をもらった。異端派を捕えるのはバスター協会や町の警察に任せる。君達がやるのは1年で己を磨く事」
「己を、磨く?」
「シーク、君は身体能力を強化し、技を完全に会得する。ゼスタもそうだ。ビアンカの技は申し分ないけれど、もっと筋力と体力を付ける。イヴァンは剣術をひたすら」
バルドルがそれぞれに、足りない部分がどこかを指摘する。その中でレイダーだけは指摘がなかった。
「あの、レイダーさん。その、ボク……」
アルジュナが言い難そうにしている事を、どうやらレイダーは悟ったらしい。ふっとため息をつき、レイダーはアルジュナ手に取る。そしてシークに預けた。
「分かってる。俺の考えが分かってんだよな。……ああ、そうだ。アルジュナは他の奴に託したい。アークドラゴン退治が終われば俺は引退して国に帰るつもりだ。そうなればアルジュナを使ってやる事も出来ない」
「レイダーさん……」
レイダーの言葉にシーク達が驚いていると、ゴウン達が笑い出す。
「引退の話は初めて会った頃にもしたはずだ。俺達もアークドラゴンと戦うつもりだが、アルジュナは新しい持ち主とやればいい。知り合いに弓が得意な者はいないのか」
「先がない俺達に使われるより、これから共鳴出来て相性がいい者を探せ。1年あれば何とかなるだろ」
「大丈夫。私達が教えられる事はもう教えてある。技に関してはバルドル達の方がベテランよ。もちろん、アークドラゴン戦ではお手伝いするわ」
「俺は強さでも経験でも皆には敵わない。でもバスターとしての経験は活かしたいから、引退後は国に帰って教師になるよ」
テディがニッと笑う。
「それじゃあ……ぼく達はいったんお別れですね。そろそろお手伝いじゃなく、本格的に旅をしたくなりました」
「そうだな。俺達はアークドラゴン戦なんてもっと無理だ。でもシークさん、俺達もお手伝いできるくらい強くなりますよ」
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