【19】Top Secret~強く、悲しい覚悟~

Top Secret-01




【19】Top Secret~強く、悲しい覚悟~




 ナイダ王国レンベリンガ村。


 その村の一番奥の大きな平屋、「魔王の家」がアダムの家だ。


「さて、シーク達を追い返したのは、本当に思い出話のためなのかい」


「もしかして、何か嫌な事を打ち明けられるの? ボク、怖くなってきちゃった……」


「アダムは何か重要な話があるんですよ。ボクをイヴァンさんから取り上げるような事ではないはず」


 武器達は不安に思いながらも、アダムが何か重要な真実を打ち明けるつもりであると察していた。アダムは先程までよりも柔らかな態度で話を始める。


「お前さん達、持ち主をどう見ている。率直な意見だが、アルジュナの主以外は若過ぎるようだが」


 シーク達はもうじき19歳、イヴァンに至っては今年16歳だ。アダムはそんな若者の未熟な技術で、本当にアークドラゴンが倒せるのかを確認する。


「俺っちがここにいるって事は、どういう事か分かってんだろ? 俺っちが認めたっつう事は、どういう事か言ってみろ」


「ゴーレムも、ヒュドラも、メデューサもキマイラも、全部倒したとよ。共鳴も上手くいっとる。お嬢に足りとらんのは経験だけ。気力の使い方も筋力も見違えるごとあるし、体も軽い」


「イヴァンさんの身体能力は凄まじいですよ。大剣を振り回し、ピタリと止める力もセンスもあります。捕えられて過ごした期間の成長の空白を感じません」


「シークは魔力を持ち、剣術の才能があって、魔法剣なんてものまで生み出したんだ。ちょっとひねくれてはいるけれど、シークより僕に相応しいバスターはいないね」


 信頼が厚い事と実力は別物だ。けれど武器達は全力で持ち主を推してくる。これ以上の主がいない確信があるからだ。


「お前さん達が言うのなら、これ以上の適任者はおらんのだろう。この場にテュールがいないが、それでもお前達は今度こそ……今度こそアークドラゴンを倒せるのか」


「君にとっては何回目のアークドラゴン討伐戦なんだい」


 バルドルにとって、把握している限りこれが3度目のアークドラゴン戦となる。


 アークドラゴンはアンデッドなのではないか。以前シークがそう考えたように、実際にアークドラゴンは何度も蘇っていた。アークドラゴンがアンデッドでないのなら、毎回封印が解けたという事になる。


 封印の正体を知っているのはアダムだけ。バルドルは今までのアークドラゴン戦にも、アダムが関わっていると考えたのだ。


「……5回目だ。4度の封印のうち、3度は私が封印した。私もそろそろ眠りにつきたい」


「思ったよりじじいだったんだな、若く見えるぜ」


「その、良ければ僕達にこれまでの経緯を話してくれても?」


「ボク、何でこうなっちゃったか分からないまま戦い続けるの、凄く不安だよ……倒せなかったらまた……」


 アダムは食事を摂ると言って席を離れ、パンを1斤取り、薄く切って口に運ぶ。紅茶のカップを持ってまた軋む椅子に座ると、行儀良く待っていた武器達に話し始めた。


 アダムは今まで誰にも真実を打ち明けてこなかった。漏洩を恐れ、本にも記さなかった。今回は討伐できると考えたようだ。


「アークドラゴンが最初に世界を震撼させたのは1300年前の事だ。アークドラゴンは世界中を飛び回り、まだ数も少なかった人間の集落を次々と襲った。それを退治しようと立ち上がったのが……私の祖先だ」





 * * * * * * * * *





 1300年前、世界はアークドラゴンの毒と炎に包まれた。


 大きく黒い翼、人の腕程もある鉤爪、硬い鱗に覆われた体。そのドラゴンはどんなモンスターよりも強かった。それまで最大と思われていたブラックドラゴンの3倍程も大きく、いつしかアークドラゴンと呼ばれるようになった。


 そのアークドラゴンを討伐するため、数十年に渡る人間とアークドラゴンの最初の戦いが繰り広げられた。


「ヤツに対し、人間の力など赤子同然だった。倒す事を断念した人間は、せめて閉じ込めることが出来ないかと石棺を作った。祈祷や奇術の類も編み出しては試した」


「最初から倒す方法や、封印する方法を知っていた訳ではないんだね」


「ああ。だが石棺など意味はなく、そもそも入らせることができない。そこで祈祷や奇術に頼り始めたのだが、その中に不思議な現象を起こす者が現れた。当時魔法という概念はなかったが、その者の不思議な力で強く念じ、ついにアークドラゴンを拘束することが出来た」


 アダムが語ったその方法は、数人の研究者に受け継がれた。当時はまだ気力も魔力も存在を知られておらず、たまたま出来た方法を記したに過ぎなかった。


 方法は確立されても、受け継いだ者に魔力がなければ封印は出来ない。魔力は力を有する者の死によって消える。案の定、封印を発動した者の死後、アークドラゴンは復活した。


 研究者はとにかく大勢の者を集め、モンスターを相手に封印を試させた。すると何人かは効果の弱い発動に成功した。


「だがな、ウサギのような小さなモンスター1匹を拘束する程度の力では意味がない。皆が諦めかけた時……最初の封印を発動させた男の当時6歳になる孫に、同じ力が備わっていることが分かった」


「それが君だね、アダム」


「そうだ。私は幼い頃から封印術の研究を任され、誰にも正体が分からないその力を高める修行をしろと言われた。あらゆる方法を試し、何百人もの戦士をアークドラゴンを弱らせるため犠牲にし、2度目の封印に成功した」


「でも、その次に封印を担える人間が現れなかった……ということですね」


「ああ。私が死ねばヤツはまた復活する。時間の問題だった」


 アダムが封印に成功し、世界に平和が戻った。だが、次の封印役が見つからなければ、またアークドラゴンが野放しになる。それを見越していたのはアダムの父だった。


「父はヤツの再生能力をずっと研究していた。鱗や血肉を使って研究するうち、稀な条件の下、死んだ細胞が復活する事を突き止めた。ただ、復活したものは……」


「アンデッドになった」


「そうだ。そこに私が会得した謎の力を込めると、思い通りに動いた」


 それは失敗として葬り去られたはずだった。けれど彼はそのアンデッドの研究の過程において、体を乗り移る方法を発見する事となる。結果、自らは封印を維持しつつ、何度も借体を繰り返してきた。


 封印は完璧ではない。解けてしまう事もあった。


 特に300年前の封印の際は、アークドラゴンを弱らせる事が困難だった。そこで彼はアークドラゴンの削った力を4体の魔物に移した。


 それがゴーレム、ヒュドラ、メデューサ、キマイラだ。


「300年前はそれでも倒せないくらいに世界が疲弊していた。そこで私はその300年前にも使用され、私の気力や魔力を込めた武器に、新たなる術式を施した」


「僕達のカラクリはそういう事だったんだね」


「そうだ」


 アダムの言葉を聞いた武器達は、その言葉を聞いて納得した。納得したが……落胆もしていた。


「アダム。あなたが役目を終え、死んでしまえば……ボク達はもう、喋る事が出来ないのですね」


「そうだ。そして……この体はもうそろそろ限界で、封印するとしても数年がせいぜいだろう。魔力が高く、かつ若くして死ぬ者などそうはいない。次の体の持ち主の魔力が少なければ、借体にすら時間が掛かる」


「えっと、それはつまり?」


「バルドルに込めた私の魔力も、それまでということだ」


 アダムの言葉は、バルドルには封印としての役目を果たす力がない事を意味していた。


「えっと、それは……つまりアークドラゴンと戦う上で、どうなるのかを伺っても?」


「封印には魔力が高い者を触媒にする必要がある。もしくはその者が新たに術を刻み、武器を触媒にするしかない。そしてその者が私の後を継ぎ、封印を維持する事になる」


 その言葉に、バルドルの声のトーンが下がる。


「僕の……シークの事ではないだろうね」

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