Landmark-14



「……ビアンカ、お前覚えてろよ」


 ようやく意味を理解したゼスタは、ケルベロスの誤解を解こうと弁解を始める。だが、武器屋をいかがわしい店と形容するケルベロス達に、人間の感覚を伝えるのは骨が折れる。


「つまりだ、町ごとに売ってる手入れ道具も違ったりするんだよ。流行もあるし、何か良い物が売ってねえか見に行くつもりだったんだよ」


「それなら俺っちも連れて行ってくれたらいいじゃねえか! そりゃあビックリプレゼントのも嬉しいけどよ」


「分かった分かった。いかがわしい店に興味津々ならお前も付き合え、シークとビアンカも、明日出発前に。いいよな」


 ゼスタは武器共を睨みながら、「買ってやるとは一言も言ってないからな」と念を押す。武器達はゼスタを非難していた事など忘れ、無邪気に喜ぶ。


「明日案内してよ、ビアンカもいいよね。おいバルドル、喜び過ぎ……ったく、調子いいやつ」


「おっと、僕はいつも絶好調さ! いつだって切れ味抜群だよ」





 * * * * * * * * *





「で、村の住民が移住した先は、この北にある村みたいなの。もしかしたら村の事を覚えていて、アダム・マジックの事を語り継いでいた人もいるかも」


「アダムの正体に関しては、そっちの方が可能性あるな。魔王教徒の動向については、3年くらい前、数十人の旅の一団がこの港に入ったって情報があった」


「もしかして……イヴァン達?」


「ああ。バンガじゃなくて、こっちから入った可能性が高い」


「どこから乗って来たのかな」


「それも調べた、ゴビドワの港だ。アンニタ……ここ、大陸の一番西にある町。俺達もモイ連邦共和国のコヨに着く前に船で寄港してる。イヴァンは連れ去られた後、この船のルートでシュトレイ山まで来た」


「ただ、その中にはアダムはいなかった……」


 翌日、シーク達はまた管理所の執務室の一角を借りて打ち合わせを行っていた。


 ビアンカが掴んだアダム・マジックの生前の動き、それにゼスタが掴んだ魔王教徒と見られる一団の動き。そしてアークドラゴン封印についての噂などをまとめ、次の目的地を決めるのだ。


「アダムはいたかもしれない。アーク級のモンスターがいたってことは、アダムの魔力が利用されているはず」


「まさか、あのやられた集団の中に、アダムがいた!?」


「いや、アンデッドはいなかったし、顔が判別できた人の中にもいなかった。アレスが何も言及しなかったんだから、多分……」


「既に移動していた、ってことね」


 魔王教徒は、大陸間の移動に一般の船を使っている可能性が高い。


 船籍の分からない船での寄港は難しい。アンデッドを大量に連れ歩く場合、船を買うか奪うかして、町ではない場所に上陸しているのだろう。


「アークドラゴンの封印についても気になる話があったの。えっと、アークドラゴンの襲撃があったなら、大勢の方が亡くなっているはずよね」


「確かにそうだね。バルドル、当時の被害について何か知ってる?」


「村が襲われたり、町が壊されたのは確かだ。アークドラゴンは世界を飛び回ったからね。この大陸とは離れた、ディーゴがいた町も被害に遭っているよ」


「エインダー島にあった、ビズンって町だったよね。ギタの西に浮かぶ大きな島」


「うん、そこでも僕はずいぶんと置かれたままだった。ディーゴは、僕をその町の記念館で手にして、立ち向かう事を決意した」


 バルドルは当時を懐かしむような穏やかな声で話して聞かせる。


 勇者ディーゴも田舎町の出身だった。決して恵まれた環境にいた訳ではなく、剣術の達人だった訳でもない。


「ねえ、ちょっと待って。バルドルが出会ったのは、アダム・マジックが先なの? それともディーゴ?」


「アダム・マジックの方が先だよ。既に復活して暴れまわっていたアークドラゴンを退治するため、300年前に戦った当時の優れた武器が必要だった。それで僕達を探し回っていたんだってさ」


「とすると、アダム・マジックは今から600年前の戦いを知っていた。魔力の術式を記して……記念館に戻した」


「そうだね。だから彼の生家がどこかは分からない」


 ビアンカは、バルドルの話に何か引っかかる物があるようだ。


 バルドルにはその頃既にぼんやりとした自我があった。ただ、それを人の言葉で表すという手段をまだ知らなかった。


「グングニル達は、アダムの魔力で喋る事が出来るようになったのよね? 術式を彫られて」


「いや、目覚めただけやね。魔力で意識が完全に目覚めて、それで喋り方を理解したんよ。アダム・マジックが死んだ後も、今のところあたしらに影響はない」


 バルドル達に術式が馴染みはじめ、ようやく喋れる事に気付いた時から記憶が鮮明になったという。


「そっか……でも不思議なのは、アダム・マジックが何故アークドラゴンや4魔を封印する事が出来ると知っていたのかよ」


「確かに、ビアンカの言う通りだね。当時は史実として封印されている事が知られていた? いやいや、それなら退治された事にして捏造するのも難しいはず」


 シーク達は何かまだ気づいていないことがあるのではと悩む。アダム・マジックについての謎はまだちっとも解明できていない。


 そんな中、ゼスタは腕組みをしたまま地図を眺め、気になった事を口にした。


「なあ、エインダー島のビズンって町も襲われたんだよな? 今はもうない町のはず」


「遺跡になってるって話よね」


「グングニルとケルベロスは当時どこに?」


「あたしはアンザ連邦のエゲライっち村の神器やったと。ヨジコっち町の北」


「俺っちはその北のランタ共和国……当時はランタ公国だったか。そこのサバって村で同じように祀られてた。内陸にウシって町があんだろ、その近郊」


 それらの場所をゼスタが地図と合わせて確かめていく。シークは昨日の事を思い出し、アーク級モンスターの発見場所の地図をカバンから取り出した。


「ゼスタ、エゲライの場所は」


「えっと……ここ」


「サバは?」


「ここだ」


「……アーク級モンスターの討伐報告が集中してる」


 地図を重ねると、エゲライ、サバ、その2カ所はそれぞれ数体ずつの討伐報告が上がっていた。既に付近の捜索は済んでいると思ったが、シークはそこでハっと気付く。


「バスターが近づいたから、その2カ所は捨てたんじゃないかな」


「えっ?」


「村の跡地なら、わざわざ一からアジトを作る必要はないよね。それと、ここはアークドラゴンの被害が出た場所……そことも重なる」


「待って、アークドラゴンの被害状況なら、私が大まかなものを調べてる。……復興している場所もあるけど」


 シーク達はそれぞれが記された地図を1つにまとめようとする。×印、赤〇、色々と書き込んでいくと、それらがおおおそ同じ場所にある事に気付いた。


 アダム・マジックがその何処にいたかはわからないが、潰されたアジトはもう探さなくて良いだろう。


 アーク級モンスターが倒されているのなら、その場所を捨てた可能性も高い。


「……アークドラゴンに直接襲撃された場所の中で、今もまだある町と村が4つ、誰も住んでいない廃墟が14か所」


「今もある町を除いて、12カ所がアーク級モンスターの発見報告が集中している場所ね。ねえ、エインダー島は? エインダー島と、ケイン諸島の廃墟は討伐報告が上がっていないわ」


「この情報じゃ、封印の手掛かりになりそうなものは見当たらないな。魔王教徒を追って、そこから手掛かりを発見した方がいいか」


「この2つの場所が既に捜索されているか聞いてみよう。場合によっては次の目的地だ!」


 シーク達は近くの席にいた職員に事情を話した。


 マスターへと話の取次ぎをお願いしたところ、マスターはもう昨日依頼した捜索済み箇所をまとめ終えていた。


「バスターの上陸制限があるケイン諸島ですが、こちらは既に捜索が終わっています。エインダー島は現在、ラスカ火山の活発な活動のせいで、上陸が禁止されています」

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