Landmark-13
「歴史、モンスターの特徴……地理的なもので言えば、余程その場所に用事がない限り訪れない場所であることくらいでしょうか」
そう言いながら、マスターは地図に記された×印をなぞる。
「あれ?」
「どうか、しましたか」
「少し待っていて下さい!
マスターが慌てて席を外した。資料を揃えるように指示を出す声が聞こえる。
数分後、マスターは腕に本や地図を抱えて戻ってきた。
「これを。アーク級モンスターと思われる個体を討伐した、おおよその場所を示した地図です」
「すごい、こんなに綺麗に纏めているんだ」
シーク達の呼びかけと管理所からの報酬のおかげで、多くのバスター達が討伐に参加してくれている。
どこにどのアーク級モンスターがいるのか、それともいないのかすら分からない中、それだけを追って活動するのは難しい。人海戦術しかないのだ。
「最近はバスター同士の連絡も密になり、以前よりは楽なのです」
バスターの雰囲気も変わった。村の警備、何かを追い求める姿、それらはもはや傭兵崩れなどではない。管理所やバスターへの信頼は上がりつつある。その甲斐あってか、一般人や商人も情報をくれるようになった。
「おや? ちょっとシーク、さっきの魔王教徒のアジトが撃破された場所と重ねてくれないかい」
「どうしたの? ……いいけど」
「うん、アーク級モンスターの発生個所と、魔王教徒のアジトの分布が何となく似ていると思わないかい」
「え?」
シークとマスターは、バルドルの指摘を受けてそれぞれの場所を見比べる。
確かに、重なっているというには少々距離がある場所、アーク級モンスターが集中して見つかっていても周囲にアジトがない場所もある。しかし、おおよその分布が似ているのだ。
「シュトレイ山の北ではアークビッグキャット、イサラ村のすぐ隣でアークイエティ。それに大きなゴブリンロード……あれもアーク級だったかもしれない。そしてシュトレイ山にはアジトがあった。ギタカムア山の付近ではアークウルフ。その南東ではアジトが見つかっている」
「そうか、分かった! 魔王教徒がアダム・マジックを用いてモンスターを強化しているって、いつか俺とバルドルで推理したよね。あいつらがアーク級モンスターを作り出しているのなら……」
「アジトを築いているのは、アーク級モンスターに変異させるため」
マスターはギリングの管理所の話を思い出していた。アーク級モンスターを狩って、シーク達の動きが探られるのを阻止するという趣旨の要請が来ていたのだ。
アーク級モンスターをアダムの魔力で作り出しているのなら、倒された際、アダムにはそれが分かる。それだけの実力を持つバスターが迫っているというサインになり得る。
「……アーク級モンスターを狩るのは、控えた方がいい?」
「でも野放しにするには危険だと思います。アーク級モンスターが比較的集中して発見されている場所は、数えるだけで8つ程ありますが……もしかしたらアジトを見つけ出せていないだけという可能性も」
「これだけアジトがあるなら、数週間程度でアダム・マジックを常に移動させているのかもしれないね」
「荷物検査の強化を各国に要請します! 彼ら魔王教徒の自由な移動を制限しなくては!」
「お願いします! 後はビアンカとゼスタもいる時に話し合おう」
シークはマスターにお礼を言い、もう1つ頼みごとをする。
「この地図で、探したけどアーク級モンスターがいなかった地域、というものは纏める事が出来ますか?」
「いなかった地域、ですか。しばらく時間は掛かると思いますが、それもバスター協会を通じ、全管理所で把握している分を整理させます。お時間を頂けますか?」
「はい。俺達はアークドラゴンの封印場所を突き止めるため、また移動します。何週間後かに分かっていれば」
「それだけいただければ十分です。期待に添える地図に仕上げますよ」
シークは宜しくお願いしますと言って頭を下げ、マスターが慌ててこちらこそと頭を下げる。シークは普段自覚がないが、
つい周囲の者も普通の純朴少年として接してしまうが、下位の貴族に並ぶ程の武将である。
そんな無自覚な武将が執務室を後にすると、マスターは自分の席の椅子にもたれ掛かってため息をついた。ドッと疲れが噴き出たようだ。そしてすぐに「よし」と言って本部へと電話を掛けはじめた。
* * * * * * * * *
夕暮れと言うには明るいジュタの町に、17時を告げる鐘の音が鳴り響く。
管理所の2階からは、港に続々と戻ってくる漁船が見える。
町の外に出ていたバスターが続々と引き揚げ、商人や旅人が慌てて一緒に町へと駆け込んでくる。どこの町でもおなじみだ。
最初にビアンカ、暫くしてからゼスタも管理所にやってきた。シークは職員に負担を掛ける訳にはいかないと言い、話し合いは明日やろうと提案する。
シーク達がいれば、職員はたとえ仕事が終わっていても帰らないだろう。いくら名誉職と言っても、3人は我が物顔で管理所を利用する気はなかった。
「宿を取ろうか。前に泊まった宿でいいよね」
「そうね、慣れた所の方がいいかも」
ゼスタが聞き込みのメモを忘れないうちに整理したいと言うので、3人はロビー0の隅のテーブルについた。そう時間は掛からないはずだ。
「なあ? いかがわしいだろ」
「それは絶対に良からぬ事を考えているね。その点、シークは絶対に僕と一緒じゃなきゃ入らないと言ってくれた。君を連れて行かないなんて、きっと『物』には言えないようないやらしい事を考えているのさ」
「やっぱりそうだよな? なんだか煌びやかに装飾して、今だけ20%引きだなんて掲げて、いかがわしい店だなと思ってたんだよ」
「ケルベロスちゃん、あんたようと言ってやらんと。そげな店は一歩入ったらどんな誘いを受けて何されるか分からんのやけ。1人で行かせたらどげな間違いが起こるか分からんばい」
「だよな。俺っちのため……いや、ゼスタのためにも行かせちゃ駄目だよな。有難う、バルドル、グングニル! 相談して良かった」
武器達は手……いや、柄持ち無沙汰なのか、武器以外には意味不明な会話を繰り広げている。シークは読書、ビアンカは防具を磨いていて、敢えて反応していない。
「金だっていくら掛かるか分かんねえよな。いつだって旅の資金だの、クエスト報酬だの、金の話ばっかりしてるくせに」
「欲望っちやつは強いけんね。心配事があってもしたくてしょうがない、それが人間たい」
ところがゼスタは武器達の会話が気になって仕方がなかったらしい。とうとうメモ帳を閉じ、ケルベロス達の話に割って入る。
「おいおい、お前ら何の話してんだよ。俺か? 俺の話か? いかがわしいって何だよ、欲望? そんな店、この町で見た覚えねえぞ」
「はっ、言ってくれるぜ。俺っちを宿に置いた後、どこに行ってみようって言ったか、覚えてねえとは言わせねえぞ」
「ちょっと武器屋が何軒かあったから、着替えた後で行こうかとは言ったぜ? 留守番してろって」
「はい今言った、聞いたよな? バルドル、グングニル」
「うん、聞いた」
「ほーら、ゼスタちゃん」
ゼスタは自分が何を非難されているのか全く分かっていない。武器屋は武器屋だろなどと呟いている。
シークはゼスタのため、読書をやめて「つまりは」とゼスタに解説を始めた。
「他に目移りしそうな武器がいっぱいある武器屋が『いかがわしい』店。安いよと呼び込みかけられて、試着や試し斬りを勧められるのが『何されるか分からない』だよ」
「はい?」
「他の武器を買っちゃうのが『間違いが起こる』で、ケルベロスより良い武器がないと知っていても行きたい衝動、それを『欲望』って言ってるんだよ」
「はぁ? 俺はてっきり……」
「あらゼスタ、もしかして他にいかがわしいお店の心当たりでも?」
ビアンカがすました顔で追及する。ゼスタは必要以上に首を左右に振って否定した。
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