Landmark-12



 何一つとして確証はない。けれどアダム・マジックが2人いた事、アークドラゴン封印の前後で入れ替わっている事を考えると、アダム自身が触媒である可能性はある。魔法と死霊術の関係性も見えてきた。


「体を用意できれば操れる。逆に中身がアダムなら、体が何でも構わない……成程、それならイヴァンの背に解術を刻める。シーク、なかなかいい発想かもしれないね」


「じゃあ、今のアダムの中には誰かが入っているって事?」


「そうなる。もしくはその逆だね。問題はアダムの研究内容をどうやって知ったか。この秘密をどこで知ったか、だね」


「全世界が、2人目のアダムこそ本物と思っている中、それが分かるのは……」


「僕の見立てでは、僕が知っている方のアダムの家、じゃないかなと」


「魔王教徒は、そこを拠点にしてる……?」


 シークとバルドルは、互いに「それだ!」と声を揃え、調べるべき事を整理していく。


 生家の場所、魔王教徒の目撃情報、一般客が棺のように大きな物を検閲なしで運ぶことが出来る航路。


 おおよそがまとまって部屋に戻ろうとした時には、もう外が明るくなり始めていた。北の大地の夜明けは早い。もうじき大陸最北のエバンなどの町では白夜も始まる。


「まずい、もう何時間も寝られないよ」


「子守唄でも1つ聞いてみるかい」


「それは却下」


 ベッドに入って目を瞑ったシークは、10分程して寝息を立てはじめる。ゼスタとビアンカが目覚めた後もシークはまだ寝ており、バルドルとケルベロスがそれはもう嬉しそうに「子起こし唄」を披露したのは想像に難くない。





 * * * * * * * * *





 砦の者達に仮説を話した後、3人はまたジュタの町へ引き返した。


 灰色の建物に似合わない程鮮やかな青い海は、砂浜の波がなければピタッと止まっているかのように穏やかだ。


「管理所の人達、もう砦からアダムの事を聞いているかな」


「恐らくね。でも、これ以上話を広める事はないと思う。この混乱は魔王教徒に有利だからね」


「どういうこと?」


 バルドルがしれっと放った言葉に、シークは首を傾げた。


 アダム・マジックが別人だったと知られ、元のアダムを探そうとされたら、新事実も次々と見つかるだろう。魔王教徒の手口も知れ渡り、バスター側に有利なはずだ。


 けれど、バルドルはそう考えてはいない。


「魔王教徒がどこまで何を知っているか分からない。もしかしたら僕達が考え付いたことを、魔王教徒は考え付いていないかもしれない。皆がアダムの事を探ろうとすれば、それに紛れて魔王教徒が大胆に探し回っても怪しまれない」


「……成程ね」


 バルドルの意見も一理ある。ビアンカとゼスタも情報の隠匿に同意して頷いた。


「じゃあシークはそのまま管理所に行ってくれ。俺は港からの積み荷の検閲方法とか、他の港の情報を仕入れてくる。ビアンカは図書館と役所に。この町にあの村の元住民がいないか調べてくれ」


「分かった」


「了解。集合は17時の鐘の後、管理所のロビーでいいかしら。結果を話し合う時、あまり他に話が漏れない方がいいよね」


「そうだね、俺達にとってここは馴染みの土地じゃない。誰かが故意であろうとなかろうと魔王教徒に話してしまうかも」


「決まりだな。じゃあ、17時に」


 3人はそれぞれ手分けして調査を開始する。シークはバルドルを連れて大通りを歩き始めた。あまり飾り気がなく、目的地以外に目移りしそうなものはない。


 大きな港があるにも関わらず、賑やかさは港の周辺に限定されていた。管理所周辺にも工場や倉庫が多い。


「ねえ、ジュタって工房や装備屋が多くない?」


「そうかい、僕は特に興味ないかな」


「もしかしたら、あの村の跡地で見つけた武器が、この町で調達された可能性もあるかなって」


「その、あまり僕は言った事がなかったけれど」


「ん? 何?」


 バルドルが何かを言い難そうにしている……かどうかは全く分からないが、シークはその続きを促す。


「僕以外なんてきっと選ばないのは分かっているけれど、『他剣』に興味があるような素振りはとても……嫌な気分になる」


「分かったよ。君より良い剣があるかないかって意味じゃないんだ。君を置いて武器屋に入る事も絶対にない」


「本当かい? 例えば記念セール全品30%引きなんて、いかがわしい誘いにものらないね?」


「いかがわしいって何だよ」


 バルドルは、とりあえずシークの言葉に安心したようだ。


「例えばもしその記念セールの中に、装備手入れ用品が含まれていたとしたら?」


「いつもなら3つ買う所を、5つ買ってくれたりするのかい」


「他でもない君のためにね」


「分かった、記念セールの時は仕方がない。『柄』を打つよ」


 バルドルの機嫌が直ったところで、シークは管理所の扉を開いた。受付では砦からはおおよその話をきいたと告げられる。


「この話はまだ伏せていてくれませんか」


「分かりました。それで、これからシークさんは何を……おっと失礼、この話は別室で」


「助かります」


 おおよそ警戒するべき事が何か、管理所の職員も分かっているようだ。シークよりも背が高い短髪の若いマスターが職員と共に現れ、職員用の執務室へと案内された。


「それで……砦で得た情報と仮説は簡単にお伺いしました。我々は皆さんの話を事実と推定し、様々な線を当たっていくつもりです」


「俺達も手分けをして情報収集に当たっています。ビアンカは村の元住民や昔のアダムに繋がる資料を。ゼスタはアダム・マジックの棺をどうやって村から運び出したか、船などで運ばれていないかを探っています」


「船で運ばれたとは? アダム・マジックの遺体の移動について何か分かったのですか」


 シークはイヴァンの事を説明する。彼の背にはアダム・マジックが彫ったと思われる術式の痕があり、それは大陸に連れて来られる前に彫られていた。


 死霊術が先かアダム・マジックの遺体が先かはまだ分からないが、この周辺のモンスターから身を守れる程、魔王教徒の戦闘能力が高くない事も伝えた。


「アダム・マジックの能力をもってすれば、この辺りのモンスターなど脅威ではないと言えないでしょうか」


「入れ替わったアダムは腐敗どころか骨だけの状態かもしれません。死霊術士は細心の注意を払います。歩かせるより持ち運んだ方が確実です」


「……死霊術士は、運び人としてバスターなどの護衛を雇った可能性がありますね」


「ギタカムア山周辺のモンスター狩りのように、事情を知らない管理所とバスターを利用したかもしれません」


「せめて、いつ持ち出されたのかが分かれば特定も早いのですが」


「最近ではない、としか」


 マスターはしばし考え込み、もう一度、魔王教徒が掘ったであろうトンネルを調べさせると約束してくれた。


「あの、アダム・マジックの生家の話は聞いたことがありますか」


「生家、ですか」


「そこに魔王教徒か、もしくはアークドラゴンに関する鍵が隠されている気がするんです。場合によってはアジトにしているかも」


「アジトとして? 生家を?」


 あくまでも可能性の話だが、マスターはすぐに手掛かりになる物を調べてくれると約束してくれた。管理所には古書も数多くあるという。


「どれか1つでも分かったら……」


「僕からもちょっと質問があるのだけれど。魔王教徒の拠点は、今まで何処で見つかったんだい」


「はい、まずはムゲン自治区です。そしてシュトレイの山中、マガナン大陸のギタカムア山の南東、ライカ大陸のビエネ湖畔、オンドー大陸のバース共和国、アマナ島のミスラ近郊……」


 シークは地図を取り出し、その場所に1つずつ×印をつけていく。


 4魔がいた場所の近くに拠点があるのではと思ったが、4魔がいない地域も複数ある。また、各大陸や島々において、拠点は1つずつらしい。


「この拠点に、何か法則のようなものはありませんか? 歴史的な事、モンスターの特徴などに共通点は」

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