CROSS OVER-14

 

 シーク達は4人が最後に受けた2つのクエストの控え票を借り、すぐに走り出す。


「そんなに遠くない。もういないかもしれないけど急ごう!」


「治癒術だけじゃ戦えないだろ……ったく!」


 一行は街道を東へと向かう。不気味な程澄んだ青空と爽やかな風に不安を覚えながら、「道のすぐ傍で商人を待ち構える3体のオーク討伐」の地点を目指した。


 ジルダ共和国ではギリングの真東に町や村は存在しない。もし何かあった時、助けてくれる者が通るとも限らないのだ。


 キラーウルフやラビの群れを倒しつつ、1時間程も急ぎ足で進んだだろうか。5人はようやくクエスト地点で足を止めた。


「あまり離れ過ぎないように、手分けして探そう!」


「ミラぁ! いたら返事して!」


 草の丈は膝上程まであり、ミラが倒れているとしたら見つけるのは困難だ。シークはバルドルを高く掲げ、更に遠くまで眺めさせる。


 付近に争ったような痕跡はない。シークは次のクエストの位置を確認した。


「もしかしたら、ここに来る前に襲われて、倒れてたり……」


「街道沿いに痕跡はなかった。とりあえずもう1つのクエストの場所に行こう。もう1つは……橋の下に溜まった流木の片付け……もう少し先だね」


 次のクエスト地点までは歩いて数十分。幅が狭い石の橋に着くと、すぐに手分けして付近を確認し始める。


 雪解け後、一時的に水かさが増す。そうすると流木が橋脚に溜まってしまう。この除去がクエストの目的だった。シークはバルドルを、イヴァンはアレスを高く掲げる。


「それらしいものは……なし。バルドル、何か見えるかい」


「とても綺麗な景色が。悔しいけれど、アレスの方が僕よりも少し高い位置から見渡しているね」


「みなさん! アレスが何か見つけたみたいです!」


「誰か戦っています。北の方角でバスターが3、いや、4人」


 イヴァンとアレスの呼びかけで皆が集まり、その方向へと目を凝らす。アレス曰くオークが3体でバスターを襲っていて、苦戦して見えるものの、手を貸す必要はなさそうとの事だ。


 ソード、ガード、攻撃と回復の魔法使い。その構成で挑めばオークは手頃な練習相手でしかない。


「もしかしたらミラを見かけていないかな」


「見かけていたら、流石に引き留めるんじゃないかしら」


「まあ、そりゃあそうだけど。話くらいは聞こうぜ」


 クレスタの言葉に皆が頷き、4人パーティーへと近づいていく。


 グレードの低い装備のソードとガード、狙いを定められずにいる攻撃術士、それに1人ずつ術を掛ける治癒術士。動きは悪いが、圧されてはいない。


 そんな戦いっぷりを視界に入れた時、アンナが驚いたように声を上げた。


「……ミラ!?」


「えっ? あ、本当だ! あの治癒術士、ミラじゃねえか!」


「なんで、え? 何で俺達以外の人とこんな所で……」


 視線の先では確かにミラが別の3人組と共に戦っている。


「あの3人、どこかで……」


「僕は覚えているよ。シークに偽善者だと言って落ち込ませた3人だね」


「思い出した、確かにそうだ。まさか引き抜き? そんな事をしたらバスターの間で噂になって総スカンだよ」


「ミラはそんな裏切るような奴じゃねえ……と思ってる」


 4人はオークを2体倒し、ソードの男がなんとか3体目を斬り倒した。4人はお互いの戦いっぷりを笑顔で称え合う。その様子を見て、ディズ達はたまらず飛び出した。


「ミラ!」


 ディズの声にミラが振り向く。


「え? どうしてここに……」


「それはこっちのセリフだ! 探しに来たんだぞ、こんな所で何してんだ!」


 仲間を心配するがあまり、ディズの口調がきつくなる。慌てて間に入ったのはガードの男だった。


「待て待て! ミラちゃんには事情があるんだよ!」


 ディズもアンナもクレスタも、男を睨みつけている。イヴァンはよく分かっておらず、シークもこの状況を全く飲み込めていない。

 

 沈黙の中、まず声を発したのはバルドルだった。


「君達は新人が管理所に押し寄せた日、シークに向かって偽善者だと言い放った3人組だね」


「……げっ、聞こえてたのかよ」


「僕の主は君達の発言にえらく落ち込んだのだけれど」


「……悪い。成功してる奴らを見ると、どうしても情けない自分と比べちまって」


 バルドルが喋る事は周知の事実。案外素直に謝る男に、シークはもう良いですと伝える。そしてそれよりも今はミラの事情を聞こうと話を促した。


「ミラちゃん。仲間が心配して探しに来たんだ、言い難いなら俺達から話すぜ?」


「……」


「俺達、朝にクエストを受けてこっちに歩いてたんだ。そしたら1人だけで歩いてるミラちゃんを見つけてさ」


「事情を聞いたら、仲間を巻き込めないから、1人で黙って出て来たっていうじゃねえか」


「そりゃああんなこと言っちまうくらい底辺な俺らでも、新人を1人こんな所で放っておける程落ちぶれてねえ」


「ミラ、どういうことだよ」


 ミラは俯いたままで、なかなか話そうとしない。明朗快活な普段を考えると、余程思いつめていたと見える。


 そんなミラを見かねて理由を話しだしたのは、管理所で「騎士ナイト様」と言って笑っていた魔法使いの男だった。


「亡くなった友達とプレゼントし合ったイヤリングを探しに来たんだとさ。でもお前らに付いて来て貰って、もしパーティーがまた襲われて壊滅したら……だから1人で探そうとしたんだってさ」


「見かねた俺達がそのイヤリング探しに手を貸したって訳。いつも『燻ってる』と笑われるけど、俺らは俺らなりに、やっぱり良い事をしたい訳よ。グレー等級のお守くらいなら俺達にだって」


「正直に言うとあの時だけじゃない、いつも悪口を言ってた。でも、本当は……羨ましかったんだ。あんたらみたいにデカイ事は出来なくても、俺達だって認められたい。困ってる奴がいたら力になりたかった」


 まさかのシークの登場に、大きな態度を取る事は出来なかったのだろう。3人は素直にシークへと謝り、ミラの事を責めないでくれと乞う。


 きっかけさえあれば、誰だって善人にも悪人にもなる。彼らは彼らなりに、善人になるためのきっかけが必要だったのだ。


「きっかけがなかったら、今頃俺達もあなた達と同じような事を思っていたはずです。傷ついたのは本当ですけど、今は感謝してます。ミラを手伝ってくれて有難うございました」


「ぼく達からもお礼を言わせて下さい。有難うございます、ミラの事を助けて下さって。いつかぼく達も、後輩バスターを助けてあげられるようなバスターになります」


 ディズの言葉に続き、アンナとクレスタも頭を下げた。3人は照れくさそうに、むず痒そうに、弛んだ頬を隠そうとする。ミラもようやく重い口を開き、勝手に出てきてた事を謝った。


「4人で探しに来る方法を考えても良かったんだ。俺達パーティーだろ?」


「ごめん、本当にごめんなさい……!」


 泣きながら謝るミラに、ディズ達は疲れた、足が痛いなどと告げ、償いとして回復魔法を掛けさせる。


「それで、見つかったのか?」


「うん、見つかった。帰りがけにオークが現れて、一緒に戦って貰った所だったの」


「それじゃ、俺達はもう1つクエストが残ってるから行くぜ。手堅くゴブリン退治!」


「いつかはミノタウロス! あとは宜しく頼むぜ? 騎士さん」


 3人は笑顔でミラに手を振り、シークへビシッと人差し指を向ける。そしてニカっと笑った後、更に北へと去っていった。


「なんか、カッコイイ3人組だったな」


「帰ろう、私達まだお昼ご飯食べてないし。ミラが奢ってよね」


「帰りの戦闘はディズ達に任せるよ。あ、イヴァンにもパーティー戦の経験を積ませたいんだ。参加させてくれないかな」


「あの……シーク。僕はその間何をすれば?」


「バルドルは……そうだね、新人に戦いを譲ってあげる、心優しい聖剣ごっこはどうだい」

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