ALARM-05
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ただいまの時刻は朝の8時。これから武器屋マークへ受け取りに行く。シークは昨日の17時の待ち合わせで、ディズに大剣の確保を伝えていた。
ゼスタもビアンカも装備更新のため、どうせ武器屋マークに向かわなければならない。3人はイサラ方面にあるクエストのうち2つを受注した後、すぐに武器屋マークに向かった。
「おはようございます、シークさん!」
「あ、ディズ。おはよう」
武器屋マークの扉の前には既にディズがいた。シークがゼスタとビアンカに紹介し、店の中でディズの大剣を受け取る。
「本当に有難うございました! とても扱い易そうです」
「礼ならビエルゴさんと、シャルナクって女の子に言ってよ。頑張って仕上げてくれたんだ。今日は午前中、管理所で事務の手伝いをしているよ」
「うちの嬢ちゃんに感謝するんだな。こっちがもう良いと止めるくらい全力で仕上げた渾身の逸品だ」
ビエルゴが自慢気に微笑む。新人の旅立ちを手伝えたことが誇らしいのだ。
「パーティーメンバーにも自慢できるぜ。見せびらかしてやれよ」
「パーティーは……これからです。今年は近接攻撃職の希望者が多くて。学校の友達もバスターになる奴があまりいなかったから」
「あーなんか経験したやつ。1年前を思い出す」
「私のバスター初日と同じね。年によって卒業者数も希望職もバラつきあるし」
ゼスタとビアンカが苦笑いで頭を掻く。
毎年、一部の者がパーティーを組めずに出遅れる。大抵はあぶれた者の職には偏りがあって、残った者同士ではパーティーを組み辛い。
気が合わずに抜けた者、解散したパーティー、そういった者達で次に募集が活発になるまで2週間以上かかるだろう。
あぶれ者ですぐに集まったシーク達のようなパターンは、実は滅多にない。
「とにかく武器は手に入ったんだし、防具は当面それでも大丈夫なはず。まずはバスター登録を済ませないとね」
シーク達はディズを連れて管理所に向かった。既に館内は新人が長蛇の列を成している。3人でロビーの椅子に座り、ディズの受付完了を待つ。
「あの3人組だぜ」
「早速先輩面か、俺達と同じ2年目のくせに」
「どうせ俺達みたいな底辺バスターとは意識も違うんだろうさ、
「偽善だろ、弱い奴を踏み台にしてのし上がっただけだ」
どこからかシーク達の悪口が聞こえてきた。周囲を確認すれば、柱の付近に3人組が立っている。1人はソード、1人はガード、そして1人は魔法使いらしい。
装備は駆け出しのように質素なものだ。彼らは自分達で自嘲するような、俗に言う底辺バスターだろう。
3人は明らかにシーク達を見ていて、わざと聞こえるように言っている。ビアンカは睨みを利かせつつも、ミリット・リターの事を思い出してか、グッと怒りを抑えている。
ゼスタは相手にするだけ無駄だと諭し、視線をディズへと戻した。ところがシークは3人組の言葉を真正面から受け止めてしまい、落ち込んだ様子で呟く。
「偽善、か。そう見える人がいるって事だよね。心に刺さる」
「俺もああなってなかったって言い切れないけどさ。他人を僻んで腐ってる間に何かしろっての」
「坊やが何か悪い事したんね。違うやろうもん、お嬢達は胸を張れる事しかしとらん」
シークはそれはそうだけどと言いつつ、まだ列に並んでいるディズを見る。感謝されて確かにいい気分だったが、最初は感謝される事など考えてもいなかった。
「俺っちが代わりに言ってやろうか。僻むな弱く見えるぞって。その……目の前まで行ってくれるならな」
「あの、シーク。落ち込むのに忙しいようだけれど……偽善っていうのは、つまりは詐欺師の事だね」
「まあ、そうだね。親切なフリをして、実はその背景にある物を利用してる、狙っているとか」
「相手もしくは第三者に不利益が生じる、そしてシークが利益を得る、という図式になるね。おっと、僕に図で示せなんて無体な事は言わないでおくれ」
「まあ……そうだね」
「シークが自分を良く見せたいと思うとする。そんなシークに助けられる人が現れる。助けられた人にとっては良い事だ」
バルドルはいつもの調子で持論を展開する。バルドルなりの励ましだ。
「そりゃあ人助けには違いないと思うけど。どう思われるかまではこっちで決められないよ」
「良い事をして、誰も不利益を被っていない訳だよね。落ち込む必要があるかい?」
2年目に突入したばかりでパープル等級となった。騎士の称号も得た。シークはそんな自分の肩書きに気持ちが負けている。
僻まれる事もインチキ扱いされる事もあったが、やっぱりそれを言われると落ち込んでしまう。
「シーク。君は良い行いをしている。自分の事を相応しくないと思っているのは、誰よりも君自身じゃないのかい」
「そう……だね。こんな肩書き、貰っていいのかなって、相応しくないって思ってるのは確か。追いつくために何かしなくちゃって、焦ってるのも本当」
「この聖剣バルドルが保証する。今のところ君は特に間違っていない。落ち込む事を諦めてくれると助かるのだけれど」
「分かった。君はいつだって自信満々で、時々それに助けられるよ。こんな情けない姿、ディズには見せられないね」
こちらを窺う3人組を無視し、シークはヒュドラ討伐について、ビアンカとゼスタと打ち合わせ始める。
が、今度はゼスタが上の空だ。時々入り口付近をチラチラと見ては難しそうな顔をする。
「ゼスタ、どうした?」
「あ、いや……。あそこにいる女の子、朝寄った時にもいたよな。入り口の横にずっと立ってないか?」
「そう言えば。誰かを待ってるのかもしれないけど、もう開館から2時間以上経つ」
ブロンドのショートヘアで、背中には盾が見える。俯いて、時折受付を覗くような仕草をしている。
「女の子でガード職? 嘘でしょ、ランスの私だって最初はビックリされたのに」
「昔からガード職は仲間の命を預かる職。力のある男の役目っち思われとる所があったけんね。今も変わっとらんやろ」
「女の子でガード職希望、か。パーティーに入れて貰えなかった可能性もあるわね」
「初心者のガードは動きが悪いし、ソード技を片手で繰り出しても威力がない。1人じゃグレー等級のモンスターにも手を焼く」
「……私達も1人で始めた側だけど。あんな風に出遅れたら、他人を僻むのも分からなくはないわね」
3人は顔を見合わせて頷いた。任せてと言ってビアンカが立ち上がり、少女へ歩み寄っていく。すると、ゼスタが今度は反対へと顔を向け、階段の脇を指差した。
「気になったついで。あっちの階段にも1人、新人がずっと手すりにもたれ掛かってる。武器は何だろう、お節介なのは分かってんだけど……」
「うん。元々俺がディズに声掛けた所から始まってる訳だから、任せる」
お節介1号が頷き、2号に続いて3号も新人へと声を掛けに行く。
「まったく、優しいのは分かるけれど。君達の事はバスターよりも救助隊と呼ぶべきだね」
「気になっただけで、これが人助けになるかも分からない」
「犯人は『俺は絶対にやってない』と言い張る。それと一緒だね。俺は優しくない、優しい事なんか何一つしないで生きて来たんだ、って」
「それ、ただの極悪非道じゃないか。そういうバルドルはどうなんだい」
バルドルのどこかズレた言い方に、シークの気持ちはようやく浮上する。
「僕は優しいよ。見てよこの形状。ロングソードなのに片刃!」
「えっと、優しさって気持ちの話じゃなかったの? 片刃だから優しいって、何さ」
「片刃だから峰打ちが出来る、相手を殺さない事も選べる。僕の半分は優しさで出来ていると言っていいね」
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