Interference 06



 目くらまし程度でしかなかった今までの魔法とは全く違う。まるで炎の龍が一直線に向かうようにミノタウロスを襲い、しっかりと炎で包み込む。


「ゼスタぁ!」


「分かってる! ガードする!」


 ゼスタが双剣をクロスさせて防御態勢を取る。ビアンカは背後からミノタウロスへと、槍を高速で捻りながら襲い掛かるつもりだ。


「シークとゼスタを差し置いて、私だけ装備更新させてもらったんだから……ここで活躍出来なきゃ! 破ァァァ!」


「グゥゥ……ウオォォォ!」


「ビアンカ下がれ! バルドル、行くよ!」


「僕は今、声を抑えるべき役じゃなかったかい」


「いいからファイアーソード!」


「斬れ味は抑えられないから、勘弁ね」


「バルドルが一級の役者だとは思っていないよ。得意な分野で思う存分活躍してく……れ!」


 シークはビアンカが攻撃を与えた瞬間、ミノタウロスの硬直に合わせてバルドルを振り下ろす。ゼスタがミノタウロスの角による突き刺しを避け、ミノタウロスの視界からシークを逃がそうと向きを変える。


「ファイアー……ソード!」


「ウグゥ……!」


「からの、ブルクラッシュ!」


「フルスイング! よろけた隙狙って!」


「ビアンカ、交代だ!」


 ミノタウロスがシークへと振り向き、斧を振り回して狙いを変えた。上半身を捻りながら、その勢いのまま斧を水平に振りきる。それを今度はビアンカが斧の柄を払って防いだ。


 武器がぶつかる音、ミノタウロスの肉が抉れる音、魔法の発動による光。観衆は目を離すことなく見守っていた。


「本当に新人か? どれ一つとして当たり前の攻撃方法じゃねえ……あの炎の剣は何だ? 魔法? それとも何かの技だろうか」


「あの少女の一撃、かなり重いぞ。巨体のミノタウロスを足払いし、矛先が完全に埋まる程に槍を突き刺してやがる。しかもひとつひとつの動作が全て速い、化け物かよ」


「一番注目すべきはあの双剣の少年だ。双剣でガード役をしているだと? 機動力を活かし、手数で翻弄する補助的な職の筈、どうして……」


「あの域に達するのに、普通なら何年かかることか」


「二手、三手先を読んで攻撃してやがる」


 シーク達がホワイト等級であるという事も忘れ、観衆は口々に驚きを漏らす。半信半疑で見に来た者も、シーク達の姿に頭がついていかない。


 一撃必殺のような力はなく、装備も経験も明らかに足りていない。しかし全く怯むことなく立ち向かっていく様子は、ベテランから見ても面白い。


「次、エアロの魔法剣でいく!」


「それなら角を狙うといい。ミノタウロスの角の成長線に沿って、左右とも内側から斬り払うんだ」


「分かった! えっと、なんて技名にしよう、エアロソード……」


「エアリアルソードなんてどうだい? 我ながら良い命名だと思うけれど」


「採用! じゃあ……エアリアルソード!」


 シークが魔力を溢れさせ、風が可視化される程の渦を巻いてバルドルを包み込む。渦が落ち着くと白い刃の形になり、まるで大剣だ。


「ただ斬り付けるだけじゃなくて、同時に技を試してみるかい」


「それは思いつかなかった、やってみる価値は……あるね! よしエア……技名……まだない!」


 シークがミノタウロスの左の角へと斬りかかる。角の渦巻き状の線に剣がしっかりと引っ掻かった事を確認し、そのまま斬り上げて角をもぎ取った。


「ギュエェェェ!」


「もう片方の角も千切ってやる!」


「次回は技名を考えてから撃つといいよ、その方がかっこいい。ツノチギリじゃあ、ちょっとね」


「帰ってからゆっくり考える事にする!」


 ミノタウロスは牙を剥き出しにし、槍の柄でガードをしているビアンカを噛み殺そうと、いっそう力を込める。流石にセンスで力は補えない。ビアンカが圧されているところをシークがすぐに回り込み、バルドルを押し付けて一緒に抑え込む。


「やっぱり凄い力だ……抑えるだけできつい!」


「ゼスタ! 攻撃行ける? 私達で抑える! ……キャッ!」


 ミノタウロスが槍の柄を噛んだまま、首を振って手を離させようとする。それでもシークとビアンカが食い下がるのを止めないと分かると、今度は斧を構え、シークとビアンカの背中に振り下ろした。


「危ない!」


 ゼスタがすぐに気づいて斧を双剣で防ぐ。3人がガードにまわるという事態に、見守っていた観衆は残念そうな声を上げた。ホワイト等級にしてはかなりの健闘。装備差を考えればブルー等級相当だと言う者もいる。


「これは助けに入った方がいい! あいつらが金や不正で昇格した訳じゃないのは分かった! だがこのままじゃやられちまう」


「俺だったらまず挑もうとすら思わねよ。勇気は認めるし、今までの評価が間違いとも思わねえ。あのままじゃ」


「なあ、あんたら、あの子達を助けてやらないのか」


 観衆から、そろそろ助けに入った方がいいという声が上がり始める。そのうちの何人かはゴウン達に詰め寄っていた。


 だが、ゴウンもリディカも、カイトスターもレイダーも、皆その者達をとても冷たい目で見ていた。


「あれが、お前らが馬鹿にし、疑った少年達の戦いだ! お前らがあの域に達するのに何年かかった!」


「あなた達が買収だ、不正だと囁きあっていた間、あの子達はあんな風に戦いを重ねていたの。これが答えよ」


「誰のせいで3人が戦ってるのか、分かっているよな。疑ったあんたらのせいだ。馬鹿の流した噂を確かめもせず信じたあんたらが、新人にあんな戦いをさせているんだ」


 疑っていた者達は皆俯く。特に最後にレイダーが言った言葉は刺さったのか、凄い凄いとはしゃいでいた者達は、事の重大さにようやく気付いたようだ。


 リディカの目には、うっすらと涙が滲んでいる。気にかけているビアンカ達を馬鹿にする者がいると聞いた時から、実は相当に怒っていたのだ。


「まあ、見ていればいいさ。見守る度胸もないくせに他人を馬鹿にするなんて、まさかねえよなあ? ん?」


「俺が弓を射ればいつでも救い出せる。でも俺達に頼ったなら、あんたらに後で馬鹿にされると思っているはず。だからあいつらは俺達を頼れない、頼らない」


 シルバーバスターの言葉に、不安そうながらも全員が見守る。その間、シーク達は襲い掛かるミノタウロスの攻撃を封じ込め、次の手を考え始めていた。


 助けてもらうという考えはこれっぽっちも頭にない。


「防戦続けるって訳ではないよな! シーク、バルドル、何か策がないか!」


「考えてる! けど……仕留めるには強い一撃が必要だ! 最低2人のガードが必要なこの状況だと厳しい!」


「槍が柄の部分まで人工ミスリルで良かった! 木製のままだったらもう折れてたかも……! でもそろそろきつい!」


 シークは自身の魔法剣でなんとかならないかと、頭をフル回転させる。まだまだ腕力が足りない3人のうち、一番攻撃力があるのはシークの魔法剣だろう。


 ただ、この状況を打開し、魔法剣を放つための奇跡の一手が浮かんでこない。


「ゴウンさん達に助けを求めたら、噂通りの不正野郎だって……言われ続けるよな!  クッ……それだけは絶対に嫌だぞ!」


「気が合うわねゼスタ……! 私も絶対負けたくない!」


「あのー、シーク。これは提案なのだけど、言ってみても?」


「何だ……い、手短に頼む!」


 ミノタウロスが斧を一度振り上げる。口が開いた隙に、ビアンカが槍を口から引き抜き、ゼスタもシークも距離を取った。


 ミノタウロスの左手が斧をで地面を揺らした瞬間、ビアンカが槍を高跳びの要領で地面に突き刺す。そのまま跳び上がって宙で回転し、反動を使って槍をミノタウロスの背中に突き刺した。


「ギェェェ! グルルル……」


「あのー、シーク、続けてもいいかい? お取込み中の所、手を動かしながらでいい」


「はやく!」


「僕達が確実にダメージを与える為には、攻撃する場所を考えなくちゃならない」


「そうだ……ね! 要するにどこ!」


 バルドルは「はい右、はい後ろ」と指示を出しつつ、正解を告げる。


「口を開いた時、魔法剣で口の中に一撃を。体の中はモンスターだろうと柔らかいものさ」

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