Will-04
「ところで、君たちは3人組だろう? ソード、ダブルソード、ランスの組み合わせだとちょっと偏ってる気がするんだが」
「あー、えっと……俺、自己紹介の時にも言いましたけど、魔法使いです」
シークは、やっぱりそう思われているか、と頭を掻きながら再度魔法使いである事を強調した。ゴウンは顎鬚を摩りながら眉間に皺を寄せる。
「魔法使いが何故ロングソードを? 魔術書は? 杖は?」
「あー……えっと、持ってなくて」
「持ってない!?」
ゴウン達はシークの言葉に目が飛び出るのかと思うほど驚く。
「話せば込み入った事情があるんです」
「いや、事情が何であれおかしいだろう。そのロングソードは鞘と柄だけでも立派だと分かるし、そんなものを用意出来て魔術書を持ってないなんて」
「あー……ちょっと待って下さい」
シークはバルドルを持ってゼスタを呼び寄せ、そして入り口側で相談を始める。
「どうする? バルドルの事、話さない方がいい気がするんだけど」
「魔法使いって事、黙ってた方が良かったんじゃないか?」
「僕は一切喋っちゃいけない流れだと思って黙っていたけれど、一期一会と言ってもそこまで身の上を詳しく話す必要があるかい?」
「そうだぞシーク。相手の事を同じバスターだ、ランクが上だって無条件に信用するのもな」
「確かにそうだね、詳しい事は伏せておくとするよ」
「家宝だとでも言っとけばいい」
3人のベテランバスター達はシーク達に視線を向けつつ、何かあるなと怪しんでいる。拾ったか、盗んだか、恐らくそう考えているだろう。
「そもそもこれって、言わないと駄目って訳でもねえよな? シークが何使おうが勝手だし」
「僕もその意見に賛成」
何でも正直に話してしまう理由も必要もない。ただバスター管理所できちんと登録してある事だけは話した方が良さそうだ。シークはそれだけを伝えるつもりで口を開いた。
「確かに俺の剣ですし、ギリングの管理所で登録もしてます。バスター証もこの通り、ホワイトです」
「盗んだとか、未登録という訳ではない、と考えていいんだね」
「はい」
「あの、ちょっといいですか。バスターの先輩に対して言いたくはないんですけど、いきなり疑ったり怪しんだり、幾ら俺達が格下だからってちょっとどうかと思います」
「宿代を出して下さった事には感謝しています。ですけど、その代わりに話せという事でしたら部屋は別に取りますから」
シーク達の言葉に3人はまた「しまった」という表情をした。先程カイトスターが要らぬ詮索でビアンカを怒らせたばかりだ。
「いや、ただ思っただけなんだ。長年バスターをやっていると、変な正義感とか疑う気持ちが先に出てしまって、本当に申し訳ない!」
「何か事情があるのは分かったよ、詮索してすまない。でも、魔法使いはロングソードを使うべきではないと思う。アドバイスが出来るかもしれないから、何故使っているのかだけでも話して貰えないか」
シークとゼスタは顔を見合わせ、そしてシークはため息をつく。バルドルはもう少しアイアンソードごっこだ。
「うちは貧乏で魔術書を買えなくて、それでも何か武器がなければという事で、ロングソードを使っています」
「魔術書も杖も持たない魔法使いがロングソードで戦い、バスター登録から2週間足らずで既にホワイト等級に上がっているだって?」
普通ならばまず信じられない事だ。シークが何と言おうか迷っている間に、ゼスタが助け船を出す。
「シークは本当は剣術がやりたかったんです。魔法の才能があるから魔法使いで登録しただけで」
「魔法使いというのは形だけ、ってことか? まあ確かに君たちは若いし、才能があるからこそバスターとして活躍しているんだろうけど……」
「剣術は習ったのかい」
「あー……まあ、それなりに」
シークが曖昧な返事をしたせいで、今度はカイトスターが不安そうな顔をする。同じソードを使う者として、センスだけでは切り抜けられない時が必ず来ると知っているからだ。
「ちょっとロングソードを見せて貰ってもいいかい?」
「え、あ……はい」
シークはバルドルをチラリと見る。もしバルドルに汗腺があるとしたら、きっと冷や汗を掻いている事だろう。
(いいかい、アイアンソードになりきって。今だけは持たせても重くならないで)
シークはバルドルをカイトスターに渡しながら、小声で「いいかい、君はアイアンソードだ、立派なアイアンソードなんだ」と念押しをする。
「これはアイアンソード、か? 不銹鋼? だとしても、刃の色が白くてミスリルのような光沢がある。それに柄の部分の装飾、この模様は恐らく術式? ホワイト等級で持つ剣じゃないぞ、これは」
「え、そ、そうですか?」
「俺のミスリルソードよりも手が込んでいる。高純度のミスリルを買うだけでも一苦労なのに、一体これをどこで……まるで伝説のクリスタルだ」
「も、模造刀なんですよ」
アイアンソードになりきれとは言われたが、模造刀呼ばわりは話が違う。後でバルドルが怒るだろうなと思いつつも、シークは真実を伏せる。
暫く眺めても正体までは見破れなかったのか、カイトスターはシークへとバルドルを返した。
「まあ、登録済みならいいんだが……君達、この先の山道には詳しいのか?」
「あ、いえ。初めて通ります」
「山道は山の斜面に沿ってかなり大回しながら北東の展望小屋まで続く。そこまではブルー等級くらいあればなんとかなるだろう。でも、小屋の少し先から東に向かう道に入れば話は別だ。俺達はそこを通ろうとして、以前断念した事がある」
「危ないんですか?」
シークの質問に、今度はレイダーが弓の弦を拭きながら答えた。
「モンスターがとても強く、飛び道具が必要なモンスターが増える。鳥型や遠隔攻撃をしてくる亜人モンスターなんかが沢山ね。魔法を全力で発揮できない近接職3人のパーティーは通るべきじゃない」
「普通の道の方なら大丈夫ですか?」
「もちろん強いモンスターはいる。君達にはどちらにせよまだ厳しい。別の道をお勧めする」
シーク達は何か目的があってここまで来たわけでもない。あまり情報がなかったのでとりあえず来ただけだ。
山越えを断念するなら、リベラからの西に向かう鉄道に乗るか、東の山脈を超えて隣の国に入るか。南の砂漠が危険なことは分かっているので、成長のために拠点を移すならそれしかない。
ただ、危ないから帰れと言われたので帰りましたというのも格好が悪い。用心しながらでも、ここから戻らずに少しずつ進みたいという思いはある。
それはゼスタも同じだった。素直に別の道を進むと言わない2人に、レイダーは「仕方ない」と言って立ち上がる。
「急ぐ旅じゃないなら、1日俺達にくれないか。俺達はこう見えてシルバーまで昇格出来た。戦い方を見て、それで切り抜けられるかを判断してあげよう。無謀なバスターを黙って見送る事は出来ない」
「レイダー……そうだな。俺も先輩として、新人が見送った後に力尽きたなんて話を聞きたくはない。決めるのは君達だけど、せめてアドバイスをさせてくれ」
レイダーとカイトスターの言葉に、シークとゼスタが頷く。恐らく、ビアンカも分かってくれるだろう。
予備知識も技量もなく、危険と分かっている場所に向かえばどうなるか。オーガの住処でよく分かった事だった。
「是非、宜しくお願いします」
「決まりだ。じゃあ、飯の時間になるまで何か困った事や、知りたい事があったら教えるよ」
ゴウンがニッコリと笑う。シークとゼスタは旅の荷物のことや物価の事、戦い方やおすすめの装備などを教えて貰う事にした。
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