TRAVELER-14(020)
本来、魔法使いに武器など必要ない。魔力を増幅する事が出来る魔術書を持ち、己の魔力を武器とする。付け焼刃の物理攻撃などする暇があれば、術を発動した方が効率も良い。
武器を手に取る時、それはパーティーが崩壊し、自身の魔力も尽きた最後の悪あがき。そのために鍛えるものでもない。
バルドルだって、本当は知っていた。
魔法使いはロングソードなど使わない。必要はない。
なにせ勇者と呼ばれるソードと共に旅をしたのだから、手練れのバスターがどのように戦ってきたのかはシーク以上にたくさん見てきた。
「確かに、俺は魔法以外を使う事なんて考えてもいなかったし、学校でも武器を扱うなんて誰も思ってすらいなかったよ。魔法使いに必要かと言われると、必要じゃないかもね」
「うん、本当は認めたくはないのだけれど、僕もそれは分かっているんだ」
「でもね、君を拾ってから魔法使いなのに剣を使って、剣を使いながら魔法を使って、それが俺にとても合っているんじゃないかって思えてきたんだ」
魔法だけしか使ってはいけないという決まりはない。剣を使いながらでも魔法を安定して発動できるなら、単純計算では2倍強くなれる。シークは新たな可能性を楽しんでいた。
「それはつまり、魔術書を買っても、僕はお役御免にはならないってことかな」
「うん。魔法が凄いねって言われるだけのバスターを目指すのも面白くないし、魔法を極めている人なんて幾らでもいるから」
「何か極めたものがあるなら、それだけでどんな仕事もこなせる。君の大好きなお金が手に入るじゃないか」
「稼ぐには困らないだろうけどね。それじゃ勇者ディーゴのように伝説にはなれない。魔王アークドラゴンはディーゴ達が倒したし、既に安定しているこの世を平和にすることも出来ない」
「そうだね。それに魔王復活を願うのは流石に駄目だろうと僕でも分かる。倒した時のあの快感は何事にも代えがたい経験だったけれど」
魔王と呼ばれたアークドラゴンは遥か昔に倒された。現代のバスターはモンスター退治のクエストを行うだけの存在になりつつある。
憧れの職業といっても、実際はそんなに夢あふれる冒険の世界が待っている訳ではない。バスターがどんなに必死になろうと、昔の勇者の真似をして有名になれるような外部環境ではないのだ。
「だから魔法を極めて、剣も極める。そんな新しくて他に誰もいないバスターになる。どうせなら唯一無二を目指すのもいいかなって」
「おや? それはつまりどうしても僕と一緒に居たいという事かい」
「君が一緒なら、剣を使う魔法使いとして、割と面白い旅ができると思うんだけど。どうかな」
「とてもいいね! 剣を使う魔法使い、ソードマジシャン、魔法剣士、良い響きだよシーク! そう、僕はこういう出会いを待っていたんだ!」
バルドルは諸手を挙げて喜ぶ。勿論どこが手なのかを言い当てる事は出来ないが、敢えて言うならそのような気持ちだ。
確かに自分が求められているという実感は、剣として生まれたバルドルの存在意義を肯定されたとも言える。
「じゃあ、改めて宜しく、バルドル」
「宜しく! ああ、僕がどれだけ今やる気に満ちているか、君には分かるかい?」
「えっ? いや、見た感じだと分からないかな」
「じゃあ……モンスターが次々にやって来て、どれだけ斬ればいいか分からないくらいの状況を願っているって言うと、理解してもらえるかな」
「えっとそれはごめん、分かり難いのと、全然分かりたくない」
「勿論僕を使うだけじゃなくて、魔法も好きなだけ使える状況だよ? 嬉しいだろう?」
「いや、まあ……そういう事にしておくよ。さあ今夜は疲れたし、もう少しゆっくり出来る宿屋に泊りたい」
バルドルと喜びのツボを合わせることは出来ないと苦笑いしながら、シークは管理所を後にする。
昨日の宿にもう一泊お世話になることも考えたが、今日は昨日よりも手持ちがある。そのため、シークは少し悩んだ結果、あまり遠くない所に泊まる事にした。
管理所の裏にある宿屋は1泊5000ゴールド(夕食・朝食付き)。平均的なホテルとはいえ、シークにとっては思いきった贅沢だ。
「ねえシーク。ビアンカは今頃同級生の所に殴り込んでいるのかい」
「正義感が強いのか、ただ腹が立ったのかは分からないけれど、多分そうだね」
夕食を取った後、大浴場から戻ると、シークは明日ビアンカがどんな報告をしてくれるのかと笑いながらベッドに横になった。
シークは普段使わない筋肉を動かし続けたせいで、もう身じろぎすら面倒そうだ。
バルドルが「もう寝たのかい?」と問いかけた声に応える事もなく、シークはいつの間にか眠りについていた。
「照明を消してあげることが出来なくてごめんよ。おやすみ、シーク」
バルドルもまた、今日初めて自分がシークから必要とされた事を喜びつつ、どこかにあるであろう目を閉じて眠りについた。
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