TRAVELER-11(017)
「よし、分かった! ビアンカは嘘で身を滅ぼすタイプだね」
「えっ!?」
「今みたいに何か嘘をついたために、信用を失って仲間が居なくなったのだと僕は推理する」
「ちょ、ちょっと何でそんな暴論に辿り着いちゃうの? 私、そんな大嘘つき認定されるような事何かした? バルドルも冗談くらい言うでしょ」
「僕は『本当つき』だからね。間違える事はあるけれど」
「えっと、喧嘩の理由がくだらな過ぎるし、『本当つき』なんて言葉はないよ。ビアンカ、問題なければ理由を聞いていいかな」
シークが訊ねると、ビアンカは隠すのも面倒になったのか、素直に理由を話しだした。
「私ね、この歳で卒業出来る位だから腕はいいのよ、多分。でも、だからこそ仲間が出来難いというか……」
「え? 強い人は仲間も選びたい放題じゃない?」
「1人で旅を始めたシークが言えることじゃないね」
「うるさいよバルドル。で、どういうこと?」
ビアンカは『そこなのよ!』と、一体何処なのか話の要点が見えない相槌を打って、話を続ける。
「私より弱い人、とりわけ男が寄ってくるの。しかも私を守ってくれるとかじゃなくて、私がいれば安泰、みたいな。女の子は私がチヤホヤされてると勘違いして仲間に入れてくれないし」
「あー……そういうこと」
「それで、パーティーを組む相手を選べないうちに卒業が差し迫って、1人で旅をすることになったわけ。こんなカッコ悪い理由、積極的に話したくはないじゃない」
「夢膨らむ冒険への旅立ちが、そんなに現実的で希望のないものとは。何と戦ってるのかわからなくなるよ」
「うちは家の商売でも名が知れてるし、色々と面倒な事もあったの。ギリングの外から来ていたシークがそこを見ずに一緒にいてくれるのは有難いわ」
体格に恵まれた者以外では、女で武器を手に取り果敢に攻めていくバスターはあまり多くない。力では男に勝てないと早々にバスターを辞める者もいる。
バスターとして長続きせず、力任せの攻撃には限りがある。
それらの理由もあって、女性近接攻撃職の需要は決して高いとは言い難い。そのビアンカを頼って群がってくるレベルの連中と、一緒に組みたくないという意見はもっともだ。
「シークはお金との戦いだったね」
「良かったねバルドル。俺がお金持ちだったら、君と旅をする事はなかった」
「それは困る! やっぱり世の中お金じゃないよね」
「調子のいいやつ」
キラーウルフが出るという場所まで歩きながら、シーク、ビアンカ、そしてバルドルは、まるで昼下がりのカフェにでもいるかのように和やかな会話を続ける。
キラーウルフという名前は恐ろしく思えるものの、実際には獰猛な犬くらいのモンスターだ。シークやビアンカのように筋がいいバスターが負けるような相手ではない。
緊張でガチガチになるような素振りもないのは、決して意気込みが足りないのではなく、余裕がある証拠だろう。
「あ、これ……キラーウルフが近くに居る気がする、ガサガサ音がするよね」
「えっ? ごめん私全然聞こえないけど」
「1、2、3……6体いるね、草が生い茂っていない場所まで出た方がいい」
「もうおとり作戦はしないから!」
バルドルが耳を澄ましたかどうかは定かではないが、シークもキラーウルフの気配と息遣いを察知し、安全に戦える場所を探す。
周りで鳴いていた虫の声が聞こえなくなり、何かが近くにいるのは間違いない。
「この先にちょっと開けたところがある、そこまで走ろう!」
「分かった! 私がそこまで行ったら振り向いて薙ぎ払うから、魔法で倒して!」
「了解、狙いやすくて助かる!」
「僕の出番は!」
「ご心配なく」
ビアンカが追ってくるキラーウルフを振り返って止まり、急に止まれないキラーウルフがその場で足をバタつかせているうちにまとめて薙ぎ払う。
低い位置で足元を掬われたキラーウルフは、3体まとまって転んだ。そこへシークが魔法を放って一網打尽にする。
「ファイアボール! ……エアロ!!」
「シーク、ビアンカがもう一度槍で攻撃したら、胴体を上から振りかぶる斬撃で狙うんだ。剣術でいうブルクラッシュっていう技だよ、切れようが切れまいが、とにかく思いきり振り下ろす」
「分かった! ビアンカ! もう一度そいつらに技をお見舞いしてやれ!」
「おっけー! くらえ~!」
苦戦する相手ではなく、キラーウルフは間もなくすべて倒された。バルドルの的確な指示のおかげでもあるが、戦闘時間はずいぶんと短い。
「あっと言う間ね、他のモンスターを相手にしている時に来られると大変だけど、これくらいなら2人で対処出来るわ」
「そうだね。ところでさ、ゴブリンはもうその場に放置しちゃったけど、キラーウルフって、言うなれば狼だよね」
「そうね、動物って感じね」
「……キラーウルフの焼ける匂いって、なんか、これ食べれるんじゃない? って思えてこない?」
「えっ、いやだ、なにその発想」
ビアンカは、モンスターを食べるという発想をしたシークを、信じられないとでも言うかのような目で見る。
シークはお昼ごはんのパンをかじり出すも、そんなに突拍子もない事を言ったかなと首をかしげた。
そんな持ち主をフォローしようと思ったのか、バルドルはとても明るい声に努め、その場の空気を和ませようと試みた。
「シークはディーゴと同じ思考を持っているんだね。ディーゴも同じような事を言っては色々食べてみて、飢えを凌いだものさ」
「ねえ、バルドル」
「なんだい? シーク」
「勇者って、いったい何してたんだって話だよね」
「伝説になる部分と、ならない部分があるのさ。勇者だってトイレにも行くし親にも叱られる。事実は伝説ほど奇ではないのさ」
「いや、十分『奇』だと思うわ。モンスターを食べてみた、なんて……ああ、知りたくなかった勇者の一面だわ」
「さあモンスターを食べて、君も勇者になろう! とか言ったら流行るかな」
「シーク、絶対やめて」
* * * * * * * * *
午後にオークを退治し、2人と1本は時々スキップをしながら満面の笑みで街道を町へと戻っていた。
今日の報酬は5万ゴールド近くになる。昨日はそれぞれ数千ゴールドだったのだから、浮かれるのも無理はない。
「最後に倒した2体のオーク、あまり大した事なかったね」
「他のバスターの撃ち漏らしかもね。だとしたらラッキーだったわ」
とても疲れてはいたが、オーク相手でも装備の破損もなく戦いを終える事ができた。
しばらくして橋を渡り、取水所の近くを通ると、午前中に見かけた修理工の荷車が堰の横に置かれている事に気付く。
「ああ、まだ作業が終わってないみたいだね。昨日は人助けのつもりで協力を申し出たけれど、時間的な事を考えると……まあ結果オーライ、かな」
「そうね。でも、もうじき陽も落ちるのに……そろそろ帰り支度しないとまずいんじゃないかしら。ちょっと覗いていく?」
「うん、ちょっと気になる。でも遠くからね。ルンルンで帰ってるところを見つかって、後で何か言われても面倒だし」
「私は逆に何か言ってやりたいくらいだわ」
「ビアンカ、絶対にやめて」
受けなくて良かったと思いつつも、自分達が関わった人の心配は当然だ。シークとビアンカは一度通り過ぎた後、少し回り込んでから姿勢を低くして様子を伺った。
視線の先には荷車がある。が、付近に人の気配はない。
そろそろ暗くなり始めるという時間に、みんなで休憩を取っているような場合でもない。かといって荷車を置いたままで町へ帰るはずはないと、シークは首をかしげた。
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