【Breidablik】魔法使いは、喋る伝説の聖剣を拾って旅に出る……魔術書も買わずに。

桜良 壽ノ丞

【Prologue】

―Prologue―




 ―Prologue―



 大きな町に近い草原の中、1人の黒髪の青年が地面から飛び出した白い岩に腰を掛けている。


 雲が所々うっすらと浮かぶ青空の下、草が僅かに揺れる程度の爽やかな風を浴びながら、青年の目は遠くに見える山の頂を見ているようだ。


 聞こえて来るのは風の音、そしてかすかな鳥の声。それらが昼下がりの休息をいっそう長閑に感じさせてくれる。


 青年の肩から掛かったままの随分と年期の入った大きく茶色い鞄、そして黒く艶消しがなされた上等な軽鎧。旅の者だろうか。


 その脇には1本の黒い鞘に入った剣が置かれていた。


「ここにこうして来るのは何年ぶりかな」


 青年は独り言をつぶやく。辺りにその声を聞く者も、返事をする者も見当たらない。


「僕の記憶によると、7年と4か月ぶりだと思うよ」


 何処からともなく声がする。青年以外に誰もいないようだが、青年は声が聞こえるのが当たり前だとでもいうかのように、驚くことも、辺りを見回すこともなく穏やかな顔をしている。


「そんなに経ったっけ」


 青年はどこからともなく聞こえる声に応え、そしてまた問いかける。


「17歳で旅に出て、今君は何歳なのさ。いったん20歳のお祝いの時に戻ったきり、君は村に1度でも寄ったかい?」


 姿が見当たらないその声の主は、青年との会話を続ける。旧知の仲だとでもいうようにごく自然に昔を思い返すということは、きっとその7年と4か月を共に過ごしたのだろう。


「帰ってないな。じゃあ……早く戻るか」


「旅に? それとも村に? 出来る事なら旅に戻って貰いたいところだけれど」


「君は一時でも一緒に過ごした仲間と、再会したいなんて事は思わないのかい」


「まあ、そうだね。向こうが会いたがっているのなら、寄ってあげてもいいと思う」


「素直じゃないな、今更だけどね」


 青年はゆっくりと腰を上げ、脇に置いてあった剣を持って、ゴツゴツした岩から飛び降りる。


「行くよ、バルドル」


「僕を当然のように持ち歩いてくれて、どうもね、シーク」





【Breidablik】魔法使いは、喋る伝説の聖剣を拾って旅に出る……魔術書も買わずに。

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