第208話 鎮魂歌+円舞曲(4)
真っ直ぐな瞳で弘孝を見つめる光。その視線に弘孝は舌打ちをした。
「肉体を完全に癒すことも出来ない。悪魔を戦闘不能にも出来ない。魂の解放も出来ないお前に、何が守れる!」
弘孝の脳裏には可憐の姿。Eランクでの再開後、彼女と過ごせる時間は、弘孝にとってこれ以上にない幸せだった。しかし、それは、五年以内で終了してしまう事も、本人は理解していた。
弘孝の言葉を聞いた光は、オレンジ色の魔力を瞳に灯しながら彼を見る。そこには、Eランクに落ちる前に可憐とCランクで過ごしていた日々が見えた。
「そう言われたら、何も否定できないよ……」
弘孝の真実を見た光は、彼の言葉を否定する。そのまま、ジンを守るように構えていた剣を、弘孝へ攻撃を示す構えに変えた。
「だけどね、ぼくは全ての真実を見通せる愛の大天使ガブリエル以前に、ぼく、
光の構える剣を包み込むオレンジ色の魔力。それは、今まで以上に大きな輝きを放っていた。
光の言葉を聞いた弘孝は光を睨みつけ、バイオリンを構えた。そのまま殺意の込められた皇帝円舞曲を演奏し、光を攻撃する。
「戯言を!」
弘孝の攻撃を光は剣で受け止める。光の力以上の魔力によって、そのまま数歩後ろへと飛ばされた。
「弘孝くんがどう解釈しようと、君の勝手だよ。だけど、君だって仲間を守りたいって気持ちはあったじゃないか! それを忘れただなんて、言わせないよ!」
弘孝の魔力により、尻もちを着いた光だったが、直ぐに立ち上がり、再度剣先を弘孝に向ける。そのまま、六枚の白い翼を羽ばたかせ、弘孝に向かって剣を振り下ろした。
「仲間を守る以前に、想い人をひねくれた運命から守る事も出来ない僕に対しての嫌味か! お前は……ガブリエルだから、そのような偽善を言えるんだろ!」
光の剣をバイオリンで受け止めながら彼を睨みつける弘孝。そんな弘孝に対し、光は儚い笑みを浮かべながら首を横に振った。
「違うよ。ぼくが弘孝君に言っている事は全てぼく、光明光としての気持ちだよ。たとえぼくが、人間だろうが、悪魔だろうが、磯崎可憐という少女に恋している。それは紛れもない事実なんだ」
「それは僕に対する嫌味かと、さっきから言っているんだ! いくら僕が想いを寄せていても、僕がウリエルである以上、結ばれることは無い。そして、可憐がラファエルである以上、ガブリエルを求め続ける……そんな神の気まぐれに何故付き合わないといけない!」
光が何度も剣を振り下ろし、弘孝のバイオリンを攻撃する。それを弘孝は全て受け止めていた。何度も剣を受け止めているバイオリンだったが、弦が切れる事はおろか、バイオリン本体に傷が入る事も無かった。
「ったく。戦いセンモンの
光と弘孝の攻防戦の隙を見て、ジンが剣を振り下ろす。弘孝はそれを六枚の黒い翼を羽ばたかせ、攻撃を避ける。必然的に光との攻防戦が中断され、光は浅い呼吸を整えた。
「僕が二重契約をする事により、今回のウリエルは随分と粗悪になったな」
「は? ソアクとかどーかはオマエが決める事じゃねぇだろ!」
「混血である僕を越えられると思っているのか? 恐らく、一時的な感情の波で魔力が高まり、契約者となる素質があったと思うが、お前はそもそも——」
弘孝が言葉を全て述べる前に、光が攻撃をして弘孝の注意を向ける。弘孝を睨みつける光に対し、弘孝は視線を合わせる事も無く、ただ、攻撃を受け止めていた。
「今はそんな話をしている場合じゃないと思うよ。いくら、混血のモロクである弘孝君でも、大天使二人を一度に相手にするのは、難しいんじゃないかな」
光が剣にオレンジ色の魔力を纏わせる。弘孝のバイオリンに光が魔力を流し込んだが、弘孝の負の魔力がそれを上回り、一瞬にして相殺された。
「ガブリエルとして、ラファエルの器である可憐を想い続けているお前に、何が分かる!」
「違う! ぼくは光明光として可憐が——」
光の言葉を遮るように、弘孝がバイオリンを演奏し、魔力を放つ。予想外の弘孝の攻撃に、光は白い六枚の翼を使い、彼から距離をとる。しかし、弘孝の攻撃は光に狙いを定め、襲いかかった。
「だから言ってんだろ? オマエの相手はオレだって。この、戦いの大天使ウリエルが相手にしてやるよ!」
光の目と鼻の先に弘孝の魔力が向かう直前、ジンが間に入り、剣を使い魔力を弾き飛ばす。そのまま弘孝に向かって剣を振り下ろしたが、弘孝はそれを簡単に翼を羽ばたかせ避けていた。
「所詮、おこぼれで偶然手にした大天使の力で生きているお前など、生まれつき、人間として生きる事が許されない僕の気持ちは理解出来るはずがない」
弘孝がバイオリンの弓を弦に乗せる。そのまま演奏された皇帝円舞曲は、殺意と悪意の混ぜられた魔力と共に、ジンを襲った。
「オレはそんなんじゃねぇよ!」
弘孝の攻撃をジンが剣を使い、弾き返す。その時だった。弘孝の弾き飛ばされた魔力が、数十分前に作られた氷の壁を破壊した。
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