第1章 現実主義+大天使
第1話 出会い+現実
人は死を怖れる。死という現実を遠ざける為に神や悪魔、沢山の魔物を架空で存在させた。そう……架空で。
人はそれを架空だと思っていたが、実際にいたのだ。
名前は違っていたが、翼がはえた者。そう、天使だ。
しかし彼らは自分の事を"契約者"と言っていた。
契約者という名前の由来は人間には分からなかった。
翼がはえ、白いひらひらとした洋服を身に纏っている契約者を、人間は天使と名付けた。黒い服を着た契約者を悪魔と名付けた。
天使や悪魔は時々、人間の前に姿を現して善行や悪事を繰り返した。しかし、それは遥か昔の話。
今は二一九九年の冬のことだ。
平等を掲げられた国日本。
その一角にある一般的な学校。昼間の暖かな日光を浴びる教室。その中で等間隔に並べられた机。机に向き合い勉学に励む学生。その中に
腰まで伸びた黒く長い髪。不健康とまではいかないが、白く日焼けを知らないような肌。黒い瞳。ごく一般的な女子高生の彼女は〝Aランク〟クラスの授業を受けていた。
科学が世界を支配する世の中。磯崎可憐のようなAランク以下の人間はランクにあった公共住宅地に住んでいた。百年ほど昔の人間がこの光景を知れば、人間にランク付けをするのは間違いと言うだろう。
しかし、今の時代、これが当たり前なのだ。
生後すぐに教育指数を測られランク付けをされる。ランクはSから順にA、B、C、D、Eまでの六段階だ。Sランク以上と認められれば充実した医療や教育、生活などが無償で受けられた。逆にEランクまで下がれば給料のほとんどが税金に徴収されるのだ。また、このシステムは家族の最年少の人間を中心にしているので両親がAランクでも、生まれた子どもがDランクだったらその家族はDランクの扱いを受けるのだ。
もちろん、階級を上げる事も出来る。一年に二回ある国のテスト。それを受け、今いるランク以上の点数をとれば点数に見合った待遇を受けられる。逆にランク以下の点数をとった時も点数に見合ったランクに下がるのだ。
テストを受験するのは基本自由だが、七年に一度は強制的に国から命令が届き強制受験となる。もし、この強制受験を受けなかったら強制的にEランクとなり、スラム街に近い所での生活になるのだ。
どのランクの人間も平等な国に住んでいるので給料は同じだ。しかし、徴収する税金の差により貧富の差が生じた。
そんな時代に可憐は生まれた。もちろん教育指数も測定された。生後直後の教育指数はCランクと判定され、Cランクの待遇を受けた。中間層のCランクだが手取りは給料の半分しか残らない。
家賃や光熱費をそこから払うと娯楽の金は一銭も残らない状況なのだ。そんな状況を可憐は幼い頃から不満に思っていた。どんなに頑張っても手取りが変わらない。毎日大して変化のない食事。当時の可憐の脳内ではケーキやチョコレートは架空のお菓子と認識されていた。それくらい質素な生活だったのだ。
しかし、可憐の不断の努力によりテストでAランクの点数を取れた。それにより、今は家族全員でAランクの待遇を受けている。両親の手取りもCランクの時より倍近くになった。娯楽も増え、生活が充実した。
「この時代は義務教育というものがあり、七歳から十五歳まで学校に行き学力をつける」
今可憐が受けている授業は歴史だ。可憐はこの授業が興味深かった。たった百年で国のシステムががらりと変わった。その変化の過程が彼女にとっては興味と好奇心で満ちていたのだ。
「先生。質問いいですか?」
可憐が右手を上げる。先生と呼ばれた中年男性の教師は彼女の発言を許可するように首を縦にふった。
「教科書には年齢と共に学年を上げていったと書かれていますが、そうしたら学力の差はどう埋め合わせしていたのですか?」
「うむ。いい質問だ。この時代ではランク分けが無かった。したがって現代ではSランクの人間もEランクの人間もみな同じ空間で過ごし同じ授業を受けていた。それによりSランクなみの人間には物足りない、Eランクの人間には理解不能という効率の悪い授業だった。だから上のランクの人間は金を払い、学校とは別に学力を高める塾という所に行き、勉学を励んでいたらしい。勿論、金さえあればEランク並みの人間も塾に行き学校で理解が出来なかった所を丁寧に教えてくれる先生のもとで勉強した。しかし金が無い人間はそれが出来なかった。埋め合わせは富裕層のみが可能だった。これでいいか? 磯崎」
教師にの返事に可憐は頷き、ノートを取り出した。そのまま先生の言った言葉をノートに書き込んだ。
その時、授業終了のベルが学校中に響いた。
「よし! 今週の授業終わり!」
同じクラスの少年が立ち上がった。その瞬間に他のクラスメートも立ち上がり、授業終了の挨拶もせずに立ち去ろうとした。
「まて、今からお前らに紹介しなければならない人がいる」
先生の一言によりクラス全員が凍りついた。紹介する人がいる。これは転校生の知らせだ。この時代、転校生と言ったら国のテストを受け、ランクが上がった人間か下がった人間だ。Aランクのこのクラスに転校するといったらSランクから下がってきたかBランク以下から上がってきたかだ。
「転校生」
可憐がぽつりと呟いた。それによりクラス全員が我に返り、次々に自分の意見を呟き始めた。可憐の隣にいる少女も同じだった。
可憐以上に伸びた金色の髪。サファイアと例えて良いほど青く透き通った瞳を持つ彼女の名前は
「ねぇねぇ可憐、転校生って上の子かなっ? それとも——」
「両方」
無意識な発言だった。そのあと可憐ははっとなり首を大きく横に振った。
「あ、ごめんね! いやだ、私。何を言っているのかしら」
「さっきから可憐おかしいよ。あまり口数が多い方とは言わないけど、転校生の話題からの可憐は何だろう……。今日転校生が来るって知っていたみたいなっ。あたしの気のせいだといいけどっ」
優美が眉を眉間に寄せた。優美から視線をずらす可憐。
その時教室の扉の向こうから三人の男女が現れた。
「Sランクから来ました。
茶髪を最大限に活かした美形。大きめの瞳は光が可愛らしい二枚目という事を印象付けるのは充分すぎた。彼が見せる笑顔はこれ以上にないほど眩しく、儚かったことを可憐に感じさせた。
「同じくSランクから来た
光とは対照的な切れ目な彼は低めの声での簡単な自己紹介で印象を与えた。辺りを睨みつけるように見渡す猛は、典型的な二枚目を印象付ける。
「私はCランクから来た
変わった名字を持つ七海は、セミロングの桃色髪を内巻きに巻いていた。猫なで声とまではいかないが、高い声色は男性陣を虜にした。
「知らせは以上だ。あとは自由解散」
先生の終礼により家に帰る生徒、転校生に集まる生徒に分かれた。可憐と優美は帰宅の準備を始めた。
「可憐が言った通りになったねっ。しかもみんな美男美女。こういう時くらい学校に来ればいいのにね、
教科書を鞄に戻す優美。南風とは二人のクラスメートの男子だ。容姿端麗運動神経抜群な彼だが学校には最初の二ヶ月程しか登校しなかった。Sランクに上がる為に勉強をしていると噂が流れ始めたくらいだ。
可憐は光を見ていた。彼は女子に囲まれていて黄色い歓声を浴びていた。
「そうね。タイプは違うけど三人ともルックスのレベル高い」
ふと、可憐と光の目線が合った。笑顔を見せる光。可憐は目線を逸らした。
「あ、今可憐、光明君と目が合ったでしょ? いいなぁ」
「優美は一色君の方がタイプじゃない? ほら、なんか無愛想な感じが優美のタイプじゃないかしら」
可憐も教科書を鞄に入れた。そのまま立ち上がり教室を後にした。優美も可憐の後を追った。
「確かにタイプは、あたしは、一色君かなっ。でも光明君もいいなっ、明るそうだし」
長い廊下を歩く二人。教室は人口減少によりクラスは一クラスしかない。余った教室は自習室や、改造し簡単な仮眠室や一般人も利用できる食堂になったりしている。
「私はあまり好きじゃないな。一色君は分からないけど光明君は何だろう……。非科学的なものを感じるの」
自習室の横を通り過ぎる二人。静かな空間に可憐の声だけが響いた。
「それは生理的に無理って事なんじゃない?」
階段を下り、玄関へと向かう可憐と優美。
「そんな……。まだ話した事も無いのに、生理的に無理って酷いような気がするわ」
「だって話した事無いのに苦手って思っているんでしょっ?」
玄関を出て帰り道を歩く二人。同じ公共住宅なので可憐が引っ越してきてから二人はずっと一緒に登下校していた。
「そうだけど。生理的に無理って感じじゃなくてね、なんて説明しよう。今は会っちゃ駄目って感じ」
可憐の言葉に優美は吹き出してしまった。優美の美しい金髪が揺れる。
「なにそれ。可憐らしくないよっ」
けらけらと笑う優美に可憐は頬を膨らませた。
「酷いよ、優美。私は真剣に言っているんだよ。今までのどの感情とも違って——」
可憐がそこまで言うと、二人の目前にあった住宅ビルから何か人のような物体が落ちてきた。どすん、という重い音が聞こえるまで二人は動けなかった。
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