第191話 演者勇者とワンワン大進撃18

「!? テメエは……!」「お前は……」

 部屋に入り、お互いがお互いのシルエットに驚く。ドライブからしたらシンディとの食事中に絡んで来た二人組(ライトとレナは表向き知らないので知らないフリをする)、ゼルクとトームからしたらシンディと一緒にいた謎の男。

 そしてお互い何をしようとしているかも明らかだった。ライト達はシンディを助けに、ゼルクとトームは――

「おーおー、お金持ちのお坊ちゃんが隠し部屋でそういう事する、ふーん。ベタだなあ、ホントにベタで――潰し甲斐があるよ」

「っ!?」

 ――言わずもがな。そしてレナが怒りを隠さないのも。その威圧にゼルクが一瞬怯む。

「チッ、いい所で……おいトーム、どうする」

「そんなに焦らないでよ、興が削がれる。外にちゃんと兵隊を用意してるから直ぐに排除出来るよ」

「そっか、そうだよな、お前んとこの傭兵大勢いるよな」

「それに……ちょっと僕も、楽しみたくなった」

 トームの視線がレナに移り、レナをゆっくりと見る。それはまるで品定めをしている様で、

「お前達の兵隊だか何だかは、俺の仲間達が思いっきり蹴散らしてる最中だ」

 更なる苛立ちを覚えたライトがレナの前に立ち、そう強く言い放った。――自分の大事な仲間をそんな目で見られて気分がいい奴がいるわけがない。

「私は気にしないのに」

「俺が気に入らない」

「クールクール、負けないから大丈夫。……でもま、ありがと」

 ポンポン、とライトの肩を叩くと、レナは再びライトの隣に。

「兵隊を……蹴散らしてる最中だって……? そんな馬鹿な、どれだけ用意してあると思ってる」

「じゃあネタ晴らししよっか。私もドライブ君も、ハインハウルス軍所属の騎士」

「そして長――この人は、俺達が所属する騎士団の団長であり、勇者様だ」

「!?」

 そこで今まで冷静だったトームに流石に焦りの表情が走る。――勇者? 勇者だって……!?

「大人しくしろ。軍として人として、お前達を許すわけにはいかない。シンディさんを解放するんだ」

 そしてライトが最後の警告。これで観念するならそこで終わりだ。――レナは不完全燃焼とか言い出しそうだけど。

「お、おいトーム、どうするんだよ、俺達終わりなのか!?」

 動揺をまったく隠さないゼルク。……一方で、

「……終わりなわけないだろ。今までどれだけ握りつぶしたと思ってるのさ。今回だって、大丈夫だ」

 トームは直ぐに冷静さを取り戻す。――ああ大丈夫だ、誰が相手だろうと、僕には「力」がある。

「ゥゥゥゥ……ワン! ワオォォォーン!」

「っ!? 待てシルバー、何か嫌な予感がする!」

 そこでついに我慢出来なくなったか、シルバー達が突貫。ドライブの制止も聞かず、一気にシンディの方へ――バィン!

「キャン! クゥンクゥン!」

 飛び掛かった時、何もない所で四頭とも勢いよく弾き返された。予想外の展開に悲鳴を上げる。

「僕は石橋を叩いて渡る人間なんだ。邪魔が入らないようなギミックはいくらでもあるよ。この防壁、お金かけただけあるからね。そこで大人しく見ててよ」

 肉眼では確認出来ないが、魔法による障壁が用意されていた。来る物を問答無用で弾き返す。――シルバー達は明らかに攻撃態勢で突貫した。それを呆気なく弾き返すという事は、一定以上のレベルがしっかりと組み込まれているという証拠だった。

「おいトーム、今の内に逃げ――」

「さあ、続けてよゼルク」

 そして逃げる絶好の機会だと睨んだゼルクに対し、トームは冷静にそう言い放つ。

「!? おい、逃げないとやばいだろ!?」

「逃げるのは後でも出来る。この防壁があれば邪魔されない。――こいつらにも見せてやるんだよ。その方がもっと面白いだろ?」

「でも――」

「僕の言う事が……聞けないの?」

「っ!」

 冷たい目でトームがゼルクを見る。それはあの日、カフェで見たトームとは別人も別人。

「……クソッ!」

 その力関係は絶対なのか、ゼルクは意見する事を諦め――シンディに対する「行為」の続きを始めようとする。お互い、精神状態は異常だった。

「皆、大丈夫!? レナ、ドライブ!」

 一方でライトは弾き飛ばされた四頭を介抱しつつ、レナとドライブを呼ぶ。――二人に頼るしかない。何とかあの防壁を!

「俺がやろう」

 するとドライブが数歩前に行き、確かめるように上下を見る。――感じる物があるのか。

「石橋を叩いて渡る人間だと言ったな。――俺は、石橋を叩いて渡っている途中で石橋が天災で崩れる人間だ」

「は……?」

「――はあああああああ!」

 そして謎の自己紹介を終えると、ドライブは一気に力を込める。両手に紋章が浮かび上がり、光り輝く。そのまま両手を前に伸ばし、何かを掴むように手を握ると――ガシャァン!

「!?」

「な……障壁を壊した……!? 嘘だ、相当金をつぎ込んだのに……!」

 相変わらず肉眼では見えないが、ハッキリとガラスが割れる様な音が聞こえた。ドライブが、障壁を握り潰したのだろう。そのままドライブは呆気に取られているトームを後目に、ゼルクの方へ歩いて行く。

「っ! ま、待て、待ってくれ、俺は何も!」

「待つ? 一秒か、二秒か? 五秒待てばいいのか?」

「な、違う、そういう意味合いじゃ――」

 バキッ!――次の瞬間、その光った拳でゼルクを殴り飛ばした。

「まあ、待っても良かったが、結果は変わらなかったぞ」

 ゴロゴロ、ドシン!――吹き飛ばされたゼルクは勢いのまま転がり壁に思いっきり体を打ち付けて、痛みの衝撃で気絶した。

「大丈夫? 一線は越えて無さそうだね、良かった。――災難だったねえ」

「あ……ありがとうございます」

 直ぐにレナがシンディの元へ。ベッドから解放、服も元に戻してあげる。

「さて、お前は何か言いたい事があるか?」

 一方でドライブは今度はトームの方へ歩いて行く。勿論両手は光ったまま。

「ぼ……僕は、テイマーだ」

「そうか。俺は戦士だ」

 ずい、とまた一歩ドライブが近付く。トームが合わせて一歩後ろに下がる。

「ぼ、僕の家は代々テイマーだ、その辺の平民とは違う、選ばれし才能の血筋だ!」

「そうか、それは良かったな。俺など親の顔も知らん。この才能が血筋なのか努力なのか断言も出来ん」

 近付くドライブ。下がるトーム。

「それで? 今の話がお前達のシンディに対する行動と、どういう関係がある?」

「ぼ……僕の言う事を大人しく聞いていれば、何でも好きな様に出来る! シンディさんだって」

「出来てないぞ。邪魔が入っているぞ。もっとちゃんとした理由を言え」

 徐々に壁に追い詰められ、逃げ場所が無くなっていくトーム。

「……ドライブってあんな風に人を追い詰めていくタイプだったのか?」

「んー、というよりも、私達が想像してる以上に怒ってるんじゃないかな、あれ」

 ライトもレナと合流。そのドライブの様子をひとまず見守る形に。

「……くそっ、これはとっておきだったけど仕方ない!」

 ついに背中が壁についてしまったトームが、ポケットから何かを取り出し、地面に叩き付ける。瞬間、カッ、と地面が光り、魔法陣が浮かび上がると、

「フシュルルルル……」

 巨大な蛇のモンスターが召喚された。人間をも越える大きさ。ドライブを見下ろす形に。

「ははは、どうだ! 我が家で使役してるSランクのヴァイオレットスネークだ! 激レアだぞ、勿論危険度も! もう遅い、もう遅いからな! 僕に偉そうに説教した罰だ! さあやれ!」

 禍々しい色合いの蛇が、更に体を伸ばし、元々大きいその体を更に大きく見せ、ドライブを威嚇する。一方のドライブはその場を動かず、蛇を見上げ、視線をぶつけ合う形に。

「レナ、いざとなったらドライブの援護を」

「うん、まあ確かにそれなりにやりそうなモンスターだけど、でもさ」

「帰れ」

「!?」

 レナの説明の途中で、ドライブのその一言。舌を出し更なる威嚇に入っていた蛇がその一言に――固まる。

「悪いが俺はお前に用は無い。お前と争う理由も無い。だから帰れ」

「……!」

 ドライブにそう言われると、蛇は出現した魔法陣の上に戻り、蜷局を巻いて――カッ!

「な……っ!? おい、待て、主人の命令だぞ、おいっ!」

 再び一瞬のフラッシュを発すると、姿を消した。――本当に帰ってしまった。野生の本能が、今のドライブと戦ってはいけない。そう告げていたのだ。

「今のドライブ君を前に、まともにやり合おうと思う奴は中々いないと思うよ。野性味溢れるなら尚更」

 そこでレナの説明の続き。――ドライブは、ライトが思っている以上に、そして説明をするレナが考えている以上に、怒っていた。

「お前は間違えている」

 でもそれは、シンディに対する行為にだけではなく、

「何故お前がシンディを見下せる? 血筋だか何だか知らないが、お前なんかより余程シンディの方がテイマーとして優秀だ。お前は使役するモンスターと心を通わせた事はあるのか?」

「な……何を言ってるのさ、テイマーはモンスターを従わせて扱う者、技術や魔力は必要だけど、心を通わせるとか」

「お前は共に戦う仲間と信じあえないで戦場に立てるとでも思ってるのか? シンディはシルバー達と心を通わせ、信じあっている。養成所? の授業では重要視されていないのかもしれんが、俺から言わせれば多人数で戦うのにそれ以上に重要な事など無い。現にシルバー達がこの状況を察して俺達に知らせてくれたから今がある」

「そ……それは」

「逆に尋ねるが、お前からテイマーの才能を失くしたら何が残る? 金か? じゃあ今回の騒動でその権利すら失くしてみろ。――お前は、何もない人間だ。今まで周囲を、シンディを見下していた分、思う存分俺がお前を見下してやる」

「ドライブ……お前……」

 人として、真っ直ぐにシンディを見ていない事も含まれていた。全ての怒りが、ドライブの持つ力を増幅させ、更に紋章を光らせる。

「……僕は……僕は……僕は、間違えてなんていない!」

 それでも、トームは認めない。――認められない。今認めても、もう何もない、引き返せない。その想いに駆られ、最後の手段に出る。

 サッ、と取り出したのは紫色の宝石。妖艶に光るその宝石をトームは握り締め――

「!? ドライブ君嫌な予感する、あれぶっ壊して! そいつがもうどうなってもいいから!」

「!」

 いち早く察したが距離があったレナが叫ぶ。反応する様にドライブが手を伸ばすが――パァァン!

「っ……!」

 一歩間に合わず、激しい光に弾き返される。何かを察し、ドライブもそのままライト達の所まで後退。

「そこまで言うなら見せてあげるよ! 僕の才能! 僕の金の力を!」

 直後、部屋全体に振動が走り、まるで地震でも起きたか、と思っていると、部屋に大きな魔法陣が生まれ、

「ガォォォォォ!」

 そこから――巨大な竜が召喚されたのだった。

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