第188話 演者勇者とワンワン大進撃15
「姉御!」
ライト、ハルが一番最初に呼んだレナ(寝ていたので起こされた)、偶然騒ぎを察して近くに来ていたドライブ、マクラーレン、バラの五人でひとまずフラワーガーデンに移動。ハルにエカテリスをリーダーに残り全員招集後適切な行動をお願いし、こちらは先行して動いていた。
そしてフラワーガーデンの入口にはサクラが立っており、バラの呼びかけにハッとする。
「バラ! それに皆さんは」
「城に行ってヨゼルド様にお願いしに行ったんです、助けてくれって。そしたら引き受けてくれて」
「そんな無茶をしに行ったんですか!? 貴女が犯罪者になったら元も子もないでしょう!? お願いだからそんな心配させる様な事はしないで下さい……!」
サクラはバラのしたことの大きさを直ぐに察し、ガシッ、とバラの両肩を掴み強く注意。本気で心配しているのが伺えた。
「姉御……すみません、でもあたしどうしても……!」
「サクラさん、大丈夫です。俺達も心配でこうして来ています。国王様も心配で、俺達の行動を許可してくれました」
ライトは急いで間に入る。この事が原因で亀裂など走って欲しくない。
「ライトさん……皆さん、本当にありがとうございます……まさかこんな形になってしまうなんて」
サクラもライトの説明に冷静さを取り戻し、直ぐにお礼を言う。――ただ、心配で焦っている様子は隠し切れない。
「姉御、店は」
「私もスタッフも仕事になりそうにないので、お客様に謝罪して今日はもう閉めました。皆心配で中で待っています」
「サクラさん、後は俺達が動きます、皆さんは――」
「その前に少しいいか? 確認したい事がある」
マクラーレンがライトの言葉を遮りつつ質問をする。
「サクラ、と言ったか、今の言葉からするに、何か察する物があったのか?」
そのマクラーレンの質問にライトもサクラの言葉を振り返る。――「まさかこんな形になってしまうなんて」。確かにこの言葉は。
「最近、何者かがこの周囲を探る様な動きを見せていたんです。決して警戒を怠っていたわけではないのですが、うちのお店を直接、ましてやアジサイを直接探っている様子までは感じ取れなかったので動けずにいたんです」
「成程な。そういう事だったか。――サクラが気にする事ではない。何も終わっていないのだからな」
悔しそうな表情を見せるサクラ。多少警戒をしていただけに、余計に悔しいのだろう。そんなサクラをマクラーレンは励ます。
「んー、とりあえず最大にして唯一のヒントがそれってわけか。この辺りをしらみつぶしに証拠探しするしかないかなー。姫様達が来てくれたらリバールとかニロフとかの探索が光ると思う。私達で先行調査する感じで。念の為に私と勇者君、ドライブ君とマックさんのペアにして」
「了解した。――マクラーレン、宜しく頼む」
「ああ。そっちも気をつけろよ」
「了解。――勇者君、勇者グッツで何か使えそうなのある?」
「そうだな……」
レナの提案から直ぐに行動が決まり、一分一秒も無駄に出来ない想いから直ぐにそのまま動こうとする四人。
「待って下さい。私も行きます」
その四人に加勢の申請をするのはサクラだった。力強い目でライト達を見る。
「サクラさん、お気持ちはわかりますが危険です、ここは俺達に任せて、皆さんと一緒にお店で待っていて下さい」
「大丈夫です、多少なら腕に覚えがあります」
勿論気持ちだけでは戦えない。それはライトが痛い程日々よくわかっている事。――レナに至っては俺を守るだけで精一杯になったら困る。サクラさんには悪いがこれ以上皆の負担を増やすわけにはいかない……
「お届け物です」
何とかサクラの説得を素早く……と思ってると、突然割り込んでくるそんな落ち着いた声。でもそれはこの場に似合わなくても聞き覚えのある声で。
「フロウ!? どうしたんだこんな所に!?」
声の主はアルファスの弟子、ライトの妹弟子、フロウだった。
「あ、今日は兄者に会いに来たんじゃないんだ。店長のお客に完成品を渡しに来た」
「え? アルファスさんのお客……?」
マクラーレンさんかな、とライトが思っていると、
「ご希望の品、こちらです」
フロウはそのままサクラの前に行き、一本の長剣を手渡す。――って、
「サクラさん、アルファスさんのオーダーメイドのお客だったんですか!?」
「ええ、お願いしたら作って頂ける事になりまして。――皆さんあのお店を?」
「アルファスさん――あのお店の店主の方は、軍の中でも限られた認められた人にしか武器を作らない人なんです……超一流の腕の持ち主で」
「成程。やはり、相当の方だったんですね。お願いして良かった」
そう言って満足気にサクラはフロウから長剣を受け取る。
「長、彼女は戦力として数えていいだろう。あの人が認めたのなら」
「ああ……皆に引けを取らないのかもしれない」
大小あれど、レナもマクラーレンも驚きを隠せない。――アルファスが認めるレベルの人なら、多少の腕の覚え所ではないだろう。そんな人が何で夜のお店で接客嬢を?
「――とりあえず、わかりました。サクラさんも一緒に行きましょう」
「はい。宜しくお願いします」
だが今はその疑問を追求している場合ではない。素直に戦力アップを喜び、いざ行動へ――
「ちなみにアフターケアの為に、最初の一振りの感想を聞いて来いと言われている」
――移そうとした所で、もう一つの嬉しい誤算がやって来る。フロウがそう言って帰る様子がない。
「フロウ……手伝って、くれるのか?」
「水臭いな兄者。そんな緊迫した兄者達の顔を見せられて、私に大人しく帰れと? いつでも遠慮なく頼ってくれと言ってるじゃないか」
「ありがとう。本当に助かる」
ライトがお礼を言うと、フロウは笑顔で頷く。戦力は多ければ多い程いい、そしてフロウは一級品、予想外の戦力増加である。――フロウはそのまま初対面のマクラーレンにもアルファス印の太刀を見せ、自分の身分と実力を証明。
「これなら二手じゃなく三手に別れられそうだよな?」
「だね。――フロウ、サクラさんと一緒に行動して、事情は彼女に移動中に聞いて」
「わかった」
「フロウさん、宜しくお願いします」
そして今度こそ行動開始、とした時、
「ワオォォォーン!」
力強い犬の鳴き声。直後、三頭の犬がライト達の前に何処からともなく降り立つ。――普通の犬が飛べるジャンプではない。つまり、
「シルバー! レイとシャンも!」
「ドライブ、俺は名前知らないけど俺も見覚えがある。つまりこの子達は」
「最初からいたチルリーも含めシンディが世話をしていた犬魔獣達だ。四匹とも揃った」
こんな夜更けに使役魔獣が四頭揃って勝手に出歩くわけがない。シンディがきちんと世話をしていたのなら尚更。――つまり、彼らは全員ハプニングを察知しており、それを解決する為に独自に動いているのだ。……逆に受け取れば、シンディが危機に瀕しているという更なる証拠でもあった。
「ワウッ! ウォンウォン!」
シルバーが更にライト達に向かって鳴く。まるで「急いでくれ、時間がない」とでも言っている様に聞こえた。――でもそれは逆に受け取れば、
「もしかして、場所がわかるのか?」
「ワン!」
ライトの問いかけに、シルバーが返事。
「長、人間では感じ取れない匂いを嗅覚で追える可能性がある。彼らが優秀なら尚更だ。――信じていいと思う」
「わかった。――君達、案内をお願い出来るかな」
「ワン!」
再びの返事と共に、シルバー達が動き出す。――こうして、六人と四頭が、夜の街を駆け始めるのであった。
「ゼルク! トーム! 一体何の真似なの……!? 何のつもり……!?」
知らない部屋のベッドに縛られた状態で目が覚めたシンディ。勿論異常事態である。一方のゼルクとトームはあくまでいつも通りの雰囲気でシンディを見ていた。
「こいつがよお、どうしてもお前に話があるって言うからよ」
「ご、ごめんね、シンディさん」
トームは申し訳なさそうにそうシンディに謝る。――って、
「話がしたいなら、養成所で普通に話しかけてきたらいいじゃない! 何なのこれ……とにかく、ほどいて!」
「あ? こうでもしないとまたお前邪険に扱うだろうが。だったらいっその事こうしようぜって」
「ぼ、僕はその、ここまでしなくてもって思ったけど、でもゼルクが、その」
ニヤニヤしながらシンディを見るゼルクと、そのゼルクを横に余計に申し訳なさそうになるトーム。二人の力関係を表すような光景であった。
「だったら――ここまでしてしたい話って、何よ」
「ほれ」
シンディが解決の糸口を探る為に話を促すと、ゼルクはトームの背中を押して彼の話を促す。トームの方に本当に話がある様子。
「あ、あのね、シンディさん。その……夜のお店でのバイトは、やっぱり辞めた方がいいんじゃないかな」
「!? どうしてそれを」
当然養成所の関係者には喋っていない。知っているのはそれこそフラワーガーデンの関係者と、最近知ったライト騎士団の仲間達位である。
「やっぱり、ああいうお店って下心がある客が多いからトラブルになったりすると思うし、夜の仕事は寝不足になったりするから健康にも良くないし、真摯なお客でも結構年を取ってる人も多いでしょ、そういう人とはシンディさん似合わないと思うし」
だがそのシンディの疑問に答える事はなく、トームは堰を切ったかの如く話し出す。
「サイレン一家に調べさせたんだけど彼らが言うには店の雰囲気も良くなかったって言うし、何か国が絡んでるんでしょ? そういうのっていずれマークされてる証拠だから最悪変なレッテルが張られていつまでも記録に残っちゃうし」
「ちょっ……あの日のサイレン一家って、トームが……!?」
衝撃の事実だった。レベルの高いフラワーガーデンでは珍しい店内トラブル。それこそヨゼルドとライト達のおかげで無事に解決したが、そもそもの原因が自分の知っている人間にあったとは。
「そもそもシンディさん、もっとお洒落な暮らしをした方が似合うよ」
だがその疑問にもトームは答えず、自分の話を続ける。
「あんな安っぽい部屋に住んでたら人としても安く見られちゃうし、自炊、自分で料理するのは女の子としていいなあって思うけど使うお店ももっといい感じのお店を使って欲しいし」
一方的に続けられるその話の内容は一見素朴な様で、
「お風呂も街の共同浴場に通ってるでしょ? 同性限定とは言え他の人にシンディさんの裸を見られるのはいい気分しないし、だったらせめてもっとお洒落な下着をして欲しいし」
突き詰めてしまえば――恐怖の内容。
「そうだ、もっと素敵な部屋を紹介してあげるよ、その辺りのコネはあるから。お金の心配もいらないよ、僕が援助してあげてもいい。うんそうだ、僕の援助があればあのアルバイトも辞めて大丈夫だね。夜の時間、もっと友好的に使おう」
「待って……ちょっと待ってよ! 待って!」
強めに声を出した。やっとトームの話が一旦止まる。
「何なの……!? どうしてそんな所まで知ってるの!? 私の私生活まで!」
「それは……その、シンディさんが……心配だったんだ、ずっと」
「心配って――」
「トーム、ちゃんとハッキリ言えよ。いつも言ってるだろうが、遠回しじゃ伝わらねえって」
呆れ顔のゼルクが、ポン、とトームの肩に手を置き促す。トームは一度深呼吸をすると、
「そ、その……僕、シンディさんが好きなんだ……!」
勇気を振り絞るようにそう告げた。
「ぼ、僕はシンディさんを幸せにしてあげられる! シンディさんを世界一の彼女にしてあげられる! だから、僕の物になって下さい!」
でもとても告白をするようなシチュエーションではない。そもそも……僕の「物」という表現も何処かズレている。
「ふざけないで……」
当然、シンディの中に生まれるのは喜びとは正反対の感情。
「ふざけないで、何が幸せにしてあげられる、よ! 私の事をこっそり踏み込んで調べて、私の事を勝手に決めつけて、挙句の果てに告白する為にここまでして! 貴方はただの変態、ストーカーよ! 最っ低の人間!」
その感情を真正面からぶつけた。憤りを、我慢出来なかった。理不尽を、無視出来なかった。
「……ああ」
だが、その言葉を投げつけた次の瞬間、
「やっぱり君も……そういう、人なんだ」
トームの表情が、見た事も無い冷徹な物に変わるのだった。
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