第101話 演者勇者と学園七不思議9

「それじゃ皆、警戒しつつ先へ行こう」

 ライトの一声で、ライト騎士団のデモンストレーション、行軍が開始される。

「実際、どんな感じなんだろ……皆がいてくれるから流石にボクもそこまでは緊張しないんだけど」

「確かに……」

 ただひたすら敵を倒すだけならここまでの土地はいらないだろう。

「あれだよー、ルートによっては高額な絵を買わされたり、家が火事で燃えたりして大損するんだよ」

「何処のボードゲームだよ!? それこそこの森関係ねえ!?」

「ということはルートによっては子供も出来ますなあ。む、子供が出来るということは子供を作らねばならぬということで」

「コラー! ニロフ駄目だそれ以上は! ここ学校学園健全なる場所!」

 余裕が過ぎるレナとニロフ。実際にそこまで問題のない場所なのだろう。

「恐らく、戦闘以外に斥候の能力も見られるのでしょう。即席チームの判断力、各々の対応、そういうのはただ訓練場で剣を振っていても測り切れない箇所がありますわ」

「王女様の仰る通りです。個人の能力だけなら訓練所で測れますが、実際の世の中はそれだけではどうにもなりません。学校で教わりませんでした、では済まないシーンもいくつもあるでしょう。そういった物の為に、こうして実地試験を行っております」

 エカテリスの推測に、コウセが回答。他の学校が何処までやっているのかはライトにはわからないが、ここまで本格的なのはそう多くはないだろうというのは予測出来た。流石歴史伝統あるレベルの高い学校だけある。

「斥候ですか……ううむ」

「ニロフどうした?」

「いや、やろうと思えばこの森全てを今魔法で調べてまったくモンスターに遭遇しないでゴールする事も出来るので、どういったルートを勧めるべきか、と」

 ニロフはレベルが高過ぎて悩んでいた。――この森全部が一瞬で調査可能なのか。

「じゃあさー、基本歩きやすい道にしようよ。それが一番楽だし、モンスターいても戦い易いじゃん」

 そのレナの提案に反対するメンバーはおらず、そのまま平坦な道を進み続ける事に。――すると数分後。

「前、四体っ!」

「フシャアアアア!」

 サラフォンの発見報告直後、前方から成人男性と同じ身長でごつい体格の猿型のモンスターが縦横無尽に飛び跳ねながら襲って来た。

「ほいっと」

「ふっ!」

「ふむ」

「当てる!」

 ――のだが、ライト以外の四人が綺麗に一体ずつ担当、寸分外さず一撃で撃破する。

「おお……!」

 その光景にコウセは驚きを隠せない。

「いや、凄いですね、想像以上です。王女様の様子は先日耳にしましたが、護衛の方の剣捌きも芸術を見るようですし、同じ魔導士として魔導士の方の魔法もレベルが数段違うのもわかりますし、魔具工具師の方がここまで戦えるとは……これが勇者様の騎士団……」

「自慢の仲間達ですよ」

 仲間が素直に褒められて、悪い気がしないライトである。

「……あれ? モンスターの死骸、消えたよ?」

 と、レナの指摘、疑問が。確かに先程四人が倒した猿型モンスターの死骸がない。人間サイズなので見失うわけもないのだが。

「ああ、ご安心下さい、ここで出現するモンスターは装置による召喚型なので、半分は擬似戦闘となっています。なので実際のモンスターを狩っているとは少々違う結果になりますね。逆に召喚されたモンスターから受けたダメージも実際に喰らうわけではなく、あくまで喰らう感覚を感じるだけとなっています。万が一、生徒の事故死を防ぐ為です」

 その疑問に答えたのはコウセ。成程あくまで学生の訓練、万が一があってはいけない。

「なので、遠慮せずに戦って頂ければ、と。まあ先程の戦いを見る限り心配はないでしょうけれど。――いやはや、こうなってくると勇者様はどれだけお強いのか。間近で見れる事を自慢させて貰う事にしますよ」

 さて、残る問題としては、当然ながらライトへの期待が更に高まってしまう、ということである。勿論、無対策ではない。こうなる事は想定済みではあった。そこで――



「そうだねー、案としては意地でも戦わない、意地でも本当に強くなって貰う、実際に戦って貰ってもばれない状況を私達が作り上げる、引率の先生を始末するの四つじゃないかな」

「レナ率先して意見を言ってくれるのはいいけど最後はとりあえず却下で」

 実地試験のデモンストレーション参加が決まった日、ハインハウルス城ライト騎士団団室にて、いかにしてライトを本物の勇者として違和感なく通すか、の会議が行われていた。

「統率系統の特殊能力を勇者が持っている、というのはどうでしょう? 自分が剣を振るわない代わりに一定範囲内の味方の能力を上げる力を持っている、とか。ライト様に実戦は万が一を思うと」

 ハルの意見は意地でも戦わない、だった。ライトの身も案じている様子。

「私もハルの意見にほぼ同意ですわね。だけど、可能性として怖いのは引率の先生が想像以上にレベルが高くて、その状況を怪しんでくる可能性ですわ。予備案を練るべきではないかしら」

「姫様のご心配は最もですが、それこそそれを疑われたら誤魔化しようがないかと。レナさんの始末するは言い過ぎですが、私が参加して引率の教師のある程度の処置を施す事も視野に入れるべきでは。――バレない自信はあります」

 リバールの案は案で現実的でもあった。最悪リバールに頼るべきか、と思っていると、

「あ……あの、こんなの作ってあるんですけど、どうでしょう」

 と、サラフォンがゴトゴト、と何個も腕輪をテーブルの上に置く。

「王女様、この腕輪に一つ、思いっきり風の魔力を込めて貰えませんか?」

「こうかしら? ふっ!」

 ブオッ、と一瞬風が吹く音がして、腕輪が光った。

「ありがとうございます。――ライトくん、この腕輪をつけて、このボタンを押してみて」

「えーっと、こう?」

 言われるがままに腕輪をつけて、指摘されたボタンを押す。すると――ブオオオォォ! と、ライトの腕が一気に風の魔力で包まれた。かなりの勢いなので、ライトの体が風に押されてよろめ――かない。……あれ?

「何だ、これ……? 俺自身は何も感じないんだけど」

 実際エカテリスが魔力を込めているので本物の風の魔法であるのは確かなのだが、見た目だけで何の影響もない。その様子に、残りのメンバーがああ成程、といった感じになる。

「流石ですなサラフォン殿は。あえて放出だけをする腕輪、ですか」

「はい。――えっとねライトくん、これ、込められた魔力を表に具現化しているだけで、実際に魔法としては発動してないんだ。王女様の風魔法は高度だから凄く見えるけど、実際は魔力が漏れてるだけ。その漏れ具合を調節して、凄い威力で魔力を放出。つまり、腕輪をつけているライトくんが凄い魔力を込めている様に見えると思う」

「だから俺自身は何も感じないのか……」

 実際にライトに魔力が流れているわけでも、魔法として何か影響を受けるわけでもない。でも実際の魔力がライトの腕から放出されている。――じっくり研究されたらバレるかもしれないが、それでも相手が勇者である、という先入観を持って見ればまずバレないだろう。それ程の精度を持っていた。

「後は、腕輪は何個かあるから皆さんが得意な属性を入れてくれたら、まるでライトくんが何種類も属性を操るように見えるかな、って」

「成程ねー。んじゃ、私は火の魔力でも注入しますか」

「私の聖魔法も可能でしょうか?」

 わいわい、とそれぞれが腕輪と持って試していく。

「さて、ここから先は我の仕事ですな」

「あ、そっか、ニロフなら不得意属性とか無さそうだしな」

 メンバーが扱えない属性も何でも扱えそうなイメージだった。

「ああいえ、我が一番得意な属性なのは性的ホルモンでして、放出する事で異性へのアピールがもう凄い事に」

「やめろ今すぐ腕輪を離してくれ」

 実地試験で何が楽しくて性的アピールをしなくてはいけないのか。それこそいつぞやのチャラい勇者になってしまう。

「……と、いうのはまあ冗談でして、ライト殿、この案に一番大事なのは何だかわかりますかな?」

「? 俺が腕輪をつけて、凄い魔力を放出してる様に見せて……あ」

 ライトもそこでやっと気付く。

「そうです。見せて終わりでは駄目でしょう、一撃でもいい、ハッキリと攻撃をしかけて貰わないと」

「でも腕輪を付けても、結局俺自身が強くなるわけじゃない」

「はい。なので、皆さんの演技、サポートありきで、我が本当にライト殿が強くなった様に見せる為の一手を用意するのです。勿論、ある程度ライト殿にも頑張って貰うことにはなりますが」

「俺に出来る事なら何でも言ってくれ。……でも、俺に何が出来る?」

 正直な疑問を情けないがぶつけるしかなかった。

「そう悲観なさらずに。そうですな……ちょっとアルファス殿の所まで足を運びましょうか」



「お、勇者君、「出番」だぞー」

「!」

 猿型モンスターを撃破して少し歩いたその先で、レナがその一言。

「ガルロォォォ……」

 先程の猿型モンスター二体を引き連れて、更に大型の猿型モンスターが一体、姿を見せた。猿型モンスターのボス、大猿型、と言えば良いか。存在感も圧倒的であった。

「よし。エカテリスとサラフォンは小型を、レナとニロフは俺のサポートを頼む。大型は俺がいく」

 第三者に見せるのにインパクトを与えるには、やはりボスクラスの相手に対して活躍する事だろう。そう打ち合わせしておいた。ライトは指示を出し、

「……ふっ!」

 気合を入れる――と見せかけて、左右の腕につけた腕輪のボタンを押す。右腕が炎の魔力に、左腕が雷の魔力に包まれた。

「っ! これは……!」

 コウセが驚きを隠せない。客観的に見れば、異なった属性を同時に激しく腕に纏う。常人が出来る技ではない。――更にそのままライトは剣を持って身構える。

(へえ……流石アルファスさん、様になってるじゃん)

 流石に口には出せないが、レナを始め、仲間達はライトを見てそう思う。――サラフォンの腕輪案採用後、ライトはニロフと一緒にアルファスの所へ。事情を説明し、この状態で、いかに「それっぽい」構えはどんな物か、というのを相談しに行ったのだ。結果として生まれた構えが今のライトの構え。実戦で使えるかどうかは兎も角、事情を知る仲間達でさえも本当にライトが実力を持っているかの様に見える程だった。

 ライトの指示通り、エカテリスとサラフォンが小型の撃破に向かう。

「うおおおお!」

 直後、ライトは大型に向かって突貫。ある程度の所で、「それっぽく」剣を振るう。勿論大型までは距離が全然あるので普通なら当たるわけがないのだが、

「ギャアアアア!」

 ズバァァン!――大猿に見事に決まる、炎と雷の十字斬撃。大型は倒れ、散った。

「これが……勇者様の力……」

 その光景に、見事にコウセは「騙される」。――実際に攻撃を放ったのはレナとニロフである。だが最初のライトの両腕の魔力放出、構え、その全てがインパクトに、視線誘導に繋がり、ライトの攻撃と信じて疑わない状況に。

 勿論何度も何度も連発すれば、いつかはバレる可能性はある。それでも、逆に言えば使い所を間違えなければ、高確率で知らない相手を騙せる、見事な作戦であった。

「ナイスだよ勇者君、流石」

「うん、皆もありがとう」

 それぞれの褒め言葉、感謝の言葉には仲間内にしかわからない意味合いが込められていても、当然コウセは気付かない。

「ライト、これからも「ピンポイント」でお願いしますわね」

「指示、お願いね、ライトくん」

「任された、皆もこのまま頼むな」

 こうして、見事に作戦に成功したライト騎士団は、実地試験デモンストレーションを進んで行くのであった。――この実施試験に、もう一つの陰謀が潜んでいるとは知らずに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る