HANTOUMEI

長田

第1話

誰にも愛されていない人間なんていないも同然だ。ただそこに在るだけ。

俺はよく、自分がそこに居るかわからなくなる。


************


俺の地元"M"は、俺が生まれるほんの数年前までは本当に何もない街だったそうだ。

俺が知っているMはタワーマンションが建ち並び、それなりに綺麗でそれなりに街にも活気のあるベッドタウンとしての姿のみだが、『かつて何もない所だった』というのは実感としてつかめる。

俺にとってはかつてではなく、ずっと本当になにもない所であり続ける。あの頃も。今も。そしてこれからも。


************


父はとある田舎町から漠然と夢を追って上京し、母もまたやはりとある田舎町からやはり漠然と夢を追って上京してきたという。ふたりの馴れ初めは聞いたことがある気がするが忘れた。まぁとにかく二人は同棲を始めるに当たって東京から出て"M"(仮)へと移った。子供を作るとか、お金を貯めるとか、治安だとか、おそらくそういう事情なんだろう。と思っている。

父は夢を叶えられる範囲で叶えることができた。就きたい仕事に就いたのだ。しかし父より夢が漠然的だった母のキャリアは俺を産むことで終わりを迎えてしまった。『しまった』という書き方が正しいのかはわからないが、そう書くことにする。

一応にも夢を叶えた父は仕事に没頭して、たまに俺と、数年後に生まれた弟をかわいがったりする日々を送った。特に弟をかわいがっていた。

下北沢に構えるオフィスには荷物を届けたりなんなりで何度か行った事がある。資料や本や趣味の物が並ぶ、少人数の小さな会社。俺は『カッコいい』と思っていた気がする。

一方で夢を叶えられなかった母は自分の漠然とした夢を子供に、特に長男だった俺に託そうとして、そうやって育ててきた。俺はなにをされているのかずっとわからずそれが『愛』だと思っていた。

だから、それが『愛』ではないと気づいた時、思わず嘔吐してしまった。

母からすればそれが愛だったのかもしれない。だが俺からすればそれは愛ではない。押しつけにすぎない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

HANTOUMEI 長田 @runningcuterr

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る