布団の中で読む怖い話
飛鋪ヤク
いち 「布団の中」
小さいころは怖い話を聞いた後は必ず母親の布団の中で眠っていた。
私は怖がりのくせに怖い話が好きで、そう言うことはちょくちょくあった。
少し大きくなり、もう母親の布団にもぐりこめないくらいの年になると、一人怯えたまま頭まで布団を被って、何も来ないように祈りながら必死に目を閉じて眠れるのを待っていた。
そんなことを繰り返していたらいつの間にか、布団の中は安全=怖い話は布団の中で読む、と言う決め事が自分の中で出来上がってしまっていたようで、もう昔のように怯えることもなくなった今でも、怖い話を読むときは布団の中でないと落ち着かないようになってしまった。
よくよく考えればおかしいと思うのだが、子供のころの私は布団の中は完全なる安全地帯だと信じていた。ここにもぐっていれば誰も手出しができない無敵の結界なのだと。だから、ここで怖い話を読んでオバケがやって来たとしても自分に手出しは出来ないのだと。
幼いころに見た、布団の中にもオバケがいた映画のことは知らないふりをしていた。
そしてやはり布団の中でスマホから怪談を読んでから眠ったとある日のことだ。
ふと真夜中に目を覚ました。
夜中目を覚ますときは基本的に尿意のせいなので、トイレに行かないとな、と思ったのだが、情けないことに寝る前に読んだ怪談が頭を過って布団から出るのが何となく怖い。
バカバカしいし、出ないと漏れるな、なんて思っていると、
何かの気配がした。
現在一人暮らしをしているこの状況でそんなものはあるはずがない。ペットも飼っていないし、今日は友人を泊めているわけでもない。
じゃあこれは何だ。
ひそひそと囁くような声と、布団の周りをぐるぐる回るような空気の動きを感じる。
しかしそれだけだ。
それ以外は何もない。
私の尿意を除いては何の問題もない。
やっぱり布団の中は安全なんだな、と、尿意を無視して私はまるで子供のようなことを思い、満ち足りた気分で納得した。
そしてその次の日(結局トイレにはいかなかったが漏らしはしなかった)
また同じだった。
夜中に起きると、同じように何かが布団の周りにいるのだ。
やはり手出しはしてこない。ただひそひそと話しながら、ぐるぐると布団の周りを回るのだ。
やっぱり布団の中は偉大だな、と昨日と同じことを思って寝直そうと思ったら、そのひそひそ声の中身が聞き取れることに気づいてしまった。
小さい子のような、年寄りのような、何とも言えない声だったが、どうにも二人で会話をしているような具合だった。
「……く……べた……い」
「まだ……が……掴みで……直接……から食べる……行儀が……」
途切れ途切れで正しいところはわからなかったが、拾った単語で頭が勝手に文章を思いついてしまう。
これ、布団って言う皿の上に私は乗ってて、食べるタイミングを考えられてるだけなんじゃないかな。
布団は安全だよね?
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