第8話 実力
蒼雷はゆっくりと目を開け辺りを見渡し、体を起こした。慣れたベッドの感触。お小遣いで集めた魔法に関する本や、龍騎からくすねた犯罪者リスト等がある。それらに自然と目を向けていた。
ベッドから降り、難なく立ち上がることができたので、疲労は大方回復しているようだ。しかし、どうやって自室に運ばれたのか分からない。ホースのキングも自分で返せていない。そもそもスペルダーが出てきて自分が敗北し、どうやってあの場面を切り抜けたのかも想像ができない。夜炎が勝ったのか? と思ったがいくら何でもそれはないだろうと踏む。
蒼雷は自然と手を伸ばして取った犯罪者リスト。初版発行が1016年と記載されており、ちょうど一年前のものだ。ページを捲っていくがスペルダーの名前はない。殿堂入りでジェラの名前があるので、やはり読み上げてみると凄いものだ。魔法省を半壊させ、当時の大臣でありながら世界五大魔術師だったバルドス・グライアン・エルドーレの殺害。各国の主要都市の壊滅。あらゆる企業の乗っ取り。その他にも様々な悪行が書かれているが、一番目につくのはやはりこの文章。
《神の末裔、神瞳家を壊滅させた大反逆者》と書かれている。自分が育った家系がジェラ一人に滅ぼされた。神瞳家の血を引くのは自分のみ――。その想いからジェラと戦った時は怒り狂い、魔法で消し飛ばした。
蒼雷は改めて何故あの怪物を倒すことができたのか不思議に思う時がある。いくら能力を使ったとは、スペルダー戦の惨敗っぷりを考えるとまるで夢物語のようだ。
他にもページを捲っていく。あの場にいた
自分の両手を見て、無力さを感じる。果たして自分はどれくらいの実力があるのだろうか。スペルダーとの差は果たしてどれくらいあるのだろうか。数字で見てみたいと思ったのだった。自分の力に過信しすぎていたからだ。
そう思っていると扉が開き、玲が入ってきた。
「蒼雷起きていたんだね。体の具合は大丈夫?」
玲はそう言いながら蒼雷の方に歩み寄り、「座っていい?」と声をかけて、スカートを手で押さえながら蒼雷の隣に腰をかけた。
「まあな。どれくらい寝ていた?」
「三日間だよ。スペルダーとの戦闘での疲労と傷が酷かったからね。学校のみんなも心配していたよ」
「そうか――。あの後はどうなったんだ?」
蒼雷のその問いに一瞬戸惑いを見せた。
「あの後、パパが助けに来てくれてスペルダーを倒した」
「え――」
「でもその後は、NO.
「龍騎さんってそんな強かったっけ――」
「強いのは知っていたんだけど、蒼雷と同じ、神の能力の持ち主って私も知らなかったんだ」
「それなら合点がいくけど一体どうやって?」
「魔力を封印していた。けど、そのゲートっていう老人が解いてやるって言っていたけどね」
「成程。疾風の玉取られてしまったのか――先生には報告した?」
「うん。スペルダーが来てその被害で済んだのは運がよかった。玉はまた探せばいいって」
「そうか」
蒼雷はそう言うとベッドに寝転がり、疲れたと声を漏らす。天井を見つめながら――。
その様子を見て玲は怪訝な表情を浮かべる。
「どうかしたの?」
「能力の解放時のときの修行したほうがいいかなって――ジェラと戦った時に比べるとパワーがないだよな」
「パパも言っていたけど、破壊帝ってそんなに凄かったの?」
「凄いなんてものじゃないさ。あのロードゲート先生ですら手に負えないレベル。スペルダーのがまだ可愛いものだ」
その言葉に玲は顔を引きつる。あのレベルで可愛いって、一体どの次元のレベルの話をしているのだろうと。同時に自分がどれだけ足手まといかを痛感した。最低でも
「私でも
蒼雷は不意な質問にギョッと驚くが、すぐに答えた。
「なれるさ。修行次第でね」
「そうか有難う! でも蒼雷は特別だよね? なんで能力解放のときにしか魔法を使えないんだろう?」
「いい質問だな。俺の能力は元々の俺の実力らしいんだ。あまりにも魔力が膨大すぎて、自分では制限できないから能力の解放時だけという制限。けれども感情によって左右されるから実際のとこわかんねえ」
「へえ~。今は全然魔力感じないもんね」
「まあ。ほぼ0だからな」
「ただ――」
「ん?」
「格好良かったよ! みんなが動けない中、立ち向かっていく蒼雷」
玲はそう言って満面の笑みを浮かべると、蒼雷は思わず顔を反らした。
「あ、有難う」
玲はニコリと笑った後、立ち上がって体を伸ばした。
「さて、私はそろそろ戻ろうかな」
「おう。龍騎さんはいる?」
「いるよ。書斎で仕事している」
「サンキュ!」
蒼雷は龍騎の書斎へ。玲は向かいにある自室へと戻った。蒼雷の部屋を出て左方向。赤絨毯の長い廊下をひたすら真っすぐ進み突き当りにある右側の部屋が龍騎の書斎。扉を二回ノックし、龍騎の声が確認できると部屋の中に入る。
左右には様々な書物が置かれている本棚が並び、部屋の灯りは勿論シャンデリア。そんなこの部屋の奥には、デスクの上で書類を整理している龍騎の姿がある。彼は「蒼雷君か」と言って振り向いた。
「どうも。まずは助けてくれて有難うございました」
蒼雷がそう言って一礼すると、笑顔で右手を左右に振って「いいよいいよ」と応えた。
「で、気になったことがあるんですが、自分の実力や敵の実力を数値で表現できるモノってありますか?」
「唐突だね。まああるよ。と、いうか今はちょうどそれを行っているんだ」
「へ?」
「疾風の玉を取られてしまった時、私の勘は大きく外れていた。ロードゲート先生や、魔法省の大臣の予測では蒼雷君がいれば
「――なんかすみません」
蒼雷はそう言って俯いた。合わせる顔がない。
「あ――そういうつもりで言ったわけじゃ――。こちらとしても不備があったわけだし。
蒼雷は玲の言葉を思い出しながら問いかけた。
「玲が言っていたんですけど、魔法を解いてやると言い残した老人のことですか?」
「そう。スペルダーも相当危険と感じてはいたが、それを軽く凌駕するナニカを持っていた。それに私の
「倒したのは知っていたんですが、魔力を封印していたのは知らなかったです。と、言いますか、
「
「そうですね」
「これを見てくれ」
龍騎は蒼雷に一枚の紙を渡した。その紙には蒼雷、夜炎、玲、
「それがこれですか?」
蒼雷が確認をとると、龍騎はコクリと頷く。視線を紙に戻してまず自分の魔力を確認した。とは言っても神の瞳の状態での魔力のようだ。その数字が450万と記されていた。そして以下はこのようになっていた。
龍騎 800万
夜炎 350万
玲 50万
スペルダー 1000万
天草宗次郎 500万
ザギロス 400万
黒暗寺凶死郎 300万
スターツ 340万
ウリベリス 360万
一般成人 10万
と記されている。
蒼雷はスペルダーの数字を見て驚愕。遠い距離を感じ、能力解放時で魔力の数字だけを見ると、天草宗次郎にも負けていることにショックを隠せなかった。そしてとある疑問を感じる。
「ジェラはどれくらいだったんですか?」
「どうだろうね。ジェラはロードゲート先生よりも遥か上だったからね。スペルダーと比較しても、やっぱりジェラのほうが強い」
「そうですか――だいぶショックですね」
「蒼雷君はジェラを倒した時はものすごく寝ていたよね?」
蒼雷はその問いを即時に返した。あまりにも寝すぎていたから覚えている。あの時はカレンダーもきちんと確認していたから。
「二週間ですね」
「あの時の話は色々な人に聞いていたからね。怒り狂ったようにジェラにトドメを刺したと聞いている。蒼雷君は能力に慣れて復帰が早いのではなく、知らず知らずのうちに制御しているんだよ」
「それなら納得いきますが勝てなければ意味がない」
「そうだね。魔法省も大臣自ら動くことになるかもしれない。アリアス、コレイア、クレイヴァーでは少し難しいと感じたからね。とりあえずは、大臣が選りすぐりのメンバーを用意したいと仰っていたからその方向でいきたいと思うよ」
「分かりました」
「あとはそうだな。こちらで
「候補はあるんですか?」
「一応ね。私や蒼雷君。夜炎君が持っている神の能力を持っている者達を集めてたいと思う。
「色々すみません。恩に切ります」
軽く頭を下げた後、手に持っている魔力の数値が書かれている紙を渡した。
「因みにこの数値ってどうやって算出しているんですか?」
「魔力を数値化できる能力者が魔法省にいるんだよ。あの戦いは映像で魔法省に流れていたんだ。その映像を通じて、皆の魔力を解析していた」
「成程。色々な能力があるものですね」
「まあ鍛錬を積めば何とかなるさ。差はなかなか大きいかもしれないけど、君ならいけるはずだ」
「何とかするしかないですね」
蒼雷はそう言って拳を握りしめた。その瞳には確かな決意が宿っていた。
「ありがとうございました!」
蒼雷はそういって退出した。その後、机に置いていた小型のデバイスから、一枚の紙がプリントアウトされた。そこにはこのような文面が記載されていた。
突然の手紙失礼する。ゲートの魔法により、スペルダーの魔力の封印は解かれた。あんたが仕掛けた魔法を解いた人間は初めて見た。驚いたよ神の能力を無効化にすることができる魔法があったなんて――。しかし、どういう仕組みで解いたかまでは分からなかった。力不足で申し訳ない。ただ、こっちの組織にはありとあらゆる魔法に対処できる人間がいるということだ。引き続きゲートの調査を行う。また、組織の人間は着々と力を蓄えている。果たしてそちら側にいる英雄が鍛錬を積んで勝てるかどうか危うい。奴が覚醒でもしないかぎりそっちの勝機はないだろう。そこでこちらで一人、奴等と行動を共にすることができる人物を手配した。コードネームは【ブリザード】。彼女を含めてこれからは四人で行動させたほうがいいだろう。報告は以上だ。また何かあれば連絡する。【シルバーソウル】より。
「ブリザードか。聞いたことはあるが顔は知らないな。何といっても一番驚くべきことは私の魔法を解くことができる人物がいることだ。はったりではなかったのか」
龍騎はそう言って爪を噛みながら書類を眺めていた。
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