第296話 対決

「さて、色々予想外の事が起きたな。置いてきたのはダミーロボットだったとはいえ、上位機種だったはずだが、なすすべもなかったな」


「攻撃許可が間に合わなかったというのもありますが……ただ、センサーは働いていたので状況の分析はある程度できています」


「あの個体は予想よりだいぶ強力なようだが、現在のアバターで勝てるかね?」


「単体ならともかく、本艦の援護があればほぼ負けは無いかと。最悪の場合、惑星自体を危険生命体が存在する惑星として消滅させれば問題ありませんので……そもそも提督が変に一地域とはいえ、現地代表者の称号を引き受けるからややこしくなるんですよ」


 少し不機嫌そうにユキカゼは言う。もし自分が現地代表者の地位を引き受けてなかったら、この案件は十分に報復案件としての要件を満たす。国の代表者が攻撃してきたわけだから、ヴィレッツア王国の時のようにその国に攻撃をするのは連邦では当たり前のことである。

 だが、今現在、魔族の代表者は自分である。このザーラバムと名乗る人物は、今のところ私を排除しようとした個人のテロリストに過ぎない。組織として動いてないのである。そして私はまだ生きている。つまりは国の代表者は自分ということになるため、求められる対応は鎮圧だ。

 しかし、面倒だなと思いつつも、どこかほっとしている自分がいた。危険生命体存在地域として、惑星ごと消滅という選択は、この世界に転移した直後ならともかく、今はしたくない。


「それはすまないことをした。だがそのおかげで多少ぬるい対応は許されるようになるだろう?」


「それは否定しません。では、鎮圧のため直ぐに降下されますか?」


「そうだな。ちなみにあの皇帝を生け捕りにするとなると、難易度がどれぐらい上がるかね?」


 ユキカゼは一瞬考える。


「確かに難易度は上がりますが、今回は本艦の援護もあるため許容範囲内かと。然しどうしてわざわざ彼を生け捕りにするのでしょうか?」


「うーん。これといった根拠は無いんだがね。彼は魔法に詳しそうだろう。魔族が神徒というものを呼び出すときに使っていた魔法。あの原型を知っているかもしれないと思ってね」


「なるほど。提督の勘には従いましょう。それならば情報を仕入れやすくするために、彼の心を折る必要がありますね。提督は何か作戦でも」


「いや、作戦というほどのものはないな。強いて言えば相手のすべての攻撃を受けきるぐらいか。あの手の者は自分が傷つくより、相手を傷つけられないということの方が応えるだろうからね。後は臨機応変といったところか」


「それはそれで、実に提督らしい戦いだと考えます。それでは降下準備を始めます」


 そう言うときびきびとした動きで、ユキカゼは艦橋を退出する。その後にコウも続いていく。



「さて、道案内は居なくなったが、あの丘を探索するか。これ程の希少金属の塊だ。我とて流石に他人任せにはできぬな」


 そう言ってザーラバムがシリウス号の方へ行こうとすると、前方の地面がリング状に光る。それが2mほど上に移動するとそこには再びコウ達が立っていた。


「ほう。あの攻撃を避けたか……いや、装備が若干違うな。先ほどのは影武者だったか?」


「確かに影武者といえなくもないかな。ところで念の為に聞くが穏便に話し合う気は無いかね? 場合によっては後の物を譲っても良い。君達にとっては貴重な物だろう?」


 コウの自分達を格下に見た態度にダラグゲート以外が腹を立てる。


破滅の黒球ルーインド・ブラックボール


 その場から飛び下がり、問答無用とばかりに先ほどの魔法を唱える。4将はザーラバムの動きについていけたが、ダラグゲートはついていけず、黒い球体に飲み込まれてしまう。悲鳴すらもあげることはできなかった。


「ついてない奴だったな。まあ、その程度の奴だったということよな」


 ザーラバムは味方を道連れにしたことに良心の呵責など覚えなかった。だが、黒い球体が消えた後、そこには変らずコウ達と、その下にうずくまるダラグゲートがいた。先ほどと同じく地面がえぐれているが、コウ達の回りだけ地面がある為、浮いている地面にコウ達がいるように見える。


「破壊という現象そのものを具現化させたものか。本来なら巨大な質量が本質で、破壊はそれに付随するものなのだが、そこまでは理解できなかったみたいだな」


「はい。異常な重力波は観測されませんでした。ですので、通常のパーソナルフィールドを強化すれば十分でした。半面、反重力フィールドは役に立ちませんが」


「よくこれであのブラックホールを消せたもんだ。その辺りはやはり物理法則が違うのかね?」


「恐らくは。強力な魔法が物理法則を捻じ曲げるのか、元々の物理法則が違うのかは検証不足ですが」


 コウ達は完全にザーラバムなど眼中にないかのように話している。


「おのれ、無礼者めが!」


 そうザーラバムは叫ぶと今度は巨大な氷の槍がコウ達を襲う。しかし、それはマリーの巨大な盾に防がれた。天から落とされた雷はサラの巨大な剣に吸い込まれる。炎で包んでも何か透明な壁のようなものがあり、燃やすことが出来ない。

 いつも間にか、ザーラバムは肩で息をしていた。


「そろそろネタ切れかね?」


 コウは小馬鹿にしたように言う。


「ふざけおって。お前たちは強力な防御魔法が使えるようだな。だが、他の地ではともかく、この場所の利は我の方にある。この地はマナに満ちている。我の最強の魔法でもってそなたを殺してやろう。「隕石召喚メテオ・サモン


 この魔法は潤沢なマナが無いと行えない魔法だ。メテオストライクよりも遥かに巨大な隕石を召喚し、相手にぶつける。正確な狙いが定められないのが欠点だが問題はない。なにせ、衝突と爆発で直径1㎞上のクレーターができるほどなのだから。


 空から落ちてくる隕石をみて、コウたちは初めて驚きの表情を浮かべた。

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