第250話 レファレスト王との密談1
部屋の中にはいつの間に移動したのか、レファレスト王が座っていた。そして、それ以外は宰相であるバナトス以外誰もいなかった。護衛の1人もいない。
「表向きは丸腰とはいえ、一介の冒険者に対して少々油断が過ぎるのではないでしょうか。下手したら殺されかねませんよ」
コウはそう話を切り出す。
「ふむ。そなたらが一介の冒険者なら、私などただの人間であろう。好きな時に首が取れるのだ、警戒するだけ無駄というものであろう。それよりも此度の招待に応じ、その上こちらの意図を組んで行動してもらったこと、感謝する。褒美は望むままにと言いたいところだが、そなたらはそう言われても喜ばぬだろうな」
「まあ、そうですね。正直言うと今回の招待に応じたのは、好奇心によるところが大きいですから」
コウの無礼ともいえる態度と言葉に、隣のバナトスが何か言おうとするのを、レファレストは手で制す。
「これから先は彼らと個人的に友誼を結びたい。すまぬが宰相は席を外してくれぬか」
レファレストがそう言うとバナトスは一瞬何か言いたそうな表情を浮かべるが、黙って一礼をし部屋を去っていく。
「すまぬな。彼は優秀な官僚なのだが、いささか融通が利かぬのが玉に瑕でな。とは言ってもそなたらのような常識外れの冒険者のパーティー相手でなければそつなくこなすのだが。ところで、立ち話もなんだし、座ってはいかがかな。それとこの部屋は密談に使う故、酒はともかく料理は大した物が無い。そなたらの持ちこんだものに期待したいものだ」
そう言ってレファレストはコウ達にソファーに座るように勧める。コウ達はレファレストの正面にコウとユキが、そして左右にマリーとサラが座る。見ようによっては国王1人をコウ達が囲んでいるようにも見える。
コウ達が座るとレファレストは棚の中から見るからに高そうな瓶に入った酒を取り出すと、それぞれの前に1本ずつ置いていく。コウもそれに合わせて、高ランクのモンスターで作った料理を並べる。
「収納魔法とは便利なものだな。この部屋でこのような豪勢なものが食べられるとは思わなかった」
「それはどうも。しかし、そのために呼んだわけではないでしょう。真意をお聞かせいただいても?」
コウの質問にレファレスト顎を撫でながら考える。
「質問で質問で返すようで悪いが、我が国の現状、そしてこの度の招待をどう考えているのかを先に聞きたい。当り障りの無いものではなく、そなたら、いや、そなた個人が考えていることだ」
そう言ってレファレストはコウをじっと見つめる。
「そんなに多くは考えてませんよ。そうですね。まず、リューミナ王国には余裕がない。まあ、国の大きさに比例してですが。多少の反乱程度ならともかく、大規模な軍事行動はできない。暫くはできるだけ軍事行動を避けたい。そのために国力を見せつけるための戦勝パーティーを大規模に開き、更に高ランクの冒険者たちを招き、自分の味方であるように諸侯に見せつけた。高ランクの冒険者は単独で戦局を覆し得る。ただ多くの高ランク冒険者が貴国の影響下にあるとなれば、懇意にしている高ランクの冒険者がいる諸侯でも反乱は思いとどまるでしょうからね。
そして、高ランクの中でも有名どころである自分達もそう見えるように期待した。半分賭けで。こんなところでしょうか」
「して、私に利用されると分かっていながら、なぜ招待に応じたのかな? そなたらなら我が国を敵に回しても恐れることなどあるまい」
「先ほども言ったように、好奇心ですよ。賭けにふさわしい賭け金を持っていたのか、はたまた、大陸統一を目前にして気が大きくなったのか……」
コウもまたレファレストを見つめる。しばしの沈黙の時が流れた。そしてレファレストはニヤリと笑う。
「素晴らしい。もし、見かけ通りの人間であったら何がなんでも配下にしただろうな。そなたの言う通り我が国には余裕がない。エスサミネ王国との戦争は表面上は我が国の圧勝であったが、あの兵力差があってのことだ。もう一度同じことはできぬ。いや、無理をすればできぬことはないだろうが、負担が大きい。国のどこかに軋みが起きかねないほどに。反乱が起きたら暫くはクレシナに頼らざるを得んだろうな。
それ故、我が国は盤石であると見せかけるために、このようなパーティーを開いた。高ランクの冒険者を呼んだのもそなたの言う通りの理由だ。
そして、そなたらを招待したのも賭け金に足るものを用意できたと思ったからだ。賭けには違いないが、勝率は低くないとふんだ」
「ほう」
一言呟いて、コウは興味深げにレファレストを見つめる。その姿はもはや冒険者が国王を見る目ではない。言ってみれば先生が出来の良い生徒を見るような目だ。そして姿形は一緒ながら纏う雰囲気も変わっていた。数千万の部下を動かし、数億の命をその手に握った歴戦の司令官。激戦を勝利した英雄。そして、容赦なく敵を葬り去る冷徹な将軍。コウの本当の姿だ。その雰囲気に思わずレファレストは手に汗を握る。
「そなたらも気付いていたと思うが、私はそなたらを探らさせていた。最初は桁外れに強力な冒険者程度の認識だった。その後は気まぐれに現れた神か悪魔かとも思った。おとぎ話に語られる大魔王の配下とも考えた。だがどれも当てはまるとは思えなくなった。
そしてそなたらの正体を矛盾なく説明できる一つの答えにたどり着いた。そなたらはこの世界の、少なくとも私が知るこの世の人間ではない。恐らく異世界からの、しかも我々とは別の発展を遂げた世界の住人。しかも、その世界でも身分がかなり上の者だった。違うかな」
その場にいたものはそれを聞いた後、身動き一つしなかった。レファレストですらも、喉がカラカラだったが目の前の酒に手を伸ばそうとは思わなかった。
長い時、実際はほんの一瞬だが、の後、パチパチと拍手の音が部屋に響く。コウが笑いながら拍手をしていた。
「国王陛下こそ素晴らしい。身分という点では少々この世界に当てはまらないところがありますが、ほぼ正解です。よくその発想にたどり着きましたね。その上で我々が望むものを提示できると?」
「少なくとも私はそう考えている」
そう言って、レファレストは傍らに置いておいた箱の中からある物体を取り出す。それは正立方体のクリスタルの結晶だった。
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