第209話 レノイア教団本部へ
前書き
題名を「出発侵攻」(誤字じゃないですよ)にしようかどうか迷いました……
コウ達は2週間ほどシメルナに滞在した後、レノイア教の教団本部へと向かって出発した。2週間滞在することになったのはいつもの通り料理を買いあさったこともあったが、ブラックオークとワイバーンの解体で2週間かかったからである。
冒険者になってそれなりの月日が経つというのに、“幸運の羽”のメンバーは誰もモンスターの解体ができなかった。正確に言えば、習えばすぐに解体できるようになるのだが、解体が必要になる前に大金を手にしてしまったため、誰も解体の必要性を感じていなかった。それに旅の途中に食べる料理なら既に数年分はため込んでいる。モンスターの解体に時間を使うぐらいなら、美味しそうな店の1軒でも探したほうがましである、という考えがすっかり定着していた。
シメルナから教団本部に向け南西へと真っ直ぐに進んでいく。ここから先はあまり大きな街もないため、街道を無視してコウ達は最短距離を進んでいく。
幸いにして馬が通れないような草木が密集した森や段差の激しい所はなかった。有ったとしても周りに人の目が無ければどうにでもなるのだが。
「明日には本拠地のそばに着きます。妨害などはありませんでしたね」
テントの中でくつろいでいる時にユキが話しかける。
「そうだな。パニルとかいうものが襲ってきた以降はサッパリだな。アムネアから聞き出した情報によると教団の司教と呼ばれる幹部は6人らしいからな。本部の守りに一人は置くとして、もう一人ぐらいは襲ってくるかと思ったんだが......」
「こういう襲ってこない場合の理由として、コウはどう考えてますの?」
マリーが興味津々といった感じで聞いてくる。
「そうだな。本来なら戦力を小出しにする愚を知った、というのが一番可能性が高いんだろうが……」
「コウはそうは思っていないと?」
今度はサラの方が聞いてくる。
「相手が宗教がらみだとなあ。勝つのが目的ではなく、世間に自分達の存在や力を周知させるのが目的だったりするからなぁ。神託の巫女がどういう地位にいるかによるが、もし残った者の内一人と深いつながりがあるのなら、もう一人と本部を餌にして逃げる算段をしてるとか。若しくは神託の巫女と言われるものだけを逃がして、二人で迎え撃つつもりか……
いや、やはりそれはないとは言わないが可能性は低いか。記録を見る限り、神託の巫女だけで教団を再建するのは難しい。もしできるとしたら、バックにそれこそ国か大貴族でもついてないと無理だろうからな。
まあ逆に言えばどっか別の大陸の国や大貴族がバックにいるのなら、そういうこともやるだろうけどね」
「なんで別の大陸なんだ? リューミナ王国って可能性は無いのかな」
「可能性は低いな。あの王様は宗教を利用する面倒くささを知っていると思うね。基本的にこの星は多神教の宗教の一つしかなくて、宗教の名前さえついてないけど、宗派は幾つかあるし、その宗派同士で争いも起きている。問答無用に自分が正しいとか思う奴の扱いにくさは知ってると思うね」
「それはコウの経験談ですか?」
今度はユキが尋ねてくる。
「まあね。正直宗教がらみの案件はとにかく面倒くさかった」
コウはドワーフの名工が作った金や銀を焼き付けた繊細なワイングラスに入れたワインを飲みながらしみじみという。
ちなみに自分の経歴など、自分がユキの人格AIを作成する前の分まで当然のようにユキは知っている。さらに付け加えるのならこのような会話形式のミーティングなぞしなくても、ユキに限らずどのAIでも命令一つすれば、この程度の案件なら数百通りにも及ぶパターンと確率を即座に計算して自分に教えてくれるだろう。
だが確率が高いからといって、それが起きるとは限らない。それに秘密を抱えたまま話さなくてもすむAI達との会話は、コウにとっての楽しみでもあった。しかも美味い食事と美味い酒付きである。これで効率の方を求める者は頭がおかしいとコウは思う。
「まあ、とにかくリューミナ王国が絡んでる可能性は低い。国力的にもどうにでもなる国ばかりだ。それこそ、北方諸国以外を全て傘下に収めたら、戦いもせず降伏する国も多いだろう。貿易を通じてリューミナ王国に親近感を持っている国も多いしな。
ポミリワント山脈と魔の森で、北方諸国から攻め込まれるルートは限られている。ならば、北は守りに徹した方が良い。下手に小細工をして敵対される方が面倒だ。その分南に注力したほうが良い。戦力の集中は基本だからな。
そうやって、実際既に大陸の過半数を手に入れている。残るはエスサミネ王国だけだろうな。ルカーナ王国もまだそれなりの勢力を持っているとはいえ、あの軍の状態からとても数年でリューミナ王国に対抗できるだけの軍ができるとは思えない。
そしてリューミナ王国以外に、北方諸国まで手を伸ばせる勢力は無いといっていいだろう。消去法で北方諸国に何か手を出すとしたら他の大陸の勢力かな、と考えたのさ。
とは言っても手を出しているのなら、という話で、手を出していると決まったわけでもないんだがね」
「巫女が神聖視されていて、生き残ってくれるだけで良いと考えている可能性もありますよ」
ユキが自分が考えていなかったパターンを提示してくる。
「そういや、そんなパターンもあったんだった。正直そのパターンはあまり考えたくないな。それこそ信者を根絶やしにでもしない限り、執拗に攻撃されるからな。しかもその場合は巫女や幹部の連中を殺しても終わらないし……」
連邦ではそこまでやらないが、帝国では反乱分子がはびこった惑星として、消滅させられた惑星があると聞く。帝国は基本的に皇帝がAIを使って管理する監視社会だが、余りにも管理が行き過ぎると社会の発展性が損なわれるため、ある程度の冗長性はあるらしい。どの程度の冗長性があるのかは分からないが、地域によっては新興宗教がはびこる余地はあるそうだ。
ともかく、そういったカリスマの高い人物が中心となった宗教は面倒だ。
「さてと、いい具合に酔ったことだし。明日は答え合わせといこうかね。どうせなら内ゲバを起こしてくれていると良いな。分かりやすいようにほぼ一直線にここまで来たんだから」
コウがそう言うと、皆それぞれ頷き、ベッドへと入っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます