第203話 自作自演
宿の部屋に転送で帰ると、外が少し騒がしかった。恐らく教団暗殺者との戦闘を見た者がいるのだろう。明日冒険者ギルドに顔を出してみよう、と考えてその日は眠った。
次の日冒険者ギルドに顔を出してみると、朝遅めだというのに依頼ボードの前にはまだ大勢の冒険者たちがいた。冒険者たちは数枚の依頼書を見て考え込んでいるようだ。その依頼書とは、とどのつまり昨晩焼き払った場所の調査と原因の特定である。数枚に分かれているのはランクによって調査内容を変えているためであった。
Cランクだと被害があった外縁部の現状調査。Bランクだと内部の現状調査。Aランクは内部の調査及び原因究明である。どれも割り当てられたランクとしては割の良い報酬が提示されている。Cランクの外縁部調査だけなら直ぐに受け手が現れそうなものだが、なぜかここにいる者たちは皆、決心がつかないでいるようだ。ためらっている冒険者たちの一人に声を掛けてみた。
「皆さん、依頼を見て悩まれているようですね。良ければ何を悩んでいるのか教えていただけますか?」
「なにっておまえ、何が起きたか見当もつかず、判断しようがないからだよ。2階建ての家の屋根に上って見たら分かるが、森の近くのかなりの広範囲が高熱で焼かれてるぜ。うわさに聞くドラゴンのブレスも超える惨状のようだし、面積だって、この街がすっぽり収まるぐらいだぜ。
何が起きたのか調べる必要はあるだろうが、もしあんな高熱の炎を出す強力なモンスターがいたら、外縁部だからってCランクの冒険者が逃げ切れるとは思えねぇ。かと言って、放っておいてこの街が襲われでもしたら事だし、街の外で他の仕事中に襲われるかも知れねぇ。
それで今日は冒険者全体が、街の外に出るのをためらってるのさ。この街にはなんでも任せられるようなAランクパーティーが居ないからな」
思ったよりも、深刻な騒動になっているようだ。早々に収める必要があるだろう。コウは無造作にAランク用の依頼書をはがすと、受付へと歩んでいった。
受付で、冒険者カードと依頼書を提出する。
「この依頼を受けていただきありがとうございます。偶然にもAランクの方が来ていただなんて、この街も幸運でした。
依頼内容はこの街の外に突然出現した、焼き払われた土地の原因究明です。昨晩、街の外に不気味に赤く光る大地が見えたのですが、原因が分かりませんでした。今朝早く望遠鏡で調査したところ、かなり広範囲にわたって、高熱で焼かれた跡があることが分かりました。
このような現象は今までに経験がありません。モンスターでしたら一刻も早く退治若しくは撃退が必要ですし、魔法的なもの、若しくは自然現象としても、街に被害が出ないのか調査する必要があります。ですが、ここからでも見える余りの惨状に、皆尻込みをしているというのが現状です……。
報酬は5金貨ですが、これは今日調査頂いて分かった分だけの金額と考えてください。モンスターの討伐若しくは撃退が必要だった場合、又は長期にわたる調査が必要となった場合は、別依頼になります。ともかく、今は近づいて調査をする人間すらいない状態なのです。街の外に出たがらない冒険者も多く、長期間このような状態が続けば、各方面に色々な支障が出ます。どうかよろしくお願いいたします」
そう言って受付嬢は頭を下げる。
「うん、まあ、なんだ。できるだけのことはするつもりだよ」
もう原因も分かっているし、解決済みなのだが、コウとしてはそう答えるしかない。
食事に毒を混ぜられたので、こっそりと街を出て、暗殺者を焼き払って、こっそり戻りました、なんて言えるわけがないし、信じてももらえないだろう。
街の人の重い期待を背負い、昨日戦闘した場所へと向かう。
「うーん。逃がすと面倒なことになったかもしれないとはいえ、こんなに大騒ぎになるとは思わなかったな。ちょっと地表が焦げただけだろうに……」
「そうですね。光学迷彩を施した後、一時的にホログラムで偽装しておくべきでした」
ユキも少し後悔したように言う。
「過ぎちまったもんはしょうがないだろう。コウは何か考えがあるのか?」
頭の後ろで手を組んでサラが尋ねる。
「とりあえずは調査の振りをする。それから後はブラックダイヤモンドを出して教団が何か関わっていることにしてしまおう。どうしてこうなったかは、ぼかしておいた方が良いだろうな。後は勝手にお偉いさん方が判断するだろさ。どうせなら調査を依頼されたら、錦の御旗が手に入るんだがね。
お偉いさんが何もしないとしても、襲われたのは事実だから、教団は襲いに行くけどね」
コウはそう言いながら、ガラス化した地表の一部を拾っていく。調査範囲が半径1㎞円なので、一応街からちゃんと捜査しているように見えるようにすると、それなりに時間が掛かる。一通り歩き終えた時はもう夕方になっていた。本当に幾つかものを拾った以外は歩いていただけだったが。
街に帰りギルドに報告をする。報告を受けるのはギルドマスターだ。
「調査した結果、高温で一挙に焼き払われたようです。また、丁度中心にこのようなものが落ちていました」
そう言って、コウはブラックダイヤモンドを取り出してテーブルの上に置く。
「実は我々は前にレノイア教の司祭に襲われたことがありまして。その時司祭が持っていたのが色違いの、これと同じ形をした宝石でした。それはマジックアイテムで神徒と呼ばれるものを呼び出すアイテムでした。この事件にはなんらかの形でレノイア教が関わっている可能性が高いでしょう。幸いなことにこの宝石の魔力は失われています。昨晩起きたことがこの宝石のせいで起きることは少なくともないでしょう」
「どうしてあなた方はレノイア教に襲われたのでしょうか?」
ギルドマスターは、ごくあたり前のことを聞いてくる。
「それは逆恨みですね。実はバニリス共和国のニルナという都市で、教団が誘拐事件を起こしまして、捜査に協力したんですよ。どうも、その時目立ちすぎて、我々が主体となって支部を潰したように教団内では伝わっているようです」
「それはAランクの方々が協力した以上、目立つでしょうな。しかし、レノイア教が誘拐まで行なっていたとは。胡散臭い宗教集団だとは思っていましたが……公王陛下にも相談して、至急対策を取ることにいたします。できればで構いませんが、その間ここに滞在していくわけにはまいりませんか。場合によっては、教団の調査若しくは討伐を依頼したいと考えているのですが……」
「構いませんよ。あまり長期間は困りますが」
「それは勿論です。勿論滞在期間中の宿泊費はギルドで負担します」
ギルドマスターはほっとした表情を浮かべた。ちなみに余談だが、公王というのはこの国独自といっていい地位だ。都市国家連合で周りより国力が低いため、周りに気を使って国家代表でないときは公爵。国家代表になった時は公王と呼ぶらしい。
それはそれとして、上手くいけば錦の御旗が手に入りそうだ、とコウはほくそ笑んだ。
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