第161話 連合軍結成

 ベシセア王国が各国に使者を送り、その使者が各国に着くか着かないかの頃、リューミナ王国で動きがあることをユキが報告してくる。


「へえ、流石に動きが早いな。ルカーナ王国に内通者がいたということか。予測される軍の規模はどれぐらいだ」


「今までの実績と情報から推測されるに、騎兵が1万~1万5千、シンバル馬の弓兵部隊約千、補給部隊3万~4万と思われます。補給部隊以外に歩兵はいないようです」


 合計で5万前後、リューミナ王国としては大軍とは言えないが、この軍が加わればベシセア王国が負ける可能性はほとんどない。特にシンバル馬の弓兵部隊が大きい。歩兵では追いつけない速度で、有効射程ぎりぎりを保たれて弓を撃ち続けられたら、いくら100倍の兵力があろうとも勝てはしない。破るには騎兵の突撃か、リューミナ王国のものより高性能な弓で対抗するしかないが、ルカーナ王国の騎兵の大部分はやる気がないし、弓の性能はリューミナ王国の方が上である。勝敗は決したようなものだ。


「ヴィレッツァ王国の時と比べると随分と小規模なんだな。これじゃあ、占領とかは難しいんじゃないか」


 サラが疑問を言ってくる。


「占領する気がないんだろうさ、あの王様は。どうせ内乱が起こるような国に関わるぐらいだったら、旧ヴィレッツァ王国の掌握に努めた方がましだと考えてるんじゃないかな。少なくとも自分だったらそう考えるね」


 一気に武力でもって制圧するならともかく、そうでない以上、情勢がころころ変わる内乱が起こりそうな国に関わるのは面倒なだけだ。その上、国土が荒れるため実入りもない。領土を守るために、常時待機させる兵士の負担も大きい。


「他の国はまだ動かずか。まあ、これらの事をこちらのが説明したとしてもにわかには信じられないだろうし、ルカーナ王国の使者待ちってところだろう。とりあえず避難の手伝いぐらいはするか。本来なら結構食べ歩きのしがいのある国だったのにな」


「そうですね。淡水魚の料理の種類がこんなにあるとは思っていませんでした。それに生のものは同じ料理でも、ここの物の方が美味しかったです」


 コウの言葉にユキが賛同する。ユキとしても残念そうだった。


 ザカタン宰相とシウゴ将軍の指揮の下、順調に避難作業は進んでいく。王家に対する信頼があついのか、殆ど混乱は起きていない。更に幸いにもノイラ国が一時的な避難場所を用意してくれ、ヨレンド侯爵家からは食料と援軍の提供をしてくれることになった。ヨレンド侯爵に関しては殆どは王都付近から、移動してきたものだろう。

 そうこうしている内に、キスキア大公国、ウィール王国から連合を組んで、ルカーナ王国に対抗するという連絡と、ノイラ王国も援軍を送るとの連絡があった。

 寄せ集めの兵もあるとは言え、合計で騎兵約5千、歩兵約5万、弓兵約1万、魔導士約3千、補給部隊約1万と言う、このレベルの国家の連合軍としては結構な数が揃う。

 ベシセア王国連合軍は王国の外輪山を降りたところにある、小さな丘に本陣を置きルカーナ王国を待ち構えることにした。

 本陣を置いた二日後、角笛の音がする。遂にルカーナ王国軍が来たか。と身構えるが、聞こえてくる方向が違う。地平線から現れたのはヨレンド侯爵率いるリューミナ王国軍であった。ヨレンド侯爵家とリューミナ王国の旗がはためいている。近づくごとに分かる軍隊の規模、一糸乱れぬ練度の高さ、そして巨大なシンバル馬の迫力に、味方の士気は上がっていく。

 近くまでくると数頭の馬が本陣へと向かっていった。ヨレンド侯爵の一行だ。


「パチルウェン陛下。開戦前に間に合ってよかった。この度は何とおくやみを述べれば良いか。ですが、メヴィド王の仇は必ず打ち取ってみせますぞ」


 ヨレンド侯爵は本陣に着くと、そう言って一礼をする。


「ホプワン様にそうされると、なんだか面映ゆいですね。昔みたいにパチルウェンで結構ですよ」


 ヨレンド侯爵のフルネームはホプワン・ラス・ヨレンドと言う。侯爵領は元々東方諸国の一国で、ベシセア王国よりも大きな国だった。リューミナ王国に降ってからも、離反した貴族以外の領土を残されたヨレンド侯爵領は、ベシセア王国よりも大きかった。更にヨレンド侯爵家とベシセア王国は姻戚関係にあることと、今のヨレンド侯爵が丁度10歳年上の事もあり、何度かパチルウェンは小さい頃遊んでもらったことがあった。


「おお、ホプワン殿も来られたか。一族勢ぞろいとまではいかぬが、心強いな」


 そう言って現れたのはウィール王国国王だった。元々東方諸国は周りの大国に対抗するため、互いに婚姻をして絆を深めている。皆親戚のようなものだった。


「ホプワン様お久しゅうございます。ホプワン様がリューミナ王国に降る判断をした時に反対し、独立した私の判断を今は恥じ入るばかりです」


 そう言って頭を下げるのはキスキア大公だ。


「過ぎたことです。さて、斥候によると今しばらくルカーナ王国軍が来るには時間が掛かるとの事。今はしばしの休息を楽しみ、英気を養いましょう。なに、物資についてはたっぷりある故、遠慮はいりませぬぞ」


 もうすぐ戦争になると言うのに、若しくは戦争になるからか、その夜遅くまで連合軍は騒いでいた。



 その頃ルカーナ王国軍は予定の半分ほどしか行軍できていなかった。理由は馬に乗れない国王のために特別に拵えた輿ですら、揺れるから気持ちが悪くなる、と国王がたびたび休むからだ。糧食はただでさえ少ないのに、予定以上の量を消費している。

 末端の兵の中には行き渡らない者もおり、少しずつではあるが既に脱走兵が出始めていた。諸侯も見て見ぬふりをしている。元々裏切るつもりのものは、敵が減るのを喜び、そうでないものですら、自分の連れてきた兵に対する食糧を気にし始めたからだ。



「これで、ルカーナ王国が勝ったら、自分は軍人を辞めて旅に出る……」


 ルカーナ王国軍の様子を映し出した画像を見てコウが呟く。


「今も似たような状態ではないですか。ですが、もしコウがそうなさるのであれば、軍艦の人格AIではなく、ただのアンドロイドとしてお供させていただけないでしょうか。これの勝敗予測を外すようなAIは、存在意義がありません」


 ユキがここまで言うのは初めてではなかろうか。生存確率0%、と言った時ですらこんなことは言わなかった。


「その時はあたいも連れていってもらっていいかな。ユキと同じく役立たずってことで……」


「そんな、仲間外れは嫌ですわ。私も同じく役立たずということで結構ですから、ご一緒させてくださいまし」


 サラとマリーもユキに同調する。


「そうだな。天然物も多く買ったし、オークションにでもかければ、元の世界に戻っても、2、3百年は遊んで暮らせるだろう。この世界では辞表を出す相手がいないのが、残念でならないがな」


 そう言ってコウは力なくうなだれた。

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