第95話 リンド王国

 リンド王国の王都、コトゥニアは巨大な地下空間の中にある。そしてその入り口も巨大だった。切り立った崖の下に、今は開けっ放しになっているが、入り口には高さ10m、横幅は片方だけで5m、厚さは2mの両開きの石でできた扉がある。自分たちならともかく、幾らドワーフが力持ちと言えど、何かの仕掛け無しでは動かせない大きさだ。一度閉めてしまえば、この世界の攻撃力では、並大抵の事では壊せまい。


 巨大な門の前には、門番の詰所のようなものがちょこんとある。何と言うか、それは掘っ立て小屋のような感じで、門の立派さに比べて酷く貧相で、場違いのような感じを受ける。並んでいる者の姿はいない。おそらくドワーフ自体があまり地下から出ないのと、最近は行商自体が少なくなっているからだろう。

 自分たちが近づいていくと、やる気がなさそうなドワーフの兵士が小屋から出てくる。心なしか自分たちが知っているドワーフよりも痩せてる気がする。自分たちの格好を見ると訝しげな視線を向けてくるが、これはもう慣れたものだ。


「人間たちの冒険者が来るのは久し振りだな。身分証を見せてもらおう」


 コウ達が冒険者ギルドカードとリューミナ王国国王の親書を見せると、態度があからさまに変わる。


「失礼しました。リンド王国国王ウォルガン陛下より最優先でご案内する旨を仰せつかっております。引継ぎをします故、しばしお待ちを」


 そう言って出てきた時とは打って変わって、きびきびとした動きで小屋へと入っていく。暫くすると、ヤギとポニーの中間のような、それでいて足の太い頑丈そうな動物にのって、先ほどの男が現れた。


「私は、第3警備隊隊長フィーゴというものです。お見知りおきを。今から先導して案内いたします。地下は迷路のようになっている部分もありますので、あまり外れないように付いてきてください」


 そう言って、先導し始める。その動きは先ほどのやる気のない男とは同一人物だとは思えない程だった。


「コウ殿、道中は大丈夫でしたかな。ああ、いえその、お姿を見れば体は大丈夫だったのはよく分かりますが……。その、なんと言いますか、荷物を持っておられないようですので。もしかしたら奪われたとか……」


 先導しながら少し言いにくそうに、フィーゴが尋ねてくる。何をしに来るかまでは聞いていても、自分たちの能力については聞いていないようだ。リンド王国の国王は冒険者の事情を考慮しているのか、それとも細かいことは気にしない性格なのか悩むところである。


「自分たちは、全員収納魔法持ちなんですよ。ですので、物資は一つ残らず運んできています」


「おお、なんと!全員収納魔法持ちとは。リューミナ王国国王陛下は随分と貴重な人材を遣わしてくださったのですな。ウォルガン陛下もお喜びになるでしょう。両国の絆もこれを機に深まるやもしれませんなぁ」


 フィーゴは見てわかるほど上機嫌になる。


「いやー、最近は飯はまだしも酒すら配給制になってしまってましてな。まあ、それは致し方ないとは言え、量が目に見えて減ってきてましてな。みんな不安がっておったのですよ」


 飯よりも酒が減る方が不安なんだ……。そうコウは突っ込みたくなる。


 進んでいくトンネルはかなり広い。自分たちのシンバル馬が並んで苦も無く進んでいくことができる。地中だというのに、暗くはなく、晴天並みとはいかないまでも、曇りの日ぐらいの明るさがあった。トンネルの壁全体が光っているようだ。ダンジョンと同じ技術だろうか。


「トンネルの中の明かりは何を使っているのですか?」


 好奇心に駆られて聞いてみる。


「ああ、それは特殊な鉱石を埋め込んでおるんですよ。細かい理屈はよく分かりませんが、周りのマナを吸い取って光に変えとるらしいです。この辺りはただの通路なので、質の悪い物しか使われておりませんが、王都は建物に高品質なものが使われてましてな。特に王城は黄金に光り、幻想的な景色ですぞ」


 うーん。なんか趣味が悪いような気がするが、見てのお楽しみと言ったところだろうか。


 取り留めのない話をしつつ、一行はトンネルを進んでいく。基本的に本道ともいえる大きなトンネルを通っているのだが、時折、細い方のトンネルに曲がることもある。

 鉱物の採掘の関係上、脇道の方が自然に大きくなったトンネルや、逆に岩盤の強度上本道が大きくできなかったトンネルだそうだ。これは確かに普通の人間だったら案内が無ければ迷うだろう。


 鐘二つ分も進んだだろうか、トンネルを抜けると目の前に広大な地下空間が現れる。明々と照らされた空間はとても地下とは思えない。壁には住居が並び、空中回廊が蜘蛛の巣のように張り巡らされている。

 そして地下空間の下には広い、エメラルドグリーンに光る地底湖があり、その中心に黄金に輝く城があった。フィーゴが自慢するだけあって、確かに幻想的な風景である。成金趣味の金色にきらきら光る城を想像していただけに、予想外だった。


「ほう」


 コウは思わず声を上げる。


「驚いていただけたようで何よりです。さあ、もうすぐですよ」


 そう言って、また先に進み始める。

トンネルから先は巨大な空洞に沿って螺旋状の広い道が続いている。勾配は急ではないが、空間が巨大なため、丁度1周すると空洞の底まで着くことができる。城も360度眺めることができた。

 城はたくさんの塔があったが、それぞれが違う者が作ったのか、みな違う装飾、形をしている。それでいて、雑多な感じはなく良くまとまっており、ぐるりと回って下に降りている間見続けても、次々に違う姿になり、見飽きるということがなかった。

 下に降りると、湖までに広い石畳の道路があり、そこから先、湖の上には立派な石橋が架けてあった。湖の周りは街になっている。これはあまり高い建物がない以外は地上の街並みと似ていた。

 

 コウ達はフィーゴ先導の下、橋を渡り、城にたどり着く。城はトンネルの入り口ほどではないが、巨大な両開きの石造りの扉だった。フィーゴが両端に立っていた兵士に声を掛けると、


「開門」


 という大きな声と共に、ゴゴゴゴゴっという音を立てて門が開いていく。コウ達は促されるまま中に入っていった。

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